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南関東で食べておきたいラグマン(ラグメン)を知るための10皿

ラグマンをご存知ですか?中央アジア諸国や中国の新疆ウイグル自治区などで食べられている麺料理です。トマトベースに羊や野菜などを煮た汁をかけて、麺と絡めて食べるシンプルな料理です。中国ではラーメンの語源でもある「拉麺(ラーミエン)」とも言われているそうです。

私ごとですが1ヶ月程前、ヴァタニムという今年出来たばかりのウズベク・キルギス料理店でラグマン(この店ではラグモン)を食べました。それは、私が知っているはずのラグマンとは異なり、なんとも形容しがたい味わいでした。というのもここ10数年、ラグマンといえば、日本のウイグル料理店でしか食べたことがなかったからです。ラグマンって国によって味が違う?ウイグルのラグマンってどんな味だったっけ?スープがこんなに入ってた?そんな疑問が次々に頭の中でよぎりました。

そこで、様々なラグマンとその仲間を南関東一帯で食べ続けることに。結果、すっかりラグマンの魅力と多様性に惚れ込んでしまいました!ここ1ヶ月ほどで南関東で食べた中でも、私の独断と偏見で選んだ10皿のラグマンを紹介させてください。

①「ヴァタニム」のラグモン(高田馬場)

まずは、私をラグマンの「出口不明の迷路」に引きずり込んでくれた偉大なヴァタニムのラグモン(このお店ではこう呼ぶ)をご覧ください。

もう、麺が隠れちゃってます。迫力ある羊肉に大きく切られた野菜の数々。その下にはたっぷりの「スープ」に浸かった麺を見ることが出来ます。

横から見るとこの通り。まるで、具沢山の蕎麦屋のカレー丼のようです。味は、八角か何かの中華っぽさと西洋っぽい出汁のスープが合わさったような印象を受けました。それでいて、思った以上に塩味控え目、あっさりして食べやすい!するすると美味しく食べきってしまいました。

しかし私の中では、いったい何を食べていたんだろうという不思議な想いにかられました。ラグマンは食べたことがあったはずなのに、これは自分が知っているラグマンとは違う!?

そんな想いを払拭するために、東京周辺で「ラグマン」とは何かを探求し、出来る限り食べ尽くしてみようと思い立ったのです。

②「レイハン」のラグマン(巣鴨)

私のSNS仲間には、中央アジアに詳しい人たちが幾人かいて、その中のお一人がオススメしてくれたのがこの店のラグマンです。中でも、「ボソラグマン」というものが美味いという話を聞いていたので、ここは食べる前から自分内注目度の高いお店でした。

まず食べたのは、普通のラグマン。この店のラグマンがすごいのは、その腰の強さ!ヴァタニムもそうですが、ラグマンは注文されてから麺を手で引き伸ばし、バンバン叩いて作る打ち立てが基本です。これ、ほとんどの店がそうでした。ですので、お店の人の打ち立て具合で、ラグマンの味は相当左右されます。その腰の強さが、ここはピカイチ!

食べるたびにプッツンという弾力感があり、その麺の腰とトマトベースのあっさりとしながらもコクのある汁と羊や具の絡み具合が最高にマッチします。ここで学んだのは、腰の強さによってラグマンの美味しさがこんなに変わるのかということです。

私のラグマンの基本は、この店で学んだと言っても良いでしょう。ただ、この店のラグマンは1200円。他の店に比べるとちょっと割高感があります。

さて、「中央アジアに詳しい人」オススメの「ボソラグマン」は、こちらです。お店のメニューには「焼きラグマン」として載っていました。おお!さすが詳しい人は呼び方からして違うのか!と思わずwikiを見ると、確かに焼きを「ボソラグマン」具だけの物を「ギュロラグマン」というそうです。勉強になりました。

お味の方はというと、焼いた分だけ少し味が濃くなり、腰の強さは焼いた分感じられにくくなっていました。私は初めて食べた腰の強いラグマンと、あっさりした具と汁の絶妙な絡み合いが気に入っていたので、「ボソラグマン」より「ギュロラグマン」推しです。

※料理のお店での正式な名前は「レイハン特製ラグメン」と「レイハン強火焼き麺」と書かれています。

③「ウルムチ Food and Tea」の特製ラグマン(高田馬場)

東京周辺では、10軒そこそこのお店でラグマンを食べることができますが、北は埼玉の南与野、南は神奈川の三ツ境と広範囲に散らばっています。そんな中、高田馬場だけは、ウズベキスタンのラグマンだけでなく、ウイグルのラグマンも食べられるお店まである、密度の濃い街です。

さらに、その途中には、数々の人気ラーメン店はもちろんのこと、本場の中国人が経営する過橋米線や重慶担担麺、拌麺の店もあり、麺を通じてシルクロードを体験できるかのような様相を呈してきているのです!

そんな魅力的な「麺のシルクロード」である早稲田通りは、美味しい誘惑でいっぱい。他の麺物には目もくれずに12分歩いてくぐり抜けたものだけが、このウルムチというウイグル料理店へ辿りつくことができるのです。

その店のメニューには、特製ラグマン(上の写真)と家庭ラグマン(下の写真)の2種類があります。見た目が随分違うのが写真を比べると分かるかと思います。具の汁と麺が敢えて別々に出されてくるのが特製ラグマン、初めから具と汁がかかったものが家庭ラグマンです。

では、お味は?これが、そこまでは違わないというのが印象です。もちろん具の中身も違いますし、味付けも心持ち違うのですが、比べて食べないと多分その違いに多くの人は、気づかないのではと思ったくらいです。では、この名前の違いは、お皿の盛り方のせい?

その後、この謎をある中国人に聞いたところ、現地で「特製」のラグマンを食べると麺はお代わりが自由なのだそうです。具を別にすることで、少なめにかけながら2杯食べたりするのでしょう。

ただ、ここは東京なので、そんなサービスはあるはずもなく、メニューにもおかわり自由とは書かれていません。その盛方だけが踏襲されているものなのでしょうか?再度、お店に行って聞いてみたいところです。

ちなみに、「値段」と「場所」と「味」の総合コストパフォーマンスでは、私はこのお店のラグマンが一番好きです。ただ、このウルムチへ向かう「麺シルクロード」徒歩12分の旅路には、誘惑がいっぱいですのでご注意を!

④「シルクロード ムラト」のラグマンとSOMAN(南与野)

ある夜、急遽思い立ち首都高を北上し、埼玉県南与野(さいたま市)へと車を走らせました。老舗ウイグル料理の店でラグマンを食べるためです。

この「シルクロード ムラト」というお店は、創業2006年。南関東にあるウイグル料理の店としては、現在一番の古株かと思われます。最寄り駅は南与野駅とありますが、駅から徒歩20分という非常に不便な場所にあります。

それにも関わらず10年以上もやっているのは、その味と値段にあると言えるかと思われます。というのも都内のラグマンが800円〜1300円くらいの価格設定に対し、ここの普通のラグマンはなんと680円!しかも量も具も都内のどこよりも多い。また、麺の腰も巣鴨のお店に負けず劣らず甲乙つけがたいという品質で美味い!素晴らしいの一言につきます!

ただ、私は車で首都高を使ってきているので、片道だけで結構な金額を越えてラグマンを食べているわけですが...

さて、このお店のウイグル式焼うどん(750円)は、英語名にSOMANと書かれてