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Traveler's Voice #5|村田厳郎

Traveler's Voice について

Traveler's Voice は特別招待ゲストの方からエスパシオに泊まった感想をインタビューし、読者のもとへ届ける連載記事です。この企画の目的は”自分ではない誰か”の体験を通して、エスパシオを多角的に知っていただくことと、ゲストが日頃行っている活動を合わせて紹介するふたつの側面を持っています。ご存じの方も多いと思いますが、エスパシオは「いつか立派な観光ホテルになる」と心に誓った山口市にあるラブホテルです。この先どんなホテルに育っていくのか、まだ出発地点に立ったばかりですが、この企画を通してゲストの過ごし方や価値観を知り、計画にフィードバックしたいと考えています。インタビュアー、執筆、カメラマンを務めるのは「エスパシオ観光ホテル化計画・OVEL」を進めているプロデューサーの荒木です。それではインタビューをお楽しみください。


ゲスト紹介

Traveler's Voice 第5回目のゲストは村田厳郎さんです。2012年1月、宇部市で「CAFE126」を開業後、ソムリエの資格を取得しナチュラルワインの提供を始める。その傍らでDJとしても活動の場を広げ、自身の店で音楽イベントを継続的に開催している。開業から12年を迎える「CAFE126」は珈琲、ワイン、音楽の3本柱で根強いファンを集めています。そんな村田さんからエスパシオはどのように見えるのでしょうか。


村田さんが泊まったお部屋紹介

村田さんに宿泊していただいたお部屋は505号室です。淡いブルーの壁紙に千鳥柄のソファとポップなアートが調和したインテリアです。西側の大きな窓からは、やわらかな朝日が差し込み、心地よい目覚めを演出します。


インタビュー

Araki:おはようございます。宿泊していただきありがとうございます。昨日一緒に来ていたCAFE126のスタッフさんがSatanicpornocultshop(通称:サタポ)のことをよく知っていてくれて、友達代表として鼻が高かったです 笑。エスパシオはサタポのDJヴァイナルマンがレコードセレクトや店内のBGM(楽曲提供)を担当しているのですが、拘りポイントに反応してくれるとやっぱり嬉しいものですね。とまあ、前置きはこれくらいにして、村田さんは宇部でCAFE126を経営されていますが、普段山口市に来られることはありますか。

Murata:ぼくは宇部出身で、地元で「CAFE126」というカフェを経営しています。運営スタイルが少し変わっていて、11時半から深夜1時まで営業していて、コーヒーとワイン、それらにペアリングされたお菓子やチーズを提供しています。それとぼくが個人的な活動としてDJをやっていることもあり、店内に流す音楽に拘りがあったり、3ヶ月に1度のペースでDJイベントを行っています。そんなライフスタイルで日々を過ごしているからかもしれませんが、休みの日は都市に出ることが多く、山口市はYCAMにときどき来るくらいで、そこからまた少し離れたこのエリアに来るのは山口県民なのに初めての体験でした。

ポップアートの前で

Araki:たしかに、行動エリアはライフスタイルによって決まりますよね。それがカフェ、ワイン、音楽の3本柱となると都市に足が向くのは分かるような気がします。村田さんから見た山口県ってどんなところですか。

Murata:ぼくが育った宇部は歴史的に炭鉱があった街で、街道のはずれにある「陸の孤島」です。それが故に、独立したカルチャーがあったり仲間意識や横の繋がりが強い地域とも言われています。山口県は街が分散しているのでそれぞれに独自のカルチャーがあります。ぼくの関心ごとである音楽から観察すると、山口市はノイズミュージックが盛んな街だと思っています。そうさせているのはYCAMの存在が大きいでしょうね。それと同じように他の市でも音楽の趣向が偏っていて、街の分散化と同じように音楽の趣向性も分散しているような気がしています。その結果、市をまたいだミュージシャンの連携が生まれにくい構造になっています。

Araki:山口県の分散化問題を音楽から感じ取れるのは特殊能力ですね 笑。参考になります。ノイズの盛り上がりは山口市に集中しているんですね。それって、評価してくれる場所があることが大きく影響しているんでしょうね。文化を育てるのはコミュニティを形成するための場所であることの証明のようです。このまま音楽の話を深掘りしたいところですが、エスパシオの宿泊体験について感想を聞かせてください。

Murata:宿泊させていただきありがとうございました。こんなに寛いだのは久し振りで、なかでもレコードがゆっくり聴けることが最高でした。レコードを聴ける環境があることは事前に調べていたので、家から聴きたいレコードをたくさん持ってきました 笑。それから飲みたいワインも1本 笑。ここは湯田温泉街から少し離れていることもあって、街へ繰り出すことをやめて部屋でゆっくり過ごすことに自然と意識が向かうような気がします。昨晩はおかげさまでレコードとワインに集中することができたのですが、同じことを家でもするかと言えばそうでもなくて、ここは家のようであるけれどホテルなので「自分のものがない」という条件がひとつのことに集中できる環境をつくりあげているのだと感じました。

