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人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない

雨になるかと思っていた。

けれど、空は広く高く、そして青く、蝉の鳴き声が響き、それはもうすっかり、晴れた夏の日だった。

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訃報を受けてから1週間。昔の恋人のお墓参りに行った。

彼のお父さんが亡くなった時に、彼とお母さんとで選んだ場所なのだそうだ。今日はちょうど雲がかかっていて見えなかったのだけれど、見晴らしの良い霊苑からは、冬の日には富士山が見えるという。

初めて会ったお母さんは、気さくで明るくてよく話す、とても素敵な人だった。プリントして持っていった写真も、喜んでくれた。

そして当時のあなたの話を嬉しそうに聞いてくれ、わたしとあなたが出会う前と、さよならをしてからのあなたのことを、たくさん教えてくれた。

お墓参りをしたあと、カフェで4時間話したんだよ、わたしたち。きっとあなたは空の上でいっぱいくしゃみしてただろうね。

ねえ、あの頃あなたは電話ごしによくお母さんと口げんかしてるように見えたから、てっきりあんまり実家にも帰ってないのかと思ってたけど、実はしっかりお母さん孝行してたんだね。家族のこと、好きだったんだね。それが知れて本当によかった。

最後まであなたは頑固で、不器用で、優しくて。そして今ならわかる。ずっと、自分の居場所を探していた。

でもそれで死んじゃったらだめだよ。ほんと、あなたらしいけど、でも、ばか。

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わたしの好きな小説の中に、"人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない"っていう一節があるんだけどね。物理的にはさよならしたとしても、その人の思い出も、その人から受けた影響も、ずっと残り続ける。出会う前と出会った後では、否応なく世界は変わっている。だから、巡りあってしまったらもう、"二度と別れることはできない"。

あなたはいつだったか、"誰かに何かを頼まれた時に、何も力になれない自分ではいたくない"と言っていた。知識とか、経験とか、人脈とか、技術とか、資金面とか、何でもいいから何かしら、力になれる自分でいたい、と。

言ってなかったけど、社会人になる前だったわたしはその言葉に感化され、それ以来それはわたしのありたい姿になった。それは今でも変わらない。

小説の通りだね。あなたはこうして、わたしの中で確実に生き続けている。

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ありがとう、出会ってくれて。

ありがとう、たくさんの世界を見せてくれて。

またお線香あげにいくね。

ちゃんと、生きてくね。


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