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素敵なダイナマイトスキャンダル

まず、この原作を映画にしようと思い立ってくれた監督に感謝です。2時間18分あるんですけど、終始「うわ〜、最高だな〜」って思って観てました。冨永昌敬監督作品「素敵なダイナマイトスキャンダル」の感想です。

原作者であり主人公の末井昭さんのことはなんとなく漠然と子供の頃から知ってるといいますか、(タモリさんの「今夜は最高」とかに出てたんじゃないかな。それで知ってるんじゃないかと思ったんですが、)雑誌の編集長っていうのも知ってましたし。なんで、この人の事こんなに知ってるんだろうって思ってたんですが、ラストカットで、あ、この人、当時結構テレビ出てたなと記憶が走馬灯の様に蘇りました。正に日本のサブカルチャーを作ったうちのおひとりですよね、末井昭さん。ちょうど僕がテレビの深夜番組に興味を持つ様になるくらいの年代にテレビにちょくちょく出てたんですよね。で、映画は、この末井さんの半生を追っていくんですが、まぁ、それがそのまま日本のサブカルチャー創世記になっているんです。つまり、末井さんが一番バリバリ仕事していた頃が、僕の思春期から青春期だったわけで。末井さんが発信してたカルチャー(風俗)に最も興味があった年頃だったんですね。その裏側が見れるなんて。マジで楽しいし、くだらないし、ほんと個人的には最高の2時間18分でした。

まぁ、その激動の日本サブカルチャー史でありながら、ひとりのアート志望の青年の青春期でもあり、ただ好きなことを追い求める血と呪いの話でもあってですね。(前回、感想書いたピクサーの「リメンバー・ミー」、あれも血と呪いの話だって書きましたけど、好きなことをみつけて、それを自らのアイデンティティーとするまでの話で。この映画はその後、その好きなことをずっと続けて生きて行ったとしたらっていうのを描いているんですね。だから、末井さんが「リメンバー・ミー」の主人公のミゲルのその後に見えてしょうがなかったんですよね。)で、この映画にとっての血と呪いというのが一体何なのかっていうと、"母親が、隣の家の息子と一緒にダイナマイト自殺した"ってことなんですよ。

その事への負い目が呪いなのかというと、というよりも、"俺の人生、母親のダイナマイト自殺のインパクトに敵わない。" ていう方が呪いになってる気がしたんです。ダイナマイトで爆死してしまった母親の息子はどうやって生きるべきかっていう。で、末井昭という人はそのインパクトある母親の死に勝てはしなかったかもしれないけど、常に勝負を挑んでる様な人生だったんじゃないかなと思うんですね。(父親は負けてしまってましたよね。妻の死のインパクトに。)あの、末井さんという人が何をやった人なのかというと、要するに80年代初期の正に時代が変わって行くその時に、ちゃんと時代にコミットして先鋭的なエロ雑誌(というかサブカル雑誌の走りですよね。僕は年代的に、"写真時代" の後の世代で、恐らく、末井さんが作ってきたこれらの雑誌に影響を受けて出て来た "投稿写真" とか "宝島" とか "デラ・ベッピン" とかの方の世代なんです。この映画観て、「あ、オレが読んでたのこれの後続の雑誌ばかりだ。」と思いました。)を作ったりとかっていう、そういう好きなことを追い掛けて淡々と生きてきた様な人で。そう見えるのって、やっぱり、あの飄々としててタフな人間性のせいだと思うんですね。で、なんですけど、常にその上に "母親がダイナマイトで爆死しました。" っていうのがあるんですよね。だって、これって凄い強いカードじゃないですか。どんなに同情されようが、どんなにシリアスになろうが、「僕のお母さんダイナマイトで爆発自殺したんですよ。」って言われたら、もう、どうにもならないですもんね。末井さんがああしか生きられなかった。もしくはああやって生きられたのは、母のこの教えであり、呪いがあったからなんだと思うんです。

