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「おいしい」のグローバルデザイン

料理人付き編集者として付かせてもらっている「The Burn」(東京・青山一丁目)の米澤文雄さんのFacebookで、彼が関わっている「キープ・ママ・スマイリング」のクラウドファンディングが、目標額の100万円をみごと達成した、ということをポストしていました。

今朝(7/25)のNHK「あさイチ」でも特集されたということで、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

「おいしさ」の選択肢を増やす

「キープ・ママ・スマイリング」(NPO法人キープ・ママ・スマイリング)は、病気の子どもや発達がゆっくりな子どもを育てている、お母さんやご家族を「料理」を通じて応援するプロジェクトです。米澤さんは、2014年のNPO発足時から、プロジェクトを支援しています。

僕のような毎日仕事している身では、なかなか気づけないことなのですが、入院しているお子さんに付き添ったり、小児病棟で付き添って暮らしてるお母さんやご家族の方々は、僕が当たり前にしている日々のことが、とても困難な時があります

たとえば、食事。時間がなくて、コンビニや店屋物をで済ませることがあるかもしれません。それが、悪いということではなく、そういった方々にとって「時間がかからず安くておいしいもの」の選択肢があまりに少ないということの方が、考えるポイントなのかな、と思います。

そんなお母さんたちに、「キープ・ママ・スマイリング」のメンバーとして米澤さんが監修したのが、おいしくて、使い勝手のいい缶詰「ミールdeスマイリング」。これを食べて(この缶詰、そのままでもおいしいのですが、調理の汎用性もあって、アレンジメニューが作りやすい!)、すこしでもQOL(生活の質)を上げられれば。本当にすばらしいことだと思います。

それに、「頑張って」や「負けないで」といった励ましの言葉ではなく(ときには、それがプレッシャーになることもあると思います)、周りのご家族がお母さんのために料理を作ることで、素直な感謝や励ましの気持ちを、言葉以上に伝えられるかもしれません。

こういった取り組みを見聞きすると、日々、何の気なしに食事をしていると忘れてしまうのですが、料理は「おいしい」を通じて、どんな人をも勇気づけたり励ましたりできる、何ものでも代替できないな力を持っているのだな、と思います。

料理のオリンピックに出場したシェフの嚥下スープ

料理を食べて生まれる「おいしい」という喜びが、患者さんやまわりのご家族のQOLを向上させる。そんな料理人の取り組みは、あまり知られていませんが、じつはたくさんあります

もう一例を挙げると、兵庫・芦屋の「メゾン・ド・タカ」の髙山英紀さんは、飲み込む力が弱くなって食べることが難しくなったご高齢の方々にフランス料理人の技や知識を使って作る「嚥下(えんげ)スープ」を提案しています。

髙山さんは、フランス料理の世界一を決める2年に1度開かれる料理コンクールで、”料理のオリンピック”と呼ばれる「ボキューズ・ドール」に2度日本代表として出場した、ガチのフランス料理人です。その髙山さんが、すべての知識と技を駆使して作ったスープは、飲み込む力が弱くても食べることができます。もちろん、私たち健常者も食べることができます。そして、誰もが「おいしい」と感じる。

「おいしい」は、一人で食べているときよりも、たくさんの人たちといっしょに「おいしい」と言い合った方が、おいしく感じますよね。これは、脳心理的にも正しいそうなのですが、毎日別々の料理を食べていた、患者さんとご家族のことを考えると、みんなで「おいしい」といえる嚥下スープは、舌だけで感じる味覚をはるかに突き抜けて、このうえない幸せを感じるのではないでしょうか

「おいしい」のグローバルデザイン

置かれた過酷な境遇だったり、身体的な差だったり、病気だったり、肉体的な衰があったとしても、人間は生きている限り「おいしさ」に出会いたいと願うはずです。

例えば、おいしいものは食べたくても、それができないような環境での食事、極端な話をすれば、紛争地域に送る携帯食や、社会復帰を目指す更生施設のような場所にも「おいしさ」を届けられたら、すごいことだと思いませんか?

料理を作るプロであり、技術と知識を豊富にもつ料理人であれば、どんな場面、状況下でも「おいしさ」をデザインすることができます

QOLや多様性が重要視されている現代、料理人が生み出す「おいしい」のグローバルデザインは、これからどんどん必要になってくるのではないかと思ってます。

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