イラクで食べておきたいイラク・クルド料理を知るための10皿

テロや戦争などで危ないイメージの国イラク。今もバグダッドなど、中央政府が管轄するエリアは、ビザの取得も難しく日本政府から退避勧告などもでており、気軽に旅行できる場所ではありません。

しかし、イラク北部にあるクルディスタン自治区は、春になると美しい草原や緑豊かな山に囲まれ、紀元前から続く長い歴史をはぐくんだ魅力的な場所があり、観光地として訪れることができます。日本人もビザ無しで30日間滞在可能。エルビルの空港やトルコとの国境などから入ることができます。

そんなクルディスタン自治区の料理は、アラブの国にありながらもシリアやレバノンなどのアラブ料理と少し異なり、トルコのクルド料理ともまた違っています。私が3週間ほど滞在した間に体験した、イラクならではのクルド料理10皿を紹介したいと思います。

①クーズィー(Quzi)

クーズィーは、イラク全土を代表するような米料理。この料理の存在は、ネットなどで豪華な写真を見たことがあったので、イラクに入ったらまず食べてみたかったものです。本来は家族など大勢で集まった時、大皿のお米の上にローストされた羊(ラム肉)一頭分を盛ったものではないかと思います。

ところが初めて食べたクーズィーがこちら。外食が普及したため、1人前の羊のローストが米に盛られていればクーズィーと呼ばれるているようです。右にあるのは、お米ではなくブルグルという小麦の挽き割りで、これはトルコ側のクルド人地域でもよく食べられていました。ちなみにこの店は、バグダッド出身の方が運営しているので、イラク中央の味に近いのかも。

こちらは、より一般的な食堂のような店で注文したクーズィー。ただ白い米に羊肉がドンと盛ってあるだけ。牛丼のような感覚の料理になっています。イラクは米料理が豊富で、スパイスなどの味付けもほんのり程度で、辛い料理などもありません。日本人には受け入れやすい料理だと思いました。

こちらは、食堂でのクーズィー1人前。イラクの食堂では、大抵メインの料理にたくさんの副菜がついてきます。いわゆるメゼ(レバノンなどの中東地域で出てくる前菜)なのですが、中東の他の地域だと前菜のような感覚が、イラクだと日本に近い副菜のように感じました。サラダ、ピクルス、スープ、ご飯にかける汁物(オクラや豆などが多い)、タヒーニ、パンなどがついてきます。メゼは店によって少ない所もあります。ミネラルウォーターだけは、席に座ると必ず付いてきます。

こちらは、ブルグルの上に乗せた数人前のクーズィー。このように大勢で同じお皿から取りながら食べると、クーズィーのご馳走感がでますね。

こちらの女性たちは、聖地ラリッシュにいたヤズーディー教徒の方々。男性と女性は別々に食べますが、イスラム教徒の女性よりもオープンな雰囲気でした。水曜と土曜が、彼らにとっての聖なる日のようで、このように皆にクーズィーを振舞っていました。

②マスグーフ(Masgouf)

イラクを知っている人に代表する料理を尋ねると、この魚料理を答える人が一番多いのではないでしょうか。生簀の巨大な鯉をその場で締めて、スパイスを効かせて釜などで焼き上げる迫力ある料理です。

最近では、イラクからの難民が隣国などに避難したことで、この料理を他の国でも食べられるようになったと聞きます。イラクをまわって驚いたのは、田舎でも都会でも、あらゆるところでこのマスグーフを生簀で販売していること。

これは、クルド自治区の首都エルビルの街中で販売していたマスグーフ。こうしたお店が何軒もあり、地方でも魚の看板をよくみかけました。ものすごい数の鯉を養殖しているんだと思われます。

こちらは、川沿いの村のマスグーフの露天商。国道のような道路の橋の上が市場になっており、魚や野菜などを売っています。川の上だからなのか、主な商品は、マスグーフでした。〆た状態でも販売されています。

