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023« シリーズ好きな宿1

沖縄県八重山諸島に通い始めて十数年。
通い始めたばかりの数年は、石垣島に宿を取って日帰りで離島を巡っていた。
そのうち離島に泊まってみたくなり、ひとつの離島に泊まってみたら全部の離島に泊まってみたくなり、最後、泊まってない島は鳩間島のみになった。
日帰りで来た時に、港からすぐの「瑠璃」という宿があるのを知ったので電話してみると、常連さんで満室が続くとのことだった。
なので、近くの「くしけぇ~や」という宿に電話してみた。
予約が取れてから宿のホームページを見てみると、蚊帳の中で眠るという痺れるものであった。
外観は、前を通った時に写真を撮らせてもらったこともあり知っていた。

宿泊当日、到着したらオーナーのミツルさんがベンチに座って待っていた。
二番座という御仏壇のある部屋に通してくれた。
室内は極めてシンプル。部屋の中にあるものは畳と御仏壇のみだった。
屋根裏の構造がドーンと見えるダイナミックな部屋。

虫がたくさんいるのではないだろうか...一抹の不安。部屋も障子で仕切られているけど、完全な壁ではない。
自分は虫が大の苦手、というか怖い。虫が嫌いなら南の島に来なければ?という意見はごもっとも。これまでに離島の民宿で虫に恐怖したことは何度もある。
それでも来てしまう虫を越えた何かを島々に抱いてしまったのは我ながら面倒くさい。
ただ、今回のこの部屋には蚊帳がある。
夕方になり、島を散歩しながら宿に戻り、ミツルさんと食堂で料理担当していたお姉さん、隣の部屋に宿泊のご夫婦と宴会になった。
良い塩梅になり夜の島内散策スタート。でっかいヤシガニ見学。古井戸に降りたり。
蚊帳はミツルさんに設置してもらった。となりのトトロで見たことがあるだけで、実際に蚊帳の中で眠るのは初めてであった。
扇風機を回し、部屋の障子は開けたままでゴロンと横になったらば、真夏の南国の夜だよね?と一瞬自分がどこにいるのかよく分からないような涼しさだった。
この宿の立地も良いのだと思う。その他、建築学的な何かもあるのかもしれないけど詳しいことは全然分からない。
風の入り方の気持ち良さ、風で揺れる周りの樹のザワザワ音にあっという間に眠った。と思う。

朝8時に島内でチャイムが鳴る。
庭を箒で掃く音とともに、どでかいスパムおにぎり(隣の部屋のご夫婦が作ってくれたもの)を縁側で食べる。
今日、ご夫婦は別の場所に、ミツルさんは石垣島で何かの免許の更新、他に宿泊客は来ない、とのことで母屋は自分だけになった。
夜は食堂のお姉さんと愚痴大会やら色気のあるような無いような話。
そして蚊帳に入って横になれば昨日同様のひたすら心地の良い空間。
翌日は縁側で出発ギリギリまでゴロゴロしたり。

それから何度ここに通ったかな。
鳩間島に行くと大半の時間を宿の中で過ごす。自分には、この宿、この縁側には特殊な引力があるように思える。
そして何度も行くうちに面白い出来事にも遭遇する。
ゆーどぅしーの早朝、どんどこどんどこ聞えてくる太鼓の音に目が覚めて飛び込んできたのは真っ赤に焼ける空。
夜中に物音で目が覚めて、暗い部屋の中で動く影に声にならない悲鳴をあげた、ヤギだった。
台風が来る前、要するに定期船が欠航になる前に石垣島に渡ろうというとき、台風対策の一部始終を見た。外にあるものは全部中に入れて戸を固定した後、小型のボートを入れ忘れたことに気が付いてしまった。固定した戸をもう一度開けなければと思っていると、茂みの中に投げ込まれて終了した。
外の洗面台で歯磨きしていて、水を出した瞬間に手元に飛んできたゴキブリ。
夜、縁側でぼんやりしているとゴトゴトと石が擦れるような音、ヤシガニの夜間散歩。
箸と請福の赤キャップで即席マイクのカラオケ。
Wi-Fiのパスワードは柱に書いてある。
ヤモリのキャッキャッキャッ(鳴き声)。
朝の箒の音。

こう羅列すると色々見たし聴いたし体験したなーと思う。
近いうちに閉じてしまうことが決定していて、あと何回行けるかな。


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