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なぜLGBTではなく”SOGI”なのか?その④(終)

ここから、本格的に違いについて述べていきます。

”LGBT”という言葉のメリット

メリットは大きく2つです。

ー わかりやすい ー

 ”LGBT”という言葉は、性的マイノリティという”人”及び”集団”を指す言葉なので、可視化しやすいのが特徴です。

また、性事情について長年タブーとされたきた中で、”LGBT”という言葉はポップな印象もあり、2018年1月に出版された”広辞苑 第七版”では、”LGBT”が記載されニュースになる程、ここ数年でかなり浸透しました。

ー 当事者意識が生まれ、コミュニティができる ー

これが一番のメリットであると言えるでしょう。

 自身のセクシャリティに名前が付くことで、その名前に該当する方、つまり”当事者”が生まれます。

 2019年9月において、世界人口は76.7億人いると推定されております。日本人口においても1.2億人いると推定されておりますので、どの状況においても、少なからず”当事者”も複数存在し得るので、その中でコミュニティができます。コミュニティ内で相談や情報交換が出来、また、コミュニティに属していないとしても、既存のコミュニティから情報を得ることもできます。

 コミュニティが存在することで「私は一人じゃない」という安心感を得ることができ、その安心感から自身を尊重できるようになります。

コミュニティを生み出すのは”当事者意識”が大きく影響し、そのためには細分化されたセクシャリティの名前が必要な場合もあります。

 しかし、この”当事者意識”が、社会においての理解や認知を推進する上で、大きな障壁(デメリット)になることがあるのです。

”LGBT”という言葉のデメリット

一方で、デメリットも存在します。こちらも大きく2つ存在します。

ー 細分化されたセクシャリティに対応できない ー

 先程、”LGBT”という言葉は、”人”及び”集団”を指す言葉なので、可視化しやすい、と述べましたが、その分限定的な意味にもなってしまいます。

なので他のセクシャリティを付け足していく他には、セクシャリティの多様性を示せません。その結果、”LGBTQ.....”という風な、長い名前になってしまうのです。

 また、”LGBT”が浸透しすぎたため、他のセクシャリティを加味した”LGBTQ+”という言葉に関しては、浸透率が低いように感じます。

 ”セクシャリティはグラデーション”という名言があります。

私は、本当にその通りだと痛感します。

 誰を恋愛・性愛対象として見るか、や、自身をどの性として自信を認識するかは、自由であり、人それぞれなのです。

 ”性同一性”と”性的指向”をそれぞれ線分図として考え、右端が男、左端が女とします。ここでは第3の性などは加味せず、簡易的に見ていきます。

性同一性:女ーーーーーーーー男   性的指向:女ーーーーーーーー男

こんな感じです。

 一般的にストレートと呼ばれている方達(シスジェンダーでヘテロセクシャルといいますが、体と心の性にずれがなく、自身のせいと反対の性を好きになる方です。)は

性同一性:女●ーーーーーーーー男   性的指向:女ーーーーーーーー●男

もしくは

性同一性:女ーーーーーーーー●男   性的指向:女●ーーーーーーーー男

となります、が、本当にそうでしょうか。限りなく上の図に近いだけで、この記事を見てくださってるそこのあなたは、実は

性同一性:女●ーーーーーーーー男   性的指向:女ーーーーーー●ーー男

性同一性:女ーーーーーーー●ー男   性的指向:女ー●ーーーーーーー男

こうかもしれません。

 また、バイセクシャルと聞くとなんとなく

性的指向:女ーーーー●ーーーー男 (だいたい50ー50くらい)

のイメージを持ちませんか?なら、これはどうでしょう...

性的指向:女ーーー●ーーーーー男  や  性的指向:女ーーーーーー●ーー男

右の図は、かなり同性愛、異性愛に近いですね。でも同性愛、異性愛のイメージは

性的指向:女ーーーーーーーー●男  や  性的指向:女●ーーーーーーーー男

であるため、違和感を感じ、バイセクシャルのコミュニティに入る方が多いです。

 また性的指向にも、恋愛対象と性愛対象があると述べましたので、これも線分図で考えていきましょう。

恋愛対象:女ーーーーーーーー男   性愛対象:女ーーーーーーーー男

こんな感じです。

 概ねはこうだと、考えている方が多いでしょう。

恋愛対象:女●ーーーーーーーー男   性愛対象:女●ーーーーーーーー男

もしくは

恋愛対象:女ーーーーーーーー●男   性愛対象:女ーーーーーーーー●男

 極端な例として

恋愛対象:女ーーーーーーーー●男   性愛対象:女●ーーーーーーーー男

どうでしょう...?