食べてみて思ったのは、さすが多くの人が好むだけあって美味しい!まったく臭みがなく、肉厚でほっこり。「川魚ってこんなに美味しかったっけ?」とびっくりしました。高級な鰻を食べているかのような味わいです。

最後のこの写真は、米国ミシガン州のマスグーフ屋さんです。このように世界各地に散らばったイラク人たちが、この魚料理を提供しています。

③パチャ(Pacha)

もう一つイラクで絶対に食べてみたかったのがこちらの料理!羊の臓物や頭の肉などを煮込んだパチャという料理です。

こちらもネットで見つけて食べてみたかった料理です。多くのイラクの人たちが、ご馳走としてこのパチャをあげています。見た目のグロテスクな感じとは裏腹に、料理に対するイラク人たちの愛情がネット上には溢れていたので、これは食べなきゃいけないと3つの店で食べ歩きしてきました。

提供の仕方は、3軒とも違いました。こちらの写真は、1枚目の写真より幾分グロテスク感が抑えめです。メインの臓物、米と米入り臓物、パンを浸したお粥のようなもの(次の項目で説明します)、他にスープとレモン汁(ピンクのもの)が一緒に出てきます。

いずれにせよ、イラクの人にとってちょっと特別感のある料理らしく、パチャが食べたいというと、クルド人たちはみんな喜んでくれます。外国人が納豆食べたいと言うと日本人が喜ぶ、そんな感じなのかもしれません。ちなみに、夜中遅くに食べる料理だそうなので、納豆よりは締めのラーメンに近い料理のようです。

こちらは、エルビルのバザールの中心にあるパチャ専門店の親父さん。パチャは、他の食堂と違って専門で出している店があるので、そちらで食べるのがオススメです。隣国イランやトルコなどでも、似た料理が見られるようですが料理の味付けも見た目も違っているとのことです。

④タシュリーブ(Tashreeb)

今回、現地で初めて知った料理の一つが、こちらのタシュリーブ。クルド人男性たちが食堂でよく食べるのを見かけました。外食では、かなり一般的な料理のようです。

この写真は、羊肉のタシュリーブで、パンが汁漬けになっており、肉や野菜が一緒に調理されています。基本、汁漬けのものをタシュリーブと呼ぶのかと思われます。店によっては、言われなくてもパンの汁漬けだけのものが出てくることがあります。

こちらは、先ほどのパチャ専門店で、パチャと一緒に出てきたパンの汁漬け。これもタシュリーブかと思います。羊の臓物や頭部の出汁がしっとりと浸って大変美味しかったのを覚えています。パチャは、スープ自体が意外にあっさりしています。特に頭部の出汁は絶品です。

こんな感じで1品料理として注文すると、まるで日本の丼モノのようです。パンを浸して食べるという料理は、日本人からすると非常に珍しいのではないでしょうか?イラクに来たら一度は食べておきたい料理です。

⑤カヒ(Kahi)

イラクの一般的な食堂には、大きく3種類あるかなというのが個人的な印象でした。ご飯ものやパチャなどを提供する「食堂」、ケバブやファラフェルなどの軽食を提供す「ケバブ屋」、そしてもう一つがピザやラフマジュンという中東のピザを提供する「ラフマジュン屋」です。この「カヒ」という料理は、ラフマジュン屋で販売しているものです。

この「ラフマジュン」は、次の項目で述べます。では、なぜこの「カヒ」という料理を先に持ってきたかというと、これが先ほどのタシュリーブに似て「汁」に漬け込んでいるからです。見た目、クレープやパンケーキのように見えますが、シロップを上からたっぷりかけて生地に「汁」を漬け込んでいます。おそらく、イラクのクルド人は、この食感が好きなのでしょう。しかし、生地をシロップに漬け込ませたいがために多量の水で薄めたシロップをかけています。なので、これをかけられるとまるでシロップのかかったクレープに間違って水をこぼしてしまったような印象を受けたのです。(個人的な印象です。好きな方すいません!)