持参したレコードを紹介する村田さん

Araki:ありがとうございます。家のようでありながら「自分のものがない」ということがポジティブにはたらいているのかもしれませんね。それによって音楽やワインの質が上がっていたのなら嬉しいです。今日は少し曇っていますが景色もいいですよね。

Murata:景色は素晴らしいですね。少し暖かくなってきたので、昨晩はバルコニーでワインを飲んで過ごしました。都市にも素敵なホテルはあるけど、この景色は地方ならではというか、なかなか無いですよね。エスパシオにとって景色はひとつの魅力になっていると思います。

Araki:最近感じていることなんですが、景色を褒めてくれるのは遠くから来てくれた人なんです。しかも移動距離に比例して景色の価値が高まっているような気がします。きっと距離によって非日常感が高まるんでしょうね。そしてそれは物理的な距離だけではなく、生活習慣からの距離とも関係しています。村田さんは宇部から来たので、物理的な距離ではなく生活習慣との距離によって寛ぐことができたのかもしれませんね。インタビューなのについ喋りすぎました 笑。では続いて、CAFE126について教えてください。

Murata:早いもので、開業が12年前の1月になります。当時から運営スタイルは大きく変わっていませんが、途中でソムリエの資格をとったことでナチュラルワインの割合が大きくなったり、DJとしてキャリアが積み上がったことで音楽イベントに声をかけていただいたり、CAFE126でDJイベントをする機会も増えました。その結果、ワインセラーを新設したり、スピーカーが大きくなったり数が増えたり 笑、改めて12年を振り返ると、自身の成長や変化と共にお店も少しずつ成長してきたように思えます。

昨晩バルコニーで飲んだワイン

Araki:プライベートと仕事が地続きになっているんですね、羨ましいです。CAFE126を利用していて気になっていたことがあるんですけど、ワインや音楽の拘り具合から考えると、都市に出店したほうがよいと感じたことはありませんか。

Murata:CAFE126で扱っているいるナチュラルワインや音楽はどちらもニッチなので、人口の多い都市に出店したほうがファンを作りやすいと考えたことは何度かあります。でもそんなことを考えながら運営しているうちに、宇部でも時間をかけることでファンを作れることが分かってきたので、今はこのままのスタイルで顧客を育てることに注力しています。

Araki:なるほど、地方でファンを育てることは、冒頭に言っていた「評価する場所によって文化が形成される」ことと同じですね。仰るとおり時間はかかるのでしょうが、時間をかけてつくったコミュニティには特別な価値が宿るような気がします。ホストのゲストの親密な関係性、それが地方の特徴だと思います。

Murata:そうだと思います。けどそこもなかなか難しいところで、ホストと距離を置いてゆっくり過ごしたい方にとっては親密性がマイナスになることもありますし、それを解消しようと距離を置くと、親密な関係性重視の方にはマイナスになることもあります。バランスをとることがとても難しいなと日々感じています。

持参したレコードの数多し、さすがDJ

Araki:なるほど、まさにトレードオフの選択ですね。でもぼくが見る限り、いい感じのバランスになっていますよ 笑。ではでは、またデザイナー目線の質問になりますが、CAFE126は小さくて居心地の良い店ですが、大きさについて拘りはありますか。

Murata:開業当時はリスクを考えて小さな店から始めましたが、今では広くしたいという想いがあります。席数を増やしたいというよりも、リラックスするための一人当たりの面積を増やしたいです。というのも、カフェとワインと音楽の3本柱が12年かけてそれぞれ育ってきたので、その3つを分けて運営したいという想いがあります。とはいえ、3つのうちナチュラルワインとぼくの好きな音楽はまだまだニッチなので、様子をうかがっている状況です。あれなんですよね、今ではエスプレッソマシーンを導入しているカフェはめずらしくありませんが、12年前はどこにもなくて偶然にも山口ではCAFE126が先駆けだったことを考えると、そのうちナチュラルワインやぼくの好きな音楽も時間を経てニッチではなくなるのかもしれませんね。もしそういう未来が来たら、広い空間でサービスの質を上げていきたいです。

Araki:なるほど、よりリラックスに向かいたいのですね。でも、やりたいことをフルにできないくらいのほうが、施設に対してポテンシャルを感じとれるので、3本でひとつの柱というのが、CAFE126の魅力に繋がっているような気もします。好きになったものが偶然ニッチであることはぼくも同じなので共感します 笑。それにしても、その3つをうまく融合して商売という形にできていることは本当に凄いことで、サービスセンス的にも、生き方としても羨ましいかぎりです。ではでは、朝早くインタビューにお付き合いいただきありがとうございました。エスパシオにはときどきヴァイナルマンが現れるので 笑、そのときはCAFE126に一緒に遊びにいきますね。

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