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【会計士試験合格者必読】公認会計士のキャリアパターン

はじめまして。私は、十数年前に会計士に合格し、そこから会計監査、ニューヨーク駐在、財務戦略コンサルといったキャリアを歩んできている。近年ではサステナビリティ分野での仕事が増えている。

今回は、数日前に会計士試験の合格発表があり、Xを見ていると、会計士のキャリアはどういうものがあるのか、という疑問をツイートしている方もおられたので、改めて自分の経験から記事を書こうと思った。

結論は自分で考えるしか無いが、選択肢と、その選択後のイメージは持つことは、自分で考える際の武器になる。
思い返せば、自分は、とりあえず監査をする、という選択肢しか考えていなかったし、逆に言うと他の選択肢を見ようともしていなかった。今思えば、他の選択肢を見ようとしないことは間違いだったと思う。
他の選択肢を見ようとしなかったことがいくつかの遠回りを生んだことは間違いないし、逆に、学べたこと多いので、一概に良い悪いは付けられない。でも、やはり選択肢を知っていることは重要だと思う。
しかも最近は、サステナビリティ、非財務情報という新しい潮流が、会計士のキャリアを大きく広げてきている。この辺りも触れようと思う。

なので、今回の記事は、自分と同じように、とりあえず監査1本と考えずに、多様なキャリアがあることをぜひ理解してほしく、記事を書くことにした。
なので、そもそも監査なんか考えていない人にとっては、あまり参考とならないかもしれない。どちらかという会計士受験生や会計士合格者の内、マスをターゲットにして書いていることはご留意いただきたい。

また、監査という目線を中心として、できるだけ具体的に書くことを心掛けているので、少し偏った書き方をしている。おそらくいろんな人がいるが、多くの人はそうだよね、という目線で書いているので、既に会計士でキャリアを積んだ人が読むと、まぁそういう人多いよね、という感想となる記事だ。
それが良いのか悪いのかは置いておいて、現実的に捉えてほしい。

キャリアの大枠を理解する

「監査をするかしないか」これを考える必要がある。なぜ監査を起点で考える必要があるかというと、監査は会計士の独占業務であること、これに尽きる。独占業務であることは圧倒的な競争優位性。とんでもない既得権益である。

いろんな仕事があるけど、監査が無くなること自体は考え難い(AIによりやり方は確実に変わるが)。

言い換えると、事実上、BIG4が寡占している市場で、会計士でないとできない、という最大の参入障壁。監査がどのような内容の仕事なのかはさておき、会計士でないとできない、という独占業務であることは、コンサルへ業種変更、監査法人を辞めて独立起業するキャリアの方を見ていると、やはり安定性が違う。
安定性というのが一つのキーワードだ。

では、その監査を起点に考えるとして、キャリアは大きくは以下の3パターンに類型される。

パターン①:ずっと監査を続ける
パターン②:監査を始めるが、途中で監査をやめて、監査以外をする
パターン③:最初から監査以外をする

こんな感じ。監査以外をしてから、監査をする、という人もいるかもしれないが、例外的なので省略する。

それぞれについて、キャリアのイメージをつかんでもらえればと思う。

パターン①:ずっと監査を続ける

ある意味、会計士としての王道をいくキャリアである。さっきいった安定性という観点では非常にでかい。BIG4を考えると、もちろん、多少のクライアントの異動はあれど、結局、それぞれのシェア・サービス内容・単価は似たり寄ったりになる。これは、携帯キャリアを見てもらってもわかると思う。あんなイメージ。ユーザーはたまに、動くが、結局、携帯を使う、というアウトプットは同じで、だいたい同じような価格(3千円なのか、5千円なのか、という差はあるが、3千円なのか、10万円なのか、という差はない)。もちろん、その中に通信速度の速さや繋がりやすさなどの差はあるが、根本的なサービス内容は同じ。
監査も携帯キャリアと同じイメージなのが本音だ。
なので、就職先としてBIG4どれを選びますか、というのは、一番引いた目線からすると、どこでもよい。