このクレープのような料理は、その場で生地を伸ばし、釜で焼き、熱々でとても美味しく仕上がるのですが、そこにこの「水」をかけてしまうので、中途半端にぬるくなってしまうのです。びしゃびしゃに漬けるので、パイ生地のパリッとした食感は皆無にされてしまいます。

また、初めて食べた時は、ピザ屋の料理なので塩味の何かのソースでもかけているのかと思ったのですが、中途半端な甘さとぬるさに何か納得のいかない感情が沸き起こりました。

ちなみに1枚目の写真は、KahiとKimerという料理で250円。2枚目は、Kahiで100円です。上にちょこんとクリームチーズらしきものが乗っかっただけで150円も値段が跳ね上がります。とにかく、そのあたりも納得がいかない料理でもやもやしました。最後の写真は、美味しそうにならんでいるKahiです。朝食に食べる料理のようです。

⑥ラフマジュン(Lahmajun)

さて、カヒのことは忘れていただき、イラクのピザ屋で是非頼んで欲しい料理もあります。それがこちら「ラフマジュン」です。

これは、中東(旧オスマン帝国周辺)を起源とする薄焼きのピザ。チーズが乗っていないのが大きな違いで、かわりに乗っているものは、羊肉のひき肉です。写真は、卵を落としてもらったものです。

気軽に食べれて、生地もサクサク。しっかり釜で焼き上げていて、肉も臭みはほぼありません。

ちなみに、こんな小さなラフマジュンもありました。ここは、ドホークという町にあった人気の高級クルド料理のお店。前菜として料理の前に1人1枚出て来ました。クルドの人たちは、クルド料理の代表の一つと言ってました。

ちなみに、この料理、アルメニアやシリアなどにもあるのですが、どこの国でも自分たちが発祥の国と言っております。

⑦クッバ(Kubba)

クッバ(キッベ、クッベなどとも言う)もまた中東各国で食べられ、かつブラジルやアルゼンチンなど南米にも普及した料理です。ブルグルの粉でひき肉や野菜のミジン切りなどを包んだ、メンチのような揚げ物です。今まで、なんのことはないスナックと捉えていましたが、今回のイラクでその認識が改まりました。

と言うのも、今までこのフットボールの形をしたコロッケサイズのものしか知らなかったからです。しかし、イラクは、この大きさがまず違います。

このようにカレーパンを大きくしたようなサイズなのです。トルコ料理店や南米の店では、この半分くらいかと思います。イラク版は、一つ食べるとかなりの満足感。しかも、屋台でちょっと脂っこいあげ方をしているので、一つでかなりお腹が膨れます。しかし、イラクのクッバが面白いのはここからです。

クルド自治区の首都エルビルにある飲食街イスカンには、数軒クッバ専門の屋台があり、そこには3種類のクッバがありました。一番左の平らなクッバはクッバ・モースルというものです。

モースルの名物料理のようで、普通にレストランなどで提供されるようです。ここでは、ファストフードのような感じで販売しています。イラクには、日本のソースそっくりのソースがあり、これをかけて食べるとほとんどメンチカツのような味になりました。イラクにいながら日本のお惣菜を食べているみたいな気分にさせてくれます。

さて、さらにクッバをゆでる料理もありました。これはクルド人のご家庭に招かれてご馳走された料理です。食堂でこの料理は、あまり見かけません。トマトスープベースとヨーグルトベースのシチューがあります。

今回、食べたクルド料理で一番美味しかったのは、この料理でした。揚げたクッバが、茹でられると餃子のような肉団子に変わります。

そのほかにも、クッバ・ハラーブというアレッポのクッバという意味の米粉を使ったものもあり、イラク人やクルド人がいかにこのクッバを愛しているかが伺えます。他の料理に比べてクッバを出す店が少ない印象を受けましたが、是非見つけて食べていただきたいイラク・クルド料理です。

⑧タバ(Tava)

タバという料理は、おそらくはトルコ料理ではないかと思われます。タバとは、インドのTawaa(鍋)という意味のようで、その鍋にトマトやピーマン、チキンまたは羊肉を煮込んだ(炒めた?)シチューのような料理。トルコ各地でみかけます。しかし、イラクのクルド地域ではよく見かけました。

食堂で、ご飯にかけながら食べる姿をよく見かけました。この料理、鍋に入っているからグツグツいっているかと思いきや、熱々で出て来た試しがありません。向こうの方は、猫舌の方が多いようなので、ぬるく提供しているのかと思います。鍋の意味があまり無い気がするのですが、そこは雰囲気なんですかねえ。

⑨チキンライス(チキン・クーズィー?)

