見出し画像

パンク侍、斬られて候

えー、町田康原作、宮藤官九郎脚本、石井岳龍(聰亙)監督で"パンク"って言われたら、もう、納得するしかないと言いますか、特に町田康さんは日本で唯一パンクを職業にした人なんじゃないかと思っていて、その町田さんが持つパンク観というのをどこまでちゃんと伝えられてるかというのが、まず、重要だと思うのですが、そのことに関しては僕は結構満足でした。「パンク侍、斬られて候」の感想です。

"パンク"って一言で言っても微妙にいろいろあるんですよね。僕も今、自分がやってるバンドをパンクバンドって言ってるんですが、これ多分、僕等のやってるバンドを見て、「アレはパンクじゃないよ。」っていう人もいると思うんですね。で、反対に僕なんかが見て、「いや、パンクってそういうことじゃないと思うんですよ。」っていうのもあるわけです。だから、パンクも誕生して40年以上経つわけなんで、いろいろ受け取り方っていうのが人によって違ってきてると思うんです。えー、反体制こそがパンクだって人もいると思いますし、反社会的行為そのものをパンクと言ってる人もいて(石井岳龍監督なんかはどっちかと言えばこちら側の表現の仕方をする人っていう印象だったんですよね。)。ファッションとしてのパンクというのも最近は受け入れられてますし、音楽ジャンル(サウンド)としてだけのパンクというのももちろんあるんですね。で、もともとはそういうのをひっくるめて思想として"パンク"というのがあったんですけど、最早、ファッションとか音楽ジャンルとしては、ぜんぜんメインストリームというか、そこに反抗や反発の意味なんかなくても出来てしまうわけで、本来言われている"パンク"とは違うわけなんですね。で、そうやってちょっとずつ違う思想の"パンク"っていうのが存在しているんだと思うんですけど(例えば、政治的にはパンクは反体制だから左だっていうのもあるし、その真逆の完全右のパンクもあるんですよ。パンクって先人の思想を否定して新しいフェーズに行くことだから、それはそうなるんですよ。必然的に。)。

そういう"パンク"の多様性というか、ちょっとずつ違うパラレルなものが存在している中で、僕が思っている"パンク"観というのありまして、それが、町田康さんの言っている"パンク"に近いなと思っているんですね。えーと、つまり、それがどういうことか簡単に言えば「"パンク"とは社会を茶化すもの」だってことなんです。反抗とも反体制ともちょっと違って、大真面目にヤバイものを茶化すっていうんですかね。(だから、そこにユーモアが入ってくるのは必然なんですけど。)騒ぎを起こしたいとか、混乱させたいというのがメインでもなくて、(ここ、微妙なんですが、ただ騒ぎたいだけというのとはちょっと違って、)考えの根源に「本当のことを知りたい。」みたいなのがあるんですよ。だから、大元に(「今、オレが見ているのは本当のことなのか?」っていう)怒り(というか疑問)があってですね。それをヘタレ思想で発信しているみたいな感じと言いますか。それが、僕が一番しっくり来るパンク的思想なんです。「どうせ、オレなんか…」というマイナス思考からの「オレはお前らとは違う。」っていう世界の下の方からの突き上げみたいな。(だから、カウンター・カルチャーとかと似たところにあると思うんですけど。)で、そういう「世界を何とかして変えよう!」みたいなことよりは、茶化した時に見えてくる真実の部分というか、本当のところはどうなっているのかっていうのを知りたいんですね。しかも、そういうのを大真面目に熱い気持ちをもって正義面してやるのではなくて、「こんなことに騙されてて君たちみんなバカなんじゃないの?」と、なんて言うか、同胞さえも否定するみたいなね。露悪的とも違うんですけど、まぁ、良く言えば正直なんですよ。悪く言えばバカ正直なんですけど。(熱さだったりエモーショナルだったりすることを信じてないんですよね。シニカルってことだと思うんですけど、それよりも、もうちょっとヘタレ感があって。文化部のやつが体育会系に対して「あいつらは違う。」って言うみたいな感じです。)町田さんの"パンク観"にはそういうのを感じて(違っていたらスイマセン…。)、「ああ、僕がパンクに共感するのってここの部分だな。」って思ったんですね。で、その思想の大元にあるのはジョン・ライドンなんです。セックス・ピストルズの。この映画のエンディングにかかる。(しかし、ピストルズの「アナーキー・イン・ザ・U.K」が流れた後にもう一曲、完全にタイアップで入れられた感満載の曲が流れて来ますけど、あれをあのまま流すのも、まぁ、それはそれでパンクではありますね。)