このような方に実際に出会ったことがあります。その方は、「決して自分はバイセクシャルではない。」と言い切っていました。でも、このセクシャリティに果たして名前は生まれるのでしょうか。

 また恋愛感情自体が大きく、性愛感情自体が小さい方もいらっしゃいますし、その逆の方もいらっしゃいます。

 勿論、恋愛・性愛対象もグラデーションです。様々な方が存在し、そこに対して全てに名前をつけることは困難なのです。

ー 他種の当事者意識の衝突が、理解や認知の推進を妨げてしまうこともある ー

ここが一番のデメリットです。

 当事者意識があることで、”LGBT”当事者の方々のと、”そうじゃないストレートである”当事者の方々に別れてしまいます。そうなると、お互いに、相手への”理解”が必要になります。相手への理解は非常に大切です。

個人間であれば、理解もしやすく、双方の信頼で乗り切れる部分は大きいでしょう。

しかし、組織や社会の中で、当事者意識を共有し、理解し、変革していくためには多くの時間が必要です。

当事者が本来求めていることと、行っている対策や配慮における食い違いが出来てしまうことがあります。

 ”じゃない”方々は、そろそろこう思っている方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。

「いっぱいテレビとかで特集してたし、いろんな人がLGBTでも活躍してるし、もう十分配慮とか認知も進んでいるじゃない?」

「そろそろ”じゃない”方の気持ちとか、配慮とか考えてくれてもいいんじゃないかなぁ」

 これは私が実際に聞いたり、見たりした文章です。もはや、”じゃない”方々の中には、LGBT当事者への配慮や、LGBT運動を見て疲れてしまい、腫れ物に触る思いの方もいらっしゃるのでしょう。

 同じ当事者意識を持つもの同士は、簡単に理解し会えるのですが、違う当事者意識との食い違いが、理解を推進していく上での障壁となってしまう場合があるのです。

LGBT当事者からすれば悲しいことです。

どちら側が悪いか、の問題ではないのです。これは、LGBT運動が活発になり、浸透しすぎてしまったせいで、世の中に”LGBT”という言葉ばかりが、先に進んでしまっているのも1つの理由であると言えます。

 また、マイノリティ間でのセクシャリティの違いから、マイノリティからマイノリティへの迫害を受けるケースも少なくありません。

ある方(この方はバイセクシャル)が、ゲイの方とお付き合いしていたのですが、別の女性に恋をしてしまい別れる際に、「結局女の子の方がいいんだろ」と言われてしまうこともケースとしてありました。

 ”LGBT”と”そうでない方”、そしてマイノリティ間においても、理解の障壁になりうるのが”当事者意識の違い”なのです。

LGBTは”Who”、SOGIは”What”。そして...

 このデメリットを解消してくれる言葉が”SOGI”になります。

 紹介にも預かりました通り、”SOGI”とは、性的指向及び性同一性の英語表記の頭文字をくっつけた言葉です。

 金沢大学の谷口准教授によると「LGBTは主体である『誰』の問題であるか、それに対してSOGIは属性や特徴といった『何』を表しているかという違いがある。」

と述べています。

人種で例えると(この話は私の講演会でも述べていますが)

 ”LGBT”とは、人種でいう”マオリ族”であり、”SOGI”とは、人種でいう”肌の色、習慣、文化と言った、人種に関わる全ての人類の多様性”です。

 人種にも、多くの種類があり、その中でも文化や習慣がそれぞれ違う国や地域があります。割合的にマイノリティの人種もあれば、マジョリティの人種もあります。また人種を跨いだ、いわゆる”ハーフ”や”クォーター”も存在します。

これをセクシャリティで置き換えたものが”LGBT”や、”SOGI”なのです。

 セクシャリティはグラデーションであり、様々なセクシャリティが存在し、それによって求めていることや、価値観も人それぞれです。

 ”SOGI”とは、”全ての人類の性的指向及び性同一性の多様性”なのです。

 ”当事者”は存在しません。あえて言うのであれば、”全ての人類が同じ課題を抱える当事者”なのです。

なので、これを読んでくださっている皆さんには、”What”で終わらずに、”How”まで考えていただけたらと思います。

 現在”SOGI”に関しては、特定の方々にのみ配慮が必要な課題としてとらえるのではなく、すべての人類の人権の尊重に根ざした課題としてとらえるべきであるという国際的風潮があります。

 多様性は認めるしかありません。理解が出来ないこともたくさんあるかと思います。ですが、理解できれば実はラッキーで、”理解ができないからこそ認め合うしかない”のです。

 LGBTである、ないに関わらず、”どのようにすれば、多様性を認め合えるのか”、”どのようにすれば皆が尊重できるのか”を皆さんで考えていける世の中になることが、”SOGI”で重要なことなのです。

終わりに

 4つの記事に渡って述べた”SOGI”も、今回でおしまいです。

 なぜ、LGBTという言葉が生まれたか、単に彼らの存在を主張したいがために生まれた言葉なのか。

そうではないはずです。

 ”人類全員の性のありを尊重できる社会を実現したい”という根底が社会には存在し、それに基づき、そのためには、性的マイノリティの方々の人権を守ろう!という意味合いを込めて、”LGBT”という言葉が生まれたのだと、私は考えております。

 性のあり方は、”LGBT”だけの問題ではなく、社会全体としての大きな課題なのです。

 その課題を解く大きな鍵になるのが”SOGI”であると、私は考えております。

(終)

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