先ほどのタバよりもさらにポピュラーなのが、このチキンライス。多分、お店の英語のメニューを見ると、この料理もQuziと書かれていました。ただ、本来クーズィーは、羊肉の料理なので、多分他の言い方もあるかと思います。この料理は、至るところで食べられていて、日本で言うなら牛丼の位置づけになるのかなと思いました。

どこで食べても想像通りの間違いない味です。

基本的なセット。スープは、大抵この豆スープです。

このように大皿のブルグルの上に載せるとご馳走感も出てきます。ここでは、ジャガイモなどが煮込まれたスープでした。こちらも聖地ラリッシュのヤズーディー教徒たちの食事風景です。どんなシチュエーションでもイラク全般で愛されている料理のようです。

⑩ケバブ(シャワルマ)

さて、最後は、世界中の誰もが知っている料理「ケバブ」です。中東各国で気軽に食べられるファストフード。日本では、トルコの名称で「ドネル・ケバブ」と呼ばれていますが、アラブ圏では「シャワルマ」の名で親しまれています。

この国のシャワルマは、店によっては横倒しにされ炭火で焼いている店もありました。炭火版は食べていませんが、味はドネル・ケバブとそこまで変わりません。

イラクのシャワルマと他のアラブ諸国との違いは、パンが違うこと。イラクは、他の中東諸国にない船のような形の独特のパンがあり、そこに挟んで食べます。薄手のパンやピタパンと違って、パンがどっしりしていることもあり、ちょっと肉を食べたという感覚が薄い印象を受けました。

シャワルマは、ファストフードですが、食堂でケバブを頼むとだいたいこのような羊のひき肉にスパイスを加えたコフタ・ケバブ(ハンバーグのようなもの)の状態で提供されています。だいたいお米かブルグルを選べます。

こちらは、薄手のパンの上に乗せているコフタ・ケバブ。手前はチキンのコフタ・ケバブになります。

もちろん、他にも肉を炭火などで焼いた様々な串焼き肉(ケバブ)がたくさんあります。今回は、あまり食べませんでしたが現地の串焼き肉は、新鮮な肉の様々な部位を食べられるので、是非試してみてください。

以上、まだまだ、様々な見知らぬ料理がありますが、一般的にポピュラーな料理を10皿分紹介させていただきました。イラク・クルド料理は、比較的おだやかな味の料理が多く、日本のソースそっくりのものなどもあり、日本人には受け入れやすい料理だなあと感じました。是非、イラクに行った際には、様々な料理を試してみてください。

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Hiro Kay

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コメント2件

素晴らしいレポートを作って下さってありがとうございます!
イラク単独に特化した料理のレポートは専門書でもあまり見かけません。とても勉強になります。
ティリュリーブは酒井啓子先生(農文協/世界の食文化アラブ)によると、シリアではファッタと名前が変わるそうですが、イラク独特の料理と仰っています。確かにトルコなどでは見ませんから、イラクの文化を代表するものと言えますね。
コメントありがとうございます。あくまでも、独断と興味だけで書いておりますが、一般的なイラク北部(クルディスタン自治区)の料理をあげられたのではないかと思っております。ファッタは、ファトゥーシュなどのサラダなどに使われるカリカリの揚げたパンもそうですよね?そうか、同じパンだからファッタとタシュリーブ(これは普通のパンですが)は親戚なんですね。このあたりのこうした地域さから出る食の変化は面白いですよね。
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