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消えたろうそく

ふうっ。

その日は誕生日だった。とはいえ、いつもと何ひとつ変わらない日常。良くもなければ、悪いとも言えない、自分としては特記することもないような繰り返される日々。うんざりするほど退屈でもなく、公私問わず何かしら起きる小さなアクシデントとともに、少しずつ変わっていく毎日。誕生日だからといって、ケーキを買うわけでもなく、プレゼントを貰うわけでもない。祝う人がいるわけでもない。ただ、淡々とひとりでやっている。過ごしている。投げやりなのか、と聞かれれば、それほど手荒に扱っているとも思わないが、丁寧かと言われると、目の前の洗濯物の山から目を背けたくなるような。まあ、こういった調子。行ったり来たり、ゆらゆら、地面に吸い付くみたいに移動して。そうそう、今日はバースデーだったのだ、と一昨年くらいに自分で買ったくまのぬいぐるみを視界の隅に入れながら、思い返す。里帰りをしたとき地元のイオンで暇つぶしをしていたら、なぜか惹かれて衝動買いしてしまった。特別後悔もしていない。こいつは、目が左右非対称でかわいい。連れて帰ってきたのも、なんか良かった。そのときに一緒にいた親友が、なかなか丸々としていたのを思い出す。幸せにやってるんだろうな。など、ぼんやりとよしなしごとを考える。そんなことをしていると足先が冷えてきたので、お風呂を沸かしに立ち上がる。脱衣所に入れば、水回り特有の軽いカビ臭さを感じる。ま、これから、冬だし。じゃあ、ちょっと長く湯船にでも浸かったら、あったかいものでも物色しにコンビニに行こうかな、それとも自販機で何か買おうか。と、迷ったが、おうちにあるのでいっか、湯冷めしちゃうし。と思い直して、赤い蛇口の栓を勢いよくひねった。

どうも〜