萩原朔太郎「月蝕皆既」

かさなれば冷たい影のよにわらう。
わたしの分だけ足りないあなた。

(前橋ポエフェス_2014)

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「月蝕皆既」

みなそこに魚の哀傷、

われに涙のいちじるく、

きみはきみとて、

ましろき乳房をぬらさむとする。

この日ごろつかふことなく、

ひさしくわれら靈智にひたる、

すでに長き祈祷ををへ、

いまみれば月も皆既なり、

魚の性はせんちめんたる、

みよ、うみはみどりをたたへ、

肉青らみ、

いんいんとして二人あひ抱く、

齒と齒と合し、

手は手をつがひ、

もつれつつからまりにつつ、

いんよくきはまり、

魚の浪におよぎて、

よるの海に青き死の光れるをみる。

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