満島エリオ

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満島エリオ( https://note.mu/eriomitsushima )の小説用アカウント。連絡はこちら eriomitsushima@gmail.com かTwitterにお願いします。ヘッダー&アイコン画像はこちらからhttps://images.nasa.gov/

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  • 正しい恋の終わり方

    好かれてるのに気づかないふりをしたり。 好きになっちゃいけない相手を好きになったり。 好きなのに別れちゃったり。 恋って変なことばっかりだ。 * 恋人から唐突に振られた咲生(さき)。 講師と不倫関係にある友人。 たった数年で離婚してしまったバイト先の店長。 間違いだらけの「好き」に触れていくうち、咲生が見つけた「正しい恋の終わり方」とは――

最近の記事

正しい恋の終わり方 9(完)

9/エンディング 時は流れ、春が来る。 当然のように。 * 春休み入る直前、私は一馬と直接会って、ごめんなさいをしてきた。 「わかってた」と一馬はいい、照れたように笑った。「でもちゃんと結論が出てよかった」と言った。 私はこの、私が選ばなかった優しくて誠実な人にもうなんと言ったらいいかわからなくて、とっさに出そうになったごめんなさいの代わりに、ありがとうと言っておいた。 * 裕也からは、香苗さんと別れた、という連絡が入った。 裕也と香苗さんとの間でどんなやりとりがあっ

    • 正しい恋の終わり方 8

      8.水曜二限。 後期最後のイタリア語クラスで、私は裕也を捕まえた。 二人共通して取っていたクラスだけど、ここ最近はナチュラルに無視されていて、理由がわかっているから私も無理に声をかけられなかった。 でも今日は違う。 授業が終わり、私をちらと見て、でも何も見なかったような顔で教室を出ようとした裕也のマウンテンパーカーのフードをむんずと掴む。 「待って」 「……なんだよ」 裕也はいかにも「余計な話を聞きたくない」という顔で振り返った。 「めんどくせー顔すんな。聞け」 「……

      • 正しい恋の終わり方 7

        7.『咲生がさっちゃんて、やっぱり全然似合わないよな』 猫が笑うみたいにきゅっと目を細くして、いつかの雄介が笑ってつないだ手に力を込めた。 * 目を覚まして呆然とした。 夢の中で初めて、雄介が私に笑顔を見せた。 どうして笑うの。今までずっと、重苦しい顔をして去っていくだけだったのに。もう二度と、そんな顔をして私を見ることはないくせに。雄介。私の手の届かない場所で、いつまでも苦しんでよ。 時間は九時を過ぎたところだった。午前の授業に出るために、そろそろベッドを出なければ

        • 正しい恋の終わり方 6

          6.一年生の九月のこと。 接客が向いていないことを痛感しながらのアルバイトは本当につらくて、バイトのある日は毎回、吐きそうなほど憂鬱だった。 店長の三城さんは優しいけど何を考えてるかいまいちわからないし、キッチンの豊田さんはいつも仏頂面で「皿」「会計」とか、単語しか話さない。 「アンティークな雰囲気がいい感じの店☆」なんてイメージで選ぶんじゃなかった。入ってからひと月たって仕事は一通り覚えたけれどようやくミスをしなくなったという程度で、「お客さん目線で愛想よく」なんてとても手

        正しい恋の終わり方 9(完)

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        • 正しい恋の終わり方
          満島エリオ

        記事

          正しい恋の終わり方 5

          5. 夢を見た。 暗い世界で私はあちこちに小さな傷のある右手と手をつないでいた。けれど気づくとその手は消えていて、私は空っぽの左手を呆然と見つめた。 音楽がしてぱっと振り返ると、今度は左手は三城さんに、右手は裕也につながれていた。三城さんは反対の手で山県さんと手をつないでいて、右を見ると裕也の向こうには香苗さんが、さらにその向こうには、顔のないのっぺらぼうの男の人が見えた。 私たちはルファルの店内でよくわからない歌を歌いながらぐるぐるとまわり始めた。回りながら、ふと気づくと山

          正しい恋の終わり方 5

          正しい恋の終わり方 4

          4.友達と先生、知っている人同士の不倫という、身近に降って湧いた問題を私はどう受け入れたらいいのかわからなかった。 裕也はそれでいいのかと思うし、名前も知らない香苗さんの夫のことを考えると私は勝手にやりきれない気持ちになる。講義で大教室の後ろから見る香苗さんは相変わらず溌剌とした女性で、どうしたって「不倫」という言葉とうまく結びつかなくてもやもやした。 他人事、と言ってしまえばそうなのだろう。けれどその他人事は私の胸の中でもやもやとわだかまって、いつまでもうまく消化できなかっ

          正しい恋の終わり方 4

          正しい恋の終わり方 3

          3. あれはそう、二年生になったばかりの、五月か六月のことだった。 政治学部の同じ授業を受けていた私と裕也は一緒に大学を出ようとしていた。 『うわ、かわいい』 そう言ったのは、校門の前にパステルグリーンに白いラインのミニクーパーが停まっていたからだ。 『こんなとこ停めたら迷惑だろ』 『大学の人のだよね。すごい、珍しい色』 人の車の前で勝手なことを話していると、男子学生を一人つれた女性が、それぞれ段ボールを抱えて歩いてきた。 あの人は学部で何度か見かけたことがある。教授

          正しい恋の終わり方 3

          正しい恋の終わり方 2

          2. 雄介のことに加え一馬もことも考えなくてはならなくなった私の気分はその日、雨に追い打ちをかけられてはっきり言って最悪だった。実際、他人にへらへら笑顔を向けられるような状態ではなかったが、そんなことに負けるのは無駄に高いプライドが許さない。髪も服も決まらなくて落ち込みを通り越して苛々しながら、それでも家を出てバイト先に向かった。 私のバイト先は、大学と実家の間の駅にある、『Le phare』というレコードでBGMを流しちゃうようなアンティークな喫茶店だ。と言っても歴史は浅く

          正しい恋の終わり方 2

          正しい恋の終わり方 1

          0/オープニング 『ごめん、もう、無理だ。ごめん』 よく知っていたはずの、だけどほんとは全然知らなかったのかもしれない、きみの声。 私は何度も再生ボタンを押してしまう。心臓をえぐられるような痛みを感じながら、それでもその傷に消えるなと念じて、自分の胸にナイフを突き立てる。 1. 「ようするにさ、あたし一人が盛り上がってただけで向こうからしたらとっくに終わってたらしいんだよねえ」 芳川一馬と歩く、新宿南口・サザンテラス。時間は二十三時を回ったあたり。たぶん。年が明けたばか

          正しい恋の終わり方 1