では、どのような人が監査を続けるのか?
安定を求めた人か、心の底から本気で監査を美学として思っている人の2パターンだと思うのが個人的な印象だ。

安定を求めた人

安定を求めた人は、とりあえず監査から入って、普通に監査法人の中では優秀で、他にやりたいこともない人が進む。監査自体は面白くない、と割り切っている。
ただ、監査は、極めて安定的であるため、そこにバリューを感じている人が多い。それはそれで合理的な考え方だ。もちろん、監査の失敗時には、指定有限責任社員のリスクは計り知れないので、安定的でないという意見もあるし、監査報告書へのサインは、とんでもないプレッシャーがかかるとてつもなく責任が重く、大変な仕事だ。私は、監査が楽な仕事だ、というつもりは全くない。ただ、安定的な仕事だ、というのが見解だ。
2つの意味で安定的だ。1つは、冒頭に述べた通り、全上場会社には財務諸表を監査される義務があり、会計士の独占業務であることより、仕事自体がゼロになるリスクが低い。しかも、ある意味、時給商売ではあるが、サブスクリプションみたいなもんで、毎年、安定的に報酬が発生する。というのも毎年毎年監査人を変える会社などは存在しなく、一度契約したら、最低限5年くらいは継続するのが一般的だ。というのも、監査人を変更するのにも、コストがかかるので、それを企業は嫌うからだ。
2つ目は、スケジュールの安定性だ。繁忙期が決まっているため、年間スケジュールという意味でのワークライフバランスは極めて取りやすい。しかも、四半期報告書がなくなることが決まったことを考えると、業務負荷は低減され、監査チームのスケジューリング次第で、ワークライフバランスはより取りやすくなる。

心の底から本気で監査を美学として思っている人

実はこっちのパターンの人も多い。監査の社会的意義を正しく理解し、ただまっすぐに監査という職業に向き合っている人だ。これは、監査が天職と言わざるを得ないし、やはりパフォーマンスも極めて高く、監査法人内でも重宝される。少数派であることは間違いない。
監査というのは証明業務で、ある意味、数学に近い職業だと私は思っている。なので、数学が好きな人にこのパターンが多い。証明業務であることを理解し、財務諸表は正しいのか、という命題を、1年の監査を通じていかに証明していくのか、ということを徹底的に考える。
監査がどはまりしているの、ずっと監査を続ける、というキャリアが向いていることになる。

監査の大変さ

一方で、大変な点も多い。特に大変なのは、監査が、間違っていないことを証明する職業であることが一番の大変なところだ。会計基準や監査基準があるものの、それは基準であって、現実問題、間違えるか否か微妙なのは、会計基準や監査基準でばっちり規定されていないところであったり、クライアントの取引が複雑である、もしくは不確実性を伴う、ことが一番の要因だ。
そのような場面においても監査人は、合理的な判断をする必要がある。正解がないものを、間違っていない、というのは大変だ。そして、監査人は、社会からのプレッシャーを受ける最後の砦となる仕事。会計士試験のかなでも、市場の番人と習うが、まさに市場の番人としてのプレッシャーがある。監査人が間違っていないといっている財務諸表を社会は信じて使用している。その財務諸表が実は間違っていました、となると、社会は監査人への信頼を失墜することになる。その社会からの信頼というのが監査人にとっての最大のプレッシャーとなり、大変な点である。

パターン②:監査を始めるが、途中で監査をやめて、監査以外をする

このパターンは、会計士試験に受かったから、とりあえず監査から初めて、修了考査の合格、インチャージとして一通りできるようになる、マネジャー昇格、パートナーに昇格できなかった、など、何かのターニングポイントで、監査を辞めて、監査以外の仕事につくパターン。
このパターンが一番多いのではないだろうか。私もそうだ。監査のエンゲージメントマネジャー、海外駐在をし、コンサルへキャリアをシフトした。

この後の監査以外というのは実に多彩だ。よくあるパターンは、アドバイザリー部門への異動、独立開業、一般事業会社へ勤務(経理・財務)、税務などが多い。
独立開業というのも、会計関連のアドバイザリーサービスや監査法人設立というパターンが流行っている。他には、FASの中でもM&A支援、事業再生、企業価値評価が大道で、需要も大変大きく、監査法人内でアドバイザリー部門へ異動し、その後、独立という人も多い。他には、コンサルファームにいく人もいる。

