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Eight Roads Special Seminar    - 株式会社エニグモ CEO  須田将啓氏

Eight Roadsがスタートアップの経営者を招いて定期開催しているスピーカーセッション。4月開催のセッションでは、CtoCサービスの先駆けと言われるソーシャル・ショッピング・サイト「BUYMA(バイマ)」を立ち上げたエニグモのCEO須田将啓氏をゲストにお迎えしました。いまでこそオークションサイトが増え、ユーザーがサービスの維持・価値向上に貢献することは珍しくなくなりました。しかし、エニグモを設立した2004年当時は、業界でも異色のサービスだったことでしょう。

まだ世にない領域で事業を立ち上げ、スケールさせるときに直面したハードシングスについて、リアルなお話を伺いました。

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〔プロフィール〕


エニグモ株式会社CEO
須田将啓氏
慶應義塾大学院 理工学研究科 コンピュータサイエンス修了後、2000年博報堂へ入社。 戦略プランナーとして、大手企業からベンチャー企業まで幅広い領域のマーケティング戦略、ブランド戦略、コミュニケーション戦略の立案を行う。 2004年、同僚の田中禎人氏とともに株式会社エニグモを設立し、共同最高経営責任者に就任。ファッションがテーマのソーシャル・ショッピング・サイト“BUYMA”を成功させ、2012年東証マザーズに上場を果たす。著書に、『謎の会社、世界を変える。 〜エニグモの挑戦(ミシマ社)』、『やんちゃであれ!(ディスカヴァー・トゥエンティワン社)』がある。

■はじまりはサーフボードから 世界170カ国へ


学生時代はコンピュータサイエンスを専攻し、大学院で修士課程を修了した須田氏。博報堂で戦略プランナーとして企業のマーケティング活動やコミュニケーション戦略を支援してきた。

博報堂時代の同僚と立ち上げたのがソーシャル・ショッピング・サイト「BUYMA(バイマ)」だ。2004年にオープンしたこのサイトには、現在世界170カ国に約17万人のパーソナルショッパーと呼ばれる「出品者」が存在する。彼らはユーザーの注文が確定してから現地のショッピングサイトで商品を買い付け、手数料収入を得る。買い付けた商品を「BUYMA(バイマ)」へ出品し、ユーザーへ販売するのだ。在庫を抱える必要がなく、自宅で買い付けから手数料収入の獲得まで完結できるモデルを確立している。

その結果、世界中から良質なアパレル製品を手軽に買い付けることができ、非常に高い利益率を維持している。

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このビジネスのアイデアは、博報堂時代に同僚の田中禎人氏(エニグモ共同創業者)が考えた。

「ある晩、オフィスで残業していたところ田中から『面白いビジネスを思いついた』と声をかけられたんです。田中は、アメリカで300ドルほどのサーフボードが日本では10万円で売られていることに目をつけました」(須田氏)

そのとき田中氏は「アメリカに友だちがいればそのサーフボードを安く買える。世界中にいる日本人をネットワークして商品を買い付ければ、日本にまだない良い商品を日本で手に入れられる」。そこに着眼し、それを仕組み化してビジネスにしたのだという。

■サイトオープン1週間前にエンジニアが夜逃げ

現在は約600億円の商流を生み出している「BUYMA」だが、もちろん最初から順風満帆なわけではない。設立準備をしていた2003年当時、ECにチャレンジする人はほとんどいなかった。しかも、エンジニアも充分に確保できなかったという。

「当時、資金を調達したり人材を確保したりするために、日々様々な方のもとへビジネスモデルをプレゼンしに行きました。ホリエモンにもお会いしましたね。堀江さんはすぐ、『このビジネスは面白い、やろう』と言ってくれたのを覚えています」(須田氏)

結局、様々な事情でライブドアとの協業はとん挫してしまったが、自力で出資先を探し回り、2004年2月に無事設立にこぎつけた。

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▲設立当初の「BUYMA」の画面

須田氏は当時最もつらかったこととして、サイトオープン1週間前になってもサイトが完成せず、最終的には制作会社ごと夜逃げしてしまったことだと、当時を振り返る。

「友人から資金を集め、記念のノベルティもつくっていたのに、すべてパーになってしまいました。サイト開発にかけた資金は1円も戻ってきません。精神的にもかなり堪えましたが、このときの経験からどれだけ設立間もないベンチャー企業であっても誠実に対応しようと思うようになりました」(須田氏)

苦労の末、再出発したエニグモはそれから約1年3カ月後にようやく「BUYMA」をオープンさせる。当時のデザインコンセプトはNBA(アメリカの男子プロバスケットリーグ)。グローバルへの進出を見据え、NBAと同じカラーリングにしたという。

そんな「BUYMA」の初月売り上げは18,385円。右肩上がりで成長したものの7カ月後も、153,947円にとどまり、到底社員の給与をまかなうだけの売り上げにはならなかったという。

