見出し画像

mother's history No.21 家は完成するが、私はまだ完成していない!  

家は、完成に近づきつつあった。
でも、私の人生はまだまだ完成しない。
試練と苦悩の毎日だ。
私の選んだ道。わたしに与えられた運命。
これから、どういう風に切り開いていくか。
誰も分からない。
未知の道。
夢が大きければ、苦悩も大きい。
と、理解しなければならない。
代償の伴わない、幸せはない。
それなりに、皆、大なり小なりの苦悩を味わっている。
それは、頭では理解している。
生意気が、邪魔しているのかも知れない。
わたしは、ただの凡人と銘ずべきだった。
凡人らしい生き方もあるのではないか。
凡人の、生活もとても羨ましい。
                    
(誤字脱字は訂正 原文のまま)

8月14日
父ちゃん、休んで今日はじゃり運びすると言っていた。
私が、家に帰って来た時、秋代ら三人ぐっすりと昼寝の真っ最中だった。そうっといえに入りご飯食べて、洗濯していたら、小包みが来た。母が「北海道から」と言った。
私は、「切手どんなの」と言って、走って行ったら、百円の切手一枚、三十円の二枚、十円の切手がはってあったので、うれしくなって水につけておいた。
中味は、羊かんだった。一つを五つに切ったら、つぶあんのとってもおいしかった。父は、ニコニコしながら「ようけすぎんか」とか言って、食べている。「ほんと、北海道のにはいつももらってばかり、芳美が小さい時の衣類なんかもぜんぶ送ってもらっているでね」と言ったのに、私も「ほんとになと、思った」。
夕方、お墓まいりに母、妹3人で行った。
みんな、おまいりした後らしく、シンとしていた。
おはかの前で、頭を下げるのに、てれくさく思いながらペコンとおじぎする。
食後、母は八田に彦根のが来たと言うので、顔出しに行ったので、秋代と二人テレビ見ていた。

8月15日
今日なんか、お盆もなにもないほどとっても忙しい。下のあんちゃんとちいちゃんどこの大くさん、兄、父みんなで家がかたがらないための何かやっている。私は、家庭の事みんなうけもって上げると言って、だいぶ手伝った。
午前中だけ、大工さんらに来てもらって、午後は、母と父とで、土をならした。秋代は、外のちょっとした小仕事にまにあうし、私は家やそうじしたり、料理したりするのにまに合う。
夜、私のおいしいあげのひやむぎだった。
夜、みんなはやく寝た。

8月16日
今、きそ工事で下のあんちゃんに朝から来てもらった。
父は、会社に行ったが、兄休み。

11月22日
しばらぶりに日記書く。
毎日々、あわただしい日をおくっているが、これからは、日記ぐらい書こうと再びこころみる。
夕方、本箱を見たら兄の日記帳が出てきた。
ぶ厚い50円の大学ノートには、十日ほど大学受験発表の前後のことについて記してあった。普通、すごくあかるい兄が、こんなにくるしんでいたとは、ほんとうに思わなかった。
あさって、福井新聞社の試験だと言うのに、一時間ばかり、兄に悪いと思いながら読みふけってしまった。
ほんとうに、大学すべった時の苦痛が。私にもよくわかった。でもそれをかくして、私達を心配させなかつた兄。カバン買うてくれなど、ちっとも言わないで、いつもがまんして勉強していた。
兄ちゃんが、家にいた時は私とよく口げんかしたけど、私は兄ちゃんが世界で一番尊敬し、ますます好きになてしまった。
ほんとうに、兄ちゃんはえらいなと思う。それに思いやりがあり、たくさん友達も持っている。
だれか兄ちゃんと、結婚する人がいるだろう。その人は幸福だなと思う。
私も兄ちゃんみたいな人がいいな・・・。
あさって、試験だということが、頭から離れないで、なんとなくそわそわして落ち着かない。
芳美! おちついてしっかり勉強しなさい!

 白鳥は かなしからずや 空の青 海の青にも 染まず ただよふ
                              若山牧水

12月3日
「もっと時間かけて勉強しなさいね。これは当然の報いですよ」この、短い先生の言葉には、冷たさ悲しさ、後悔がぐっと胸をついた。
「当然のむくい」そうだ。私はほんとうに当然なのだ。この点数でよかったのだ。七十分の四十九、こんなに遊んでいて点数がよくていっしょうけんめいやつている人にわるい。ほんとうにとうぜんなのだ。
私は、下がってくるばかり。ほんとうにバカな芳美。帰りのくらい夜道は私に深い後悔をもたらし、かつ、先生の冷たい言葉を何回も思いさす。
「当然のむくい」。暗く寒い夜道に私を一層みすぼらしい人間にした。生まれて初めて、こんなに苦しい気持ちになった。でも人間は、こんなノンキで楽観的な私が、こんな気持ちになろうとは思いもよらなかった。
「当然のむくい」。この先生のありがたい言葉を頭にきざんでもっとやろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?