最近のトレンド―サステナビリティ

ここ数年は、サステナビリティ領域への異動は、めちゃくちゃでかいトレンドとなっている。どのファームもサステナビリティ領域に力を入れており、人材確保、人材育成に力を入れている。これは、なぜかというと、非財務情報の保証、というビッグ市場が近い将来確実に開かれることを視野にいれているからだ。非財務情報の保証は、まずは会計士の得意領域であることは間違いないし、実質的には独占業務となることもありうる。なので、BIG4は鼻息を荒くしている。

監査を経由して、何をするのか、というのは人それぞれだと思うし、会計・税務に関する分野であれば、なんでもできる、というのがすごいところだと思う。もちろん品質の高い・低いはあると思うが、客がゼロ、ということはないのであろう。監査としての評価は△だった人が、独立開業してのびのびと羽ばたいている人を何人も見てきている。
この記事の中では、他の分野の内容を深堀りするつもりはないが、上に列挙した分野が一般的には多い、という紹介にとどめる。

私が今やっていることを紹介すると、財務戦略×サステナビリティのコンサルティングをしている。ポイントは、「企業価値向上」を目的とした財務戦略を立案することだ。私自身は、2050年までの排出量ネットゼロエ社会実現をミッションとしているが、企業の排出量削減のための計画を財務戦略の観点からアドバイスをしていくような仕事だ。一例をあげると、将来、いくら排出量削減のための投資に回すことができ、それはどのような効果をもたらすのか、などを財務シミュレーションするような仕事だ。非常にやりがいがあって、楽しく過ごしている。

パターン③:最初から監査以外をする

最初から監査以外の仕事をする、というのも選択肢としてあるが、少数派である印象だ。ただ、最近は、監査法人の魅力が低下していることからも、監査以外から入る、というのもある。
その一例が、コンサルティングファームや投資銀行に入ることだ。自己の成長を考えると、監査法人で監査をするよりも、コンサルファームや投資銀行に入るほうが、業務負荷は高いが、成長速度は速い、ということは言える。ようは、大変、ということだ。結構、監査法人は、スタッフ層、特に新人には研修やらなんやら手厚くもてなしを受けるし、残業時間管理も厳しいので、10年前とは様子が変わっている。一方で、コンサルファームの場合、チームにもよるが、1年目から求められるアウトプットレベルは高く、それが自己の成長につながる。

少なくとも私の周りに、いきなり独立開業という人は聞いたことがないので、会計関連を中心とした独立開業を考える人は、最初は監査から、というのが一般的だ。

まとめ

さて、個人的な意見を述べよう。結論、会計を中心としたキャリアを考えるのであれば、「期限を決めて監査をやる」というのが一番バランスが良いのではないか。
監査をやると、会計とは何か、経理・財務とは、事業計画とは、ビジネスとは、というのを様々な企業を横から見れるので、会計面から得られるものは大きい。特に、コンサルとの比較で行くと、ビジネスへの理解は監査人の方が大きい印象を受ける。これは、監査が、ビジネス理解を通じてリスク評価を行うことより、ビジネスの理解に時間をかけるし、わからないことは何でもクライアントへ聞く、という土壌があるからだ。監査上必要な作業であるため、クライアントにも説明義務が伴う。また、内部統制の監査を通じて、複数の会社の会社の仕組みにもやたらと詳しくなれる。これは監査をしていたころは気づかなかったが、結構でかい。というのも、コンサルの場合、雇われている身でもあり、知っていることが前提の部分もあるため、下手に基礎的な部分を聞くことが難しい場面もでてくる。もちろん、聞くべきことは聞く必要があるが、内部統制を理解し、ビジネスを理解し、ビジネスの動きを理解し、というような監査人が年間を通じて行っていることに比べたら深さは劣る。

また、別の記事では、監査法人の本質思考という連載も行っているので、参考にしてほしい。


この記事が、会計士に受かった方、目指している方にとってのキャリアの一助になれば幸いだ。


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