「その頃は、ユーザーが欲しいものと、ショッパーから出品される商品がなかなかマッチングせず苦しみましたね。ときには千葉県産のアサリが出品されたりして、アサリの横にシャネルが売ってたら、誰も買わないだろうなと思いました。

次第に、ファッションと親和性が高いことがわかりファッションに特化したサイトへ転換。中でも『アバクロが買える』と評判になり、出品者にはアバクロを仕入れるよう依頼し、広告出稿のキーワードも『アバクロ』で勝負を賭けました」(須田氏)

その後、ソニーから約6億円の調達に成功。従業員も増え、新しい広告サービスも開始して、エニグモは第二創業期に突入した。

■スケールさせることは正義なのか? 第二創業期の悶絶

それからというもの、1年に1つずつ新規事業をリリースしたが、どれも長続きしなかったそう。

「最終的に5つのサービスを展開しましたが、リソースが分散してしまいどれもスケールしませんでした。当時は会社の規模を大きくすることが正義だと思っていて、とにかく売上や従業員数を増やすことに絶対的な価値観を置いてました。予算も、勢いで、前年比2倍の予算にするぞ、みたいな無茶で無鉄砲な数値を目標にしてしまいました。」(須田氏)

その結果、急激な事業・組織拡大が目的化してしまい、売れない商材、売れない営業パーソンが増えてしまったという。組織は内向的になっていき、顧客のためになることに目線が向かなくなってしまったと、須田氏は悔やむ。

「本当は外を向かなければならないのに、自チームの売り上げにとらわれ他チームに情報を共有しない、他の部門を責め立てるといったトラブルが相次ぎ、社内は険悪なムードになっていきました」(須田氏)

そこへリーマンショックが直撃。業績は急速に悪化し、1.7億円の赤字を抱えることになった。そこで須田氏ら経営陣は方針転換。わずか3カ月でリストラ、拠点の撤退、事業縮小、経営陣の退任と次々と施策を断行した。

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このとき定めたのが、現在のミッション、ビジョン、バリューの基にもなっている「ENIGMO7」というコーポレートカルチャーだ 。

「本来、事業はプロダクトと組織の掛け合わせではじめてスケールしていくものです。しかし、当時の僕は良いプロダクトさえあれば事業は成長すると勘違いしていました。こうした経験を踏まえてようやく、より良い組織をつくるにはどうするかを真剣に考えるようになりました」(須田氏)

それからすぐどうにか事業を立て直し、東証マザーズへ上場。大きな波に乗り、グローバルにおけるCtoC市場を牽引する存在へと成長した。その勢いは、いまも止まることを知らない。

〔Q&Aセッション〕

Q1.様々な取引先から裏切られたとき、どのように乗り越えましたか?

A. あらゆる手段を使ってこのサービスを世の中に広めていくんだという覚悟が決まりました。そのとき、それまで自分がいかに博報堂という企業の看板で仕事をしていたのかを思い知らされましたね。名もないベンチャー企業は簡単に裏切られるし、信用してもらえない。そこで吹っ切れて、海外のメディアで取り上げてもらえるようアプローチするなど博報堂の社員ではできないことをゲリラ的にやっていこうと発想を転換できました。

Q2.現在、エニグモの事業はほぼ「BUYMA」に一本化しています。今後、新規事業を立ち上げる可能性はありますか。

A.いまでも社員には「何か良いビジネスアイデアがあったら提案して欲しい」と伝えていますし、実際に優れたプランは事業化するつもりです。

あの頃、新規事業には失敗しましたが、振り返ってみれば当時新規事業を手掛けた社員が、いまの「BUYMA」で中核メンバーになっています。失敗したとしても、残った財産は大きかったですね。

事業拡大で重要なのは「パー、チョキ、グー」の3ステップだというのが、私の持論です。手のひらを開くように事業を次々と広げるフェーズを経て、2本指で数えられるくらいまで事業を絞る。そして、最後は1つの事業にグッと集中する。この繰り返しで企業はスケールするのだと思います。

Q3.マザーズ上場、東証一部上場、それぞれの背景を教えてください。

A.マザーズに上場したときは、シンプルにそのときがベストなタイミングだったからです。ちょうど事業の縮小やリストラが終わり、VCから出資していただいた時期でした。

東証一部に上場したときは、これからも成長し続けられるという確信を持てたこと、それから時価総額500億円を達成したこと。この2つの要素を満たせたことが、大きな理由です。もともと当社には本質的な価値を大事にするカルチャーがあることもあって、時価総額と実態が伴わない限り、東証一部に上場しないと決めていました。

おかげさまで東証一部にふさわしい「格」が身についてきたように思えたため、鞍替えすることを決めました。


■Eight Roads Ventures Japan

Eight Roads Venturesは大手資産運用会社のフィデリティの資金を基に投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。ヘルスケア領域を含む革新的技術や高い成長が見込まれる企業へ、米国、欧州、アジア、イスラエルとグローバルに投資活動を行っています。業界に対する知見とグローバルなネットワークを最大限に活用し、投資先に対してハンズオンで経営を支援し続けています。
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