セックス・ピストルズと言えば、最早パンクの代名詞と言いますか、パンクなんか特に好きじゃないって人にも知られている存在なわけで。その中心人物の思想がそうだったら、パンクってそういうことなんじゃないの?と思うと思われるんですが、それが違うのがパンクなんですね(要するに、パンクの代名詞さえ否定するのがパンクと言いますか。)。ていうか、この人がホントに個人主義というか群れない人で、ジョン・ライドン自らがパンクのムーブメント自体を否定しているってところがあってですね。例えば、当時のイギリスではピストルズに続いてナンバー2的立ち位置にいたザ・クラッシュのジョー・ストラマーって人がいるんですけど、この人は社会を茶化すだけのジョン・ライドンに比べて、積極的に社会を良くしていこうっていう意思があるんですね。なので、貧困層の人たちに手を差し伸べる的な発言をしたりしているんですけど、それに対してジョン・ライドンは、「自分はでかい屋敷に住んでるのに、写真ではいつも革ジャン着てバスに乗ってる。」(「亡くなって惜しい人物だと思うが」とした上でですが、)なんてことを言っていて、「あいつはウソつきだ」(自分とは考え方が違う)ということを言っているんですね。(まぁ、そういう発言を裏付ける様に、ピストルズが再結成した理由を「俺たちに共通の理由が出来た。それは金だ。」なんて風にも言っていまして。)だから、つまりこの人は、常に「本当のところはどうなんだ?」ってことを考えていて、「人間てホントはこういうことだろ。」てことを言ってるんだと思うんですよね。つまり、基本的には人間が好きなんです(インタビューでも「オレは人間は好きだ。システムが嫌いなだけ。」って発言してますしね。)。人間が好き過ぎて、「人間て一体何なんだ?」ってことを哲学的に突き詰めていってるんだと思うんですよ。で、これってもの凄く映画的だなと思うんです(僕がここのとこ音楽よりも俄然映画に興味がいってるのは、こういう思想で音楽を作る人がいないからです。みんな"優しさ"とか"絆"とか"前向きに頑張ろう"とか"お母さんありがとう"とか。あと、もしくは、"オレ、オレ、オレ、オレの為のオレの世界"みたいなのばっかりで。ほんとにみんなそんなこと求めてる?って疑いたくなる様な。まぁ、正に偽善的で独善的な音楽ばかりなんですよね。一方、映画だと最近観た中だけでも、「枝葉のこと」なんて、正しくこういう思想を持つ映画でした。)。

つまり、この「パンク侍、斬られて候」という映画は、こういった思想を持った主人公が、今、正に日本で起こってる様な問題に巻き込まれて行って、「何だよ、人間てどうしようもねーなー。」って言って笑う映画なんですよ(この笑える話になってるというのは、パンク的思想を日常のお笑いに落とし込める宮藤官九郎さんの脚本の上手さだと思います。ちゃんとパンク好きじゃない人にも分かりやすくイズムが伝わってるなと思いました。)。で、映画は現代日本の問題を孕みながらどんどんカオスになって行くんですけど、これ、普通に考えて、今の日本がこのくらいそうとうカオスってことですからね。「難しくて分かりませんでした。」って感想沢山見たんですが、全然分かりにくくないと思うんですよね。多分、分からないって言ってる人は、問題が解決されないままストーリーがカオス化(猿がしゃべり出したり)していくからそう言ってるんだと思うんですけど、あのカオス部分て、「はい、今からカオスにしますよ〜」って言われてるくらい分かりやすい、カオスの為のカオスですから。多分、あれ自体に意味はないんだと思うんです(だから、問題も解決せずに意味のないシーンなんか入って来たら分かりづらいだろってことですよね。)。で、じゃあ、現実を見たらどうかっていうと、(明らかに腹ふり党のモデルにもなっているであろう)オウム真理教による、サリン事件の容疑者たちが公開処刑の様に(一日で7人も)処刑されていたり、その裏でライフラインの中でも最も重要な水道の民営化や、カジノ法案が強行採決で決まっていたり、異常気象による大雨や地震(それに対する政府の対応の稚拙さ。)とか、ほら、カオス!現実の方がよっぽどカオス!(しかも、全く何も解決しないままカオス爆進中。)で、それにエンタメ映画が勝とうと思ったらあれくらいやらないと、まぁ、全然勝ち目ないですよね。

だから、そこも含めてもの凄く親切で丁寧な映画だと思いましたし、(これ以上分かりやすくするのは無理なんじゃないかってくらい)笑って観れてスッキリ出来る超エンターテイメントになってると思いました(時代劇というのも、現代の世相を斬るって意味では有効な手段ですしね。あ、世相は斬ってないですね、茶化してるだけなんで。この映画の中で斬られるのは原作者の町田康さんのみっていうのも良かったですよね。)。つまり、今の日本て、猿が喋り出して(猿知恵で)救ってくれるくらいのことがないと、もう終わってるってことですよね(そう、つまり「ノー・フューチャー」ってことです。)。

あと、綾野剛さんはじめ、豊川悦司さんとか、浅野忠信さんとか、なんか、マジなんだかふざけてるのか分からなくて良かったですね。特に染谷将太さん、東出昌大さんのおふたりが良い狂い方してました(あ、ただ、もうちょっと短くても良かったかなとは思いました。)。

http://www.punksamurai.jp/

#映画 #映画感想 #映画レビュー #コラム #レビュー #感想 #パンク侍 #パンク侍斬られて候 #町田康 #石井岳龍 #宮藤官九郎 #綾野剛 #時代劇 #パンク #ジョンライドン #ジョニーロットン

サポート頂けますと誰かの為に書いているという意識が芽生えますので、よりおもしろ度が増すかと。