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MAGARI日誌 vol.1 〜 レストランの原価問題から見えた「非日常」の解像度不足

「MAGARI」は、青山一丁目のレストラン「The Burn」で週に一回のペースで行っているポップアップ編集室です。毎回のポップアップで発見したことを「MAGARI日誌」よして書き留めていきます。

レストランの原価問題で“ボヤ騒ぎ”

『月刊 専門料理』2018年11月号に掲載された「5000 円台おまかせコースを徹底解剖 コース全品、原価大公開」という企画が、SNSで話題になったことがあります。

料理雑誌としては、めずらしくプチ(×10)炎上が起こったこともあって、当時は、その動向を興味深くみていました。

だいたいの趣旨は他の業界の人がみて、「レストランの原価は、こんなに低かったのか、ぼったくりすぎだ」というようなものでした。

そもそも、その企画は「原価=材料費」だったので、「原価=必要経費」と捉える人にとっては、難解だったのでしょう。根本がちがうので交わることはないのですが、事態は悪い方に向かって広がっていく(レストランはぼったくりが広まる)のを見て、潜在的に、レストランは「ものを食べる場所」としか見ていない人が多いんだな、と感じ寂しくなりました。

料理人の表現を経営からサポートする

7月11日、2回目の「MAGARI」(青山一丁目のレストランThe Burnでやっている週に一度のポップアップ編集室)を開きました。

その日は、Twitter経由で村上正大さんがMAGARIに来てくださり、The Burnでランチ(この日の僕は、ハンバーガー!)を食べながら話をしました。村上さんとは、この日初めてやりとりをしたくらいの超初対面。それなのに、この行動力はすごい!と思いました。

村上さんは、飲食店の経営コンサルタント会社に務めており、経営の面から、レストランをサポートしたいという考えていることを話してくれました。コンサル会社務めだけど「コンサル」というよりも、もっとレストランの内側に入ってサポートしていきたいという思いは、僕にも通じることがあり、同じ飲食業を良くしたいという同志として、いま自分が考えていることなどを話させてもらいました。

1時間30分ほどの村上さんとの話のなかで、「あるある」ってなったのが「聞いてないよ問題」です。

これについて、MAGARI後も考えてみたんですが、けっこうこれからのレストランにとって大事なことで、かつ、料理人付き編集者がしていくべき、「レストランの解像度」というテーマに繋がったので書いてみたいと思います。

ビジネス現場のあるあるネタ「聞いてないよ問題」

聞いてないよ問題」とは、レストランのみならず、おそらく多くの職場で起こっていること。たとえば、雑誌編集を例にすると

「どうして指示していたものがこうなるの?」

「どうして企画と違う原稿になっているの?」

「どうして読者層と違う企画案が出てくるの?」

みたいな状況が必ず起きるんですよね。そんなとき、たいていの答えがこれ。

「そういうの聞いてません(知りません)でした」

僕は、これを「自分ごとにできていない」からだと思い、情報共有を徹底してきたのですが、なかなかうまく浸透できず、チーム作りでいつも困っていました。そういう状況は、レストランにも多くあるみたいで、その問題を村上さんは、オーナーの立場にたち、経営の手法を使って問題解決をしようとしています。

たとえば、食材の良さを売りにしたレストランで、在庫管理の悪さや食材ロス、原価計算の悪さなどがあった場合、それを現場に指摘すると、「いい食材入れてやるしか聞いてないよ」というという「聞いてないよ問題」が勃発します。

それに対して村上さんだったら、すべての数字を開示したうえで、「ではいい食材を継続して入れるためには、どんなことが必要ですか?食材はこの店のポイントで、そのためには、ロスをなくして、原価は●にしていかないと、他の店と同じになってしまいますよ。決められた範囲内で仕事をするのがプロです。プロの仕事をしましょう」(経営弱いので、具体例が貧弱ですが……)と説明して、その店の強みを維持するためにも、経営的な数字を使って説明しているそうです。

経営的視点を入れることで「食材の良さを売りにしたレストラン」という漠然と、どこにでもあるコンセプトから、「良い食材を使うために、効率のよい在庫管理とメニュー開発をすることで、食材の価値をロスすることなくのお客さまに提供するレストラン」という、めちゃくちゃコンセプトの解像度があがったレストランになるわけです。

つまり、経営によってレストランの個性が可視化されて、よりお店全体がゴールに向かいやすくなるのです。これはすごい。

これは、雑誌編集でもそうだし、編プロでも使える手法なので、ぜひ採用しようと思うほど、貴重な考え方でした。

レストランの価値の解像度をあげていく

レストランの価値を、数字によって可視化するというのは、レストランのすそ野を広げていく、大事なことなんじゃないかと思っています。

というのも、レストランの個性が見えるということは、自分にあったレストランを探すうえでも手掛かりになるような気がするからです。安心して、レストランに行けるという人も増えると思います。

レストランは「非日常を体験する場所」とよく言われます。

その理由は、サービススタッフの出迎えや会話、ワインなどの飲み物の知識や、磨かれたカトラリーに料理が映えるお皿。テーブルの高さや椅子の座り心地、そこに流れる音楽も重要です。トイレの清潔さや、店内の照明、空調の心地よさなど、すべてのことに気配りがされ、料理とともに、その食べるひと時を楽しんでもらおうとしているからです。

レストランは「非日常を体験する場所」であるのは、僕も大賛成です。

しかし、「非日常を体験する場所」は、世の中にいくらでもあります。映画やコンサート、アミューズメントパークはもちろん、スマホのゲームや温泉、山登り、トライアスロン、ボランティア活動、SNSの投稿だって、非日常とも考えられます。

そんな非日常だらけの世界のなかでレストランの価値に気づいてもらうには、「非日常を体験する場所」の解像度をもっと上げていく必要があると思っています。誰にとっての非日常なのか、そのレストランが考える日常とは何か、どんなことで非日常を演出しようとしているのか。そこをしっかりと発信していかなければ、非日常だらけ世界のなかで、取り残されてしまいます。それの解像度を上げるために、数字を活用するのは、効果が高そうです。

日本人は、お金をタブーというか神話化していることが多いんですが、最近は、NHKの「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」みたいに、お金をエンタメにしちゃってるのもあります。僕、この番組好きなんですよね。義務教育で経済という科目がないのは、結構問題だと思っていて……(その話は、また別に)。


「高級=非日常」ではなくなり、「個人個人の非日常」が生まれた今、「レストランでの体験の解像度」を上げていくことが、これから必要になるのではないでしょうか。

料理人付き編集者は、その解像度を高めることを考える仕事でもあると思っています。

料理人付き編集者の活動などにご賛同いただけたら、サポートいただけるとうれしいです!