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ミッション : インポッシブル フォールアウト

最早、イーサン・ハント(=トム・クルーズ)が痛めつけられてるのを愛でる映画となった「ミッション : インポッシブル 」シリーズの最新作「フォールアウト」の感想です。

えー、僕は前作の「ローグ・ネイション」から劇場で観る様になったんですが、この「ローグ・ネイション」がとてもバランスの良い映画で、アクションとストーリー、各キャラクターの立ち位置とその関係性みたいなのがとてもスマートで流れる様に展開していって、アクション・エンターテイメントとして凄く良く出来てるな(というか、センスいいな。)と思ったんですね。ただ、そのバランス感とセンスの良さからハミ出してた部分というのがあって。その突出した部分だけを救い上げて濃縮還元した様なのが今回の「フォールアウト」だと思うんです。でですね、今回、シリーズ6作目で、クリストファー・マッカリーという人が監督なんですけど、この人は前作の「ローグ・ネイション」も監督していて、じつは、シリーズ中初めての2作撮ってる監督なんですよ。(今、wikiを見直してみたんですが、1作目〜6作目まで、ブライアン・デ・パルマ、ジョン・ウー、J・J・エイブラムス、ブラッド・バード、クリストファー・マッカリーと凄い面子ですね。)クリストファー・マッカリーという人は有名なところだと「ユージュアル・サスペクツ」の人なんですが、トム・クルーズ主演の「アウトロー」(面白いです。)という映画を監督していて、この時の相性が良くて「ローグ・ネイション」の監督に抜擢したところ、(トム・クルーズは「ミッション : インポッシブル」のプロデューサーでもあるので監督を決める権限もあるんですね。)その「ローグ・ネイション」がまたすこぶる良かったってことで、今回の「フォールアウト」もってことになったと思うんですけど、ということは、クリストフォー・マッカリーって人は、トム・クルーズのやりたいことを相当きっちり具現化してくれる人で、トム・クルーズが「こういうのをこうやってやりたい。」っていうのを「いいね!やろう!!」っていう人なんだと思うんです。だから、つまり、実質「ミッション : インポッシブル」という映画はトム・クルーズの頭の中を観る様な映画なんだと思うんです。

で、最早、それが面白いということは、トム・クルーズが面白いってことと同義なんですけど、ではトム・クルーズの何が面白いのかというと、まぁ、簡潔に言ってしまえば"無邪気な頭のおかしさ"なんですよね。えーと、冒頭に"イーサン・ハント(=トム・クルーズ)が痛めつけられるのを愛でる映画"だと書きましたけど、どう考えたって、このシリーズに関していったらドM気質全開じゃないですか。(映画の最大のキャッチーさとして、もう皆さんご存知だと思いますが、出てくるスタント・シーンは全てトム・クルーズ本人がやってるというのがあって。しかも、そのスタントのバリエーションが回を重ねるごとにどんどんK点超えしていってるというね。)このドM気質がどこまで行くのかっていうのがシリーズのひとつの見所なわけです。(最終的にシリーズラストなんかは、究極のサド行為として、トム・クルーズが何者かに捕まって何もない部屋にただ放置されるってのになるんじゃないかと思ってますけどね。トム・クルーズが延々放置されるのを定点カメラでただ眺めるだけっていう。)で、今回、そっちの方(アクションの方です。)が更にムチャクチャなことになっていってるので、それ以外のところが霞んじゃってほとんど何も印象に残らなくなっているんですけど。(だから、今回、ストーリーに関してはほぼ何も憶えてないんです。何かプロトニウムをめちゃくちゃ雑に取り合いしてて危ねーなーと思った記憶はあるんですけど。)

で、この、僕の記憶の中のトム像と言いますか、大御所イケメン俳優なのに妙にかわいいっていうのがどこから来てるのかと言うと、あれなんですよね、キューブリック監督の「アイズ・ワイド・シャット」。この映画でもトム・クルーズはいじめられるだけいじめられてたんですが、そもそも、その時、実の妻だったニコール・キッドマンと夫婦役やらされた上に、その妻からいきなり「女だって性欲あるんだ。じつは去年行った家族旅行先でとなりの席に座ってた海兵隊の男に抱かれたいと思ってた。」なんて告白されて、モヤモヤしたまま潜り込んだ秘密クラブでは不正がバレてみんなの前で仮面を取って裸になれって言われるし、それを助けてくれた謎の女性は不審な死を遂げちゃうし、ほとんど何にもしてないのに最終的に妻に泣きながら懺悔することになるっていう。「アイズ・ワイド・シャット」という映画は、(スタンリー・キューブリックの遺作であり、その作品の最後のセリフで)「FUCK」と言い放つ男前のニコール・キッドマンを観る映画なんですが、それと同じくらい、いじめられてどんどんダメになっていくかわいいトム・クルーズを愛でる映画でもあったわけです。秘密クラブでトム・クルーズに助言しにくる女性が必要以上に背が高かったりとか(トムは背が低いんですよね。)、監督によるイジメもありましたしね。しかし、こういうところで男の変な自尊心をじわじわと責めていって、最終的に「ああ、俺はなんてダメなんだ。」とさせるのがこの映画のテーマで、トム・クルーズっていうイケメン俳優はそういう役が凄く似合うんです。で、トム・クルーズのいいのは、そのことによって悲壮感が漂わないんですよね。いじらしいし、かわいいんです。

この悲壮感の漂わなさが「アイズ・ワイド・シャット」をとてもキャッチーな映画にしていたと思っているんですが、何と言いますか、なんで、この人はこんなに爽やかにいじめられるのかなと。要するに追い込まれるのが好きなんですよね。で、そのトムの追い込まれるの大好きっていう性癖を大々的にフューチャーしたのが、この「ミッション : インポッシブル」なんじゃないかと思うんです。(つまり、好きなことやってるだけなんで悲壮感なんか漂うわけがないんですよ。)嬉々として追い込まれているトム・クルーズを観て、こっちも「ああ、なんか楽しそうでいいな。」と思うわけですね。(だから、もう狂気ですよ。人間の狂気をエンターテイメントにした映画なんですよ。そういう意味では「アイズ・ワイド・シャット」と同じテーマの映画ではあるわけです。トム・クルーズのかわいい狂気を引き出すことによってエンターテイメントにしてるって意味ではね。)このですね、なんかとても大変なことしてるのに凄く楽しそうっていうエンターテイメントってある意味映画そのものなんだよなというか、かつて、映画というのはこういうものだと思ってた時期があったなと観ながら感じてたんですけど、これって、ジャッキー・チェンの映画と同じ構図なんですね。僕が物心ついた頃にテレビをつければかなりの頻度でやっていて、劇場公開されれば必ず行っていた、あの(70年代後半〜80年代の)全盛期のジャッキー映画のその楽しさがあるんですよね。だから、そうやって観るとストーリーなんかアクションを繋ぐブリッジとして存在していればそれでいいし、それでもこれは紛れもなく映画。というか、これこそ映画の醍醐味と思えて来てしまうので、まぁ、危険て言えば、そのアクションと同様に楽しければ何でもいいってなるので、思想的にも結構危険な映画でもありますね。

https://missionimpossible.jp/



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