夏の後、冬の前


地面をぼんやり

ダラダラと 眼に輝きがなくなるまで

あゆんでいる


クルブシ、それは旅行者、ずっと生きるもの

ゴムと靴のにおい

ツクツクボウシの声はもう弱くなってしまった


金槌は主人がいないので悲しい

コスモスのまんなかのオンパロスみたいに

ヘソの周りをどっしりとアッパクする


ああ パパーイ オイモイ

ああ サツマイモもすでに

色あいが フラ・アンジェリコ

ほられてあらわれてる


くりの林が向こうにあって その中を

乞食、ひどくやせている、がね

犬、ジャコメッティの、みたいに

元気を出して走りまわる


ああ 秋がきたんだなぁー


かつて イケブクロの奥に 畑があってその中に

友人、タナカクニジという、が住んでいた

ヒョウタンに入れるのは 煎じた麦

それといっしょに その辺、野原を、ゲタはいて

歩きまわる頃だ


だけどあらゆるものは去っていってしまう

いうことなんて何にもない ぜんぶ

どっかへ ぐるぐるしちゃう

その白鳥みたいな色した やつと

夜に石油でランプをつけて

いりまめをかじりつつ

ツルゲーネフ、肖像の、を見つめた


              


(西脇順三郎「人類」より「秋」を訳しました。『西脇順三郎詩集 那珂太郎編』岩波文庫1991年を底本としました。)

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