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モロカイ島の風


気づけば関わってもう5年になる『ハワイスタイル』。最新号の52号が年末に発売に(ぜひ読んでくださいね〜)。

51号からあれこれと連載を新しくして担当させていただき、今までと違う刺激を受けている。今号で一番刺激を受けたことは、モロカイ島のエッセイを担当したこと。

モロカイ島在住のアーティスト、山崎美弥子さんにエッセイをご依頼し、原稿を拝受。一人目の読者としてエッセイを読み、鳥肌が立った。内容が素晴らしかったことももちろんある。島での暮らしが目の裏に浮かぶようだった。そしてもう一つ、鳥肌の理由は、


わたしのやりたかったことはこれだ。


と思い出してしまったから。自分の名前で文章を書くこと。どの媒体に載ろうとも、自分の文体で書くこと。

わたしは長年職業ライターをしているから、いろんな文体が書ける(自分で言うのもアレだけど)。女性っぽく、男性っぽく、いろんな柔らかさや硬さだったり、いろいろとリクエストに合わせて書いている。

それが職業ライターのやることだから。雑誌やメディアには書き手として名前が載っているけれど、それは署名原稿とは違って、その雑誌の人として、その本の人として、そのメディアの人として書く。

赤入れをかなり受けた場合は、自分の名前で世の中に出ていても、それはもう自分の原稿とは思わない。その媒体に都合のいいように整えられた原稿だと思って、世の中に出た後のそれを見る。そんなワケだから、わたしは匿名原稿をずっと書いてきている。


モロカイ島の暮らしが、署名原稿で、美弥子さんの言葉で、ググッと心に届いた時、「あーーーー」と言葉がもれた。感動と身につまされる思いが混ざった言葉。そして、頭のイメージの中にモロカイ島の風が吹いたような気がした(残念ながら行ったことがない島だけれど)。優しい風じゃなくて、ほおに強めに当たる風。荒っぽくて自然のままの風。


それを思い出したからといって、風がほおに吹いてくるからといって、別に明日から転職をするわけではない。この暮らしは続く。そうだけど。大切なものを思い出せたなと思った。


ライターであると同時に、わたしは編集者でもあり。編集者って言ってみれば、調整役。滞っているところがないか、誰かがイヤな思いをしていないか、交通整理の黄色い旗を振って、「こっちですよー」「大丈夫ですかー」「何かあったら言ってくださいねー」といろいろ気を遣っている。

そんなスタンスが原因かどうか知らないけれど、編集者だからといって、そんな不満をぶつけられても、、とか、何でも言っていいと思っているのか、、というような言葉が集まってくることも多々。これはわたしだけでなく、多くの編集者仲間が感じているところだと思う。自分の基本的な編集や執筆などの仕事の他に、こういった対応にめちゃくちゃ時間が取られることもあり、対労働時間で言ってしまえば、破格の仕事だ。


あれ。なんの話でしたったけ?

そうそう。署名原稿をいつか書きたい話でした。この調整役は、「スケジュール」という魔物か荒波みたいなものに対して、波打ち際に立って、スパパパッと旗を振り続けるもので、そこに、ライターとして締め切りあっての原稿書きも加わる。

いっぽう、署名原稿を書くことは、深い海に潜るような作業と思っていて、それは例えば、こういったブログであっても、落ち着いている時間でないと書けない。深い海に潜りながら、旗を振れるかというと、そうではなくて。多分それをやると、重力か浮力に負けるか、物理的に死んでしまう。


いま、取り急ぎ、わたしに求められているのは、波打ち際で旗をふる方だろうし、それはできることだから、しばらく続けてみるけれど。5年後でも10年後でも。それがたった1つだけの媒体や場所、たった一人だけからでもいいから、「椎名さんに書いてほしい」と言われて書くことがあったらいい。そんな人になっていれたらいいな。


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思いがけず、新年の抱負のようなブログになりましたが、今年は、個人的なブログはこのnoteで書いてみようと思ってます。

makana pressとしての仕事のご紹介は引き続き、HPにて。仕事用のHPなのに、なんだか個人の思いを時を語る場所にしてしまっていたことが気になり、切り離してみることに。ちょっと、このスタイルで今年はやってみます。











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