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アンダー・ザ・シルバーレイク

(今回の感想、ストーリーに準ずることも書いてますが、その90%くらいは僕の妄想なので、基本的にネタバレにはなってないと思います。)映画関係者などのセレブが住む街ロサンゼルスのシルバーレイク。その土地で半ば夢破れている青年サムの自堕落な生活を、都市伝説を巡るミステリーとして構築した「アンダー・ザ・シルバーレイク」という、まあ、なんというか意味不明な映画の感想です。

今作の監督、デヴィッド・ロバート・ミッチェルさんが2016年に撮った「イット・フォローズ」というホラー映画がありまして。「それが」、「ついてくる」って映画なんですが、思春期になってセックスをして、その相手に「それ」がついていた場合、自分に移ってしまうんです。で、一定のスピードで歩いて来る「それ」に追いつかれると死んでしまうんですけれども、セックスをすることで、また「それ」を相手に移すことが出来るんですね。ただし、移した相手が死んでしまうと自分にまた戻って来てしまうという…。えー、と、こうやって、ストーリーを説明されてもよく分からないと思いますが、まぁ、概念ホラーといいますかね。結構ちゃんと怖くて面白かったんですが、観終わった時の感覚はホラーというよりも良く出来た青春映画を観たって感じだったんです。この「それ」というのが人生に定められた時間だとしたら、そのリミット(つまり、死ですね。)から逃げる為にがむしゃらに生きる青春期の若者の姿を描いた。そういう映画に見えたんですよね。(人間、死を一番恐れているのって思春期の最も生きることに貪欲だった頃だと思うんでけど、)死を恐れる姿がそのまま生きることを描いてる様な哲学的な映画だったんです。で、今回の「アンダー・ザ・シルバーレイク」は、この「イット・フォローズ」をベースに、そこに更にミステリーとノワールを足して、更に更に複雑怪奇にした様な映画なんです。

アンドリュー・ガーフィールドが主人公のサムを演じているんですが、こいつが典型的なサブカル・ナルシストなダメなやつで、夢だけ見てて何もしない様なやつなんですね。何の根拠もないのに自分には才能があっていつかは認められると思っているんです。で、そうやって30過ぎまで(映画の設定は33歳らしいですね。)過ごして来ちゃって、いよいよヤバイかなぁって薄々感づいてはきてるけど、もうちょっともうちょっとって先延ばしにしている様な状態で。(もしかしたら、明日、何か起こるかもしれないって。起こらないんですけどね。普通は。何もしてなかったら。)だから、何か起こるかもしれないってことには敏感で、住んでいるアパートに突然現れたサラっていう不思議な雰囲気の女の子に興味を持つんです。彼女の飼い犬をきっかけにして部屋にまで誘われていい雰囲気になるんですけど、そこに彼女の同居人が戻って来てしまって、また、明日のお昼に会おうって話になるんです。サムは一旦帰って、次の日に再度サラの部屋を訪ねるんですけど、そしたら、部屋がもぬけの殻になっているんです。

で、サムがサラを探し始めるっていうのがストーリーになって行くんですが。この辺までは(不穏な空気は流れつつも)割とちゃんとミステリーとしての体裁を保っているというか、きちんと納得出来る理由を持ってストーリーが進んで行くんですね。だから、ボーイ・ミーツ・ガールの青春映画から探偵物(ファムファタール=運命の女に翻弄されるフィルム・ノワール)にジャンルが変わったななんて思いながら観てたんですけど。じつはこの辺りから、謎の為に謎を足して行く様な、謎を解くのに更に謎の行動をするみたいな展開になって行くんです。(というか、最初から破堤に向かって行ってたストーリーにこの辺から気づき始めたって言った方が近いかもしれないですね。)つまり、「ああ、ここまでに起こったアレとかアレとかはきっとこの後の展開への伏線なんだな。」と思ってたものが、単に謎を上書きして終わったりして。物語としては繋がってるし、サムの行動の理由は理解出来るんですけど、その結果が一体何を意味してるのかが全く分からんという。サムが自分の意思で行動している様に見せかけて、じつはそういう風に行動する様に誰かに誘導されてるんじゃないかって思えてくるんです。この映画に出て来る人で、そんなことをする理由は誰にもないんですけどね。