で、映画はそれをちゃんと折り込んで描いてる様に見えたんですね。えーと、とにかくこの映画エピソードだらけなんです。しかも、全てのエピソードのそれぞれが全部一本の映画として成立しちゃいそうなくらい濃厚で。例えば、母親個人のダイナマイト自殺に至るくだりだけでもそうとうヤバイミステリーになりそうですし、末井さんの奥さん(前田敦子さんが演じてますが、とても良いです。)との出逢いのあのアパートだけを舞台にしても面白いだろうし、笛子(この人を演じていた三浦透子さんも良かったですね。女の人軒並みいいんですよね。)との不倫のとこだけでも一本作れそうだし、もちろん、サブカル史、雑誌編集のお仕事映画としてもそうとう面白いと思うんです。でも、監督がそれをしなかったのは、どこを抽出してどんな風に纏めても、末井さんという人間性の方が勝ってしまうからであり、(だから、末井昭という人生を描くしかなかったというか。時代と共に生きた人の一代記ということで、もの凄く朝ドラっぽいんですよ。NHKでは絶対出来ないと思いますけどね。内容的に。でも朝ドラで観たいんですよね。)その人間性を作る上で絶対的に無視出来ないものとして "ダイナマイト自殺" が常につきまとっているからだと思うんです。

で、それを追って行ったら、副産物として昭和っていう時代が浮かび上がって来ちゃったってことなんじゃないかと思うんです。(ていうか、そう思わせるんですよ。この映画。なぜなら、時代よりも圧倒的に人の方を描いてるので。)だから、そりゃ長いですよ。昭和全部描いちゃってるんですもん。でも、昭和っていう時代にコミットされて出て来たのが末井さんであり、"写真時代" だったというよりも、末井さんみたいな人が生きて来たから "写真時代" という先鋭的な物が出来て、そういうものが昭和という時代を作ったっていう方がロマンがあるじゃないですか。(で、その末井さんを作ったのが "ダイナマイト自殺" っていう母親の教えだったっていうことです。そういう逆スライド方式になってる様に感じるんですよね。)でね、そういうロマンを描いている映画なんじゃないかと僕は思ったんです。

つまり、昭和というのがいかに猥雑でカオスでくだらなくてロマンチックだったか。それが末井昭って人を通したらもの凄い説得力を持って見えて来てしまったと言いますか。全く誇張せずに "あの頃の時代の空気" が描けてて、ここにまず唸らされたんですよね。(ほんとに「リバーズ・エッジ」の人たちには見習って欲しいんですが。)更に女の人の裸とチ◯コマ◯コって言葉がアホほど出て来るんですが、ああ、そういえば、あの頃ってこのくらいチ◯コマ◯コ言ってたなと。そして、それだけでバカみたいに笑ってたなと思って。今、振り返るとそれってだんだん不穏になって来た時代に対する反骨精神というよりは、純粋にくだらなくありたいっていう想いの様にも見えるんですよね。(セリフにチ◯コマ◯コ出て来る度にゲラゲラ笑ってたんですけど。単にチ◯コって出て来るだけで異常なくらい楽しかったのって、これ時代のせいなんですかね。今の方が破壊力デカかった様に感じたのはなぜなんでしょうか。)

まぁ、いろいろ抽出すれば、ロケーションが良かったとか、「夢のカルフォルニア」のとこが良かったとか、末井さんてお酒飲まないんだろうかとか、(この映画お酒飲んで酔っ払うみたいなシーンが一個もないんですよ。これだけ破天荒で昭和の時代の人だったらありそうですけどね。近松くんとの会合もいつも喫茶店ですしね。つまり、末井さんが乱れてうわ〜ってなってるとこがないんです。こういうとこが末井さんの計り知れ無さを表してるし、ちょっとインテリジェンスを感じて、そういうのも良かったんですよね。)笛子とのエピソードが他のエピソードに比べて長いのはやっぱり末井さんは笛子に母親を見てたんだろうかとか、菊地さんのアラーキーはズルイとか、いろいろ言及出来るところはあるんですけど、日本のあの頃のアンダーグラウンドはやっぱり楽しかったんだなというのに浸れてただただ楽しかったので、それで充分な気もします。

(もう、多分、いろんなところで言われてると思いますけど、時代も同じ頃だし、アンダーグラウンドエロスの世界が舞台というのも一緒だし、前半軽快で後半シリアスになっていくのもなんですよが、「ブギー・ナイツ」を思い出しますよね。)

http://dynamitemovie.jp

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