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おやすみまでの120分 11月3日

君の大好きなものなら
僕も多分明日には好き

深夜12時半を回った頃、マスクをつけて、イヤフォンをして、スマートフォンだけ握りしめて、夜道へと出た。

横断歩道、大きなトラックが通り過ぎて、しばらくの沈黙。その隙を狙って、再生ボタンを押した。

日付変わって11月3日。スピッツの新曲『大好物』が配信開始。映画『きのう何食べた?』の主題歌だ。

「スピッツって、まだこんな曲作れるのかよ…」

これまでもずっとスピッツを聴いてきた。こんな日は何度もあった。もう20年ほど前から、高鳴る胸をおさえて、新しい曲を再生することをやってきた。それなのに、まだこんな新しい衝撃を与えてくれるのか。

それが最初の感想だった。

一瞬で心を鷲掴みにする、軽快なイントロ。『つまようじ』なんて可愛い言葉を使いながら、少し不安定な歌い出しの歌詞。自分の人生と照らし合わせて、小さくても確かに自分を支えている思い出やことば、家族や大切な人たちとの日常、あれは愛だったんだと今更気づくこと、なんかそんな愛おしいものたちがふんわりと頭を駆け巡りながら、とにかく耳なじみがよく、綺麗な日本語が身体へと入っていく。まるで、ポカリスエットのように染み渡る。大好きだ。これは、群を抜いて愛おしく、大好きだ。

日本語を大切に扱うスピッツ。『大好物』もまた、キラキラとしたことばの宝庫だ。キラキラとは、決してポジティブに限らなくて、少し傷や影があっても、それはそれでとてもまぶしいような。不確かなところもいいんだよね。ちょっとぐらい不確かで不安定な方が人生っぽい。

で、こんな狭い部屋で聴くの勿体無いからと、私は夜道に飛び出したわけだ。あいにく空は雲が覆ってしまっていたが、そんな不都合さえも演出に感じるほどに曲がいい。

この曲の中には、君と僕が存在する。私は君のことも僕のことも何も知らないけれど、2人が踏みしめてきたこれまでの道のりや、不確かなはずの5年10年先までしっかり感じられるのだ。そこには不安や変化もあるけど、それが人と共に生きる。ということなのかも知れない。多分本人にとっては大したことのない、もう長年生きてきた癖みたいな優しさが滲み出ているようで、時には誰かを傷つけてしまうかもしれないその優しさで、2人の世界がずっと穏やかで楽しいものになっていく。なんかそういうやわらかい愛情が堪らなくて、夜道は滲んで見えなくなった。星空なんて贅沢品はいらなかったね。

映画主題歌ということもあって、耳なじみもよく、穏やかなりにも楽器の入れ方とかに強弱があって、なによりことばがわかりやすい。やさしいことばでこんなに描写できるんだから本当にすごいよ。草野マサムネになれないことがちょっと悔しい。

もう何度聴いたか分からないな。お風呂に入ることも忘れてずっと聴いちゃった。4分の物語にずっと心を揺さぶられてる。今夜はこんな感じだけど、みんなは元気かな?元気だといいなぁ。

君の大好きなものなら
僕も多分明日には好き
そんなこと言う自分に笑えてくる

決して何も起こってない大サビの歌詞がたまらなく好き。

見出しの画像は昨日のお昼のお弁当。ちょっとだけ顔を出してるにんじんが、私の大好物なのです。

大好物/スピッツ

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