例えば、デヴィッド・リンチの映画であれば、それをするのはリンチ本人なんです。”神の視点”として映画を支配しているというか。(その結果として登場人物たちの狂気が噴出して「怖!」ってなるのがリンチ映画だと思うんですけど。)でも、この映画の場合、映画的"神の視点"みたいなのを感じないんですよね。監督さえも制御出来てない様な行き当たりばったり感があるんです。(で、それが、このよく分からない物語をスリリングに観続けさせる要因にもなってるんじゃないかと思うんですけど。)あ、で、リンチ(特に「マルホランド・ドライブ」ですが。)以外にもう一本、この映画観てて思い出したのがP・T・アンダーソンの「インヒアレント・ヴァイス」だったんですけど。「インヒアレント・ヴァイス」も舞台がL.Aで、主人公の探偵がよく分からない事件を追うことにより、どんどん謎に取り込まれて行くって話だったんですが、あれの場合は、正にL.Aという土地そのものが持っているヤバイ磁場みたいなものに誘導されて行くっていう話だったじゃないですか。L.A(というかハリウッド)というのは、映画界っていう常人には理解出来ない場所の空気というか狂気的な雰囲気があるらしく、「インヒアレント・ヴァイス」以外にも様々な映画でネタになっている様な土地なんです。で、それこそが、この映画のテーマにもなってる都市伝説を生む要因にもなっているんですけど。だから、そのシルバーレイクという場所自体がストーリーを展開させて行ってるとも言えなくもないと思うんです。けど、僕にはそれも何だかしっくり来なくてですね。なぜなら、(サムがクズ野郎ってことは最初の方で説明しましたが、)現状、サムは仕事さえもしておらず、滞納した部屋の家賃をあと5日のうちに支払わなければ強制退去させられるって状況なんです。つまり、これって、シルバーレイク自体がサムを排除しようとしてるんじゃないかと思えて来るんですね。なんですけど、事件を追うことによって、サムはよりこの街の魅力というか魔力に取り込まれて行ってるんです。だから、街から追い出されようとしているサムに「コーンフレークの箱に謎のヒントが隠されてるぞ。」みたいに導いて誘導している誰かがいるんだと思うんですよ。で、それは、僕はこの"映画"そのものなんじゃないかって感じたんです。

えーと、何を言ってるのかというと、この映画は、サムみたいなヤツを排除したいシルバーレイクという土地と、そういうヤツを呼び寄せたい映画界との攻防の話なんじゃないかと思うんです。(最早、自分でも何言ってるのか分からなくなって来ましたが。)で、そう思って観ると、やたら映画関係者の墓が出て来るのも、サムをこの場所に留めさせる為に(ヒッチ・コックやジャネット・ゲイナーが)幽霊となって現れたとも取れるし、(まぁ、逆にここに居続けたいサムが自分の憧れている人達の幽霊を呼び寄せたとも言えますけどね。)あの「世界のほとんどのヒット曲は俺が作った。」って言ってた作曲家のおっさん(そういう人が出て来るんですが。)なんか、完全にサムのサブカルチャーへの幻想をぶち壊す為に登場してますしね。意味分かんないのにやたらスリリングなのも、この映画自体がそういう攻防を描いてるとしたら何となく分かるというか。(で、そのことに気付き始めた「アンダー・ザ・シルバーレイク」というマンガを描いてた作者は殺されましたからね。)犬とかリスとかスカンクとか、やたら出て来る動物はシルバーレイクからサムへの(「ここから消えろ」っていう)メッセージなんじゃないかともとれますしね。だから、映画が意思を持ってハリウッド映画界っていう場を作っているんじゃないかっていう。あの大富豪が死んだのは誰のせいなんだっていうね。もう、この映画自体が都市伝説の様な話に着地するというかね…。いや、違うかな?(こんなこと考えてる自分が一番頭おかしいんじゃないのかって気がして来たのでこの辺でやめときます。)

ただ、こうやって謎を暴こうとするとより深い謎に取り込まれてしまう様な、そういう何かにハマッて行く感覚を描いた映画ではありますよね。映画とか、マンガとか、オルタナティブ・ロックとか、甘美なドラッグみたいなサブカルチャーに取り込まれてしまった若者の、人生の分岐点での気づきの話なんだろうなと。で、そう考えると、やっぱり今回も変わった形の青春映画だったんだなと思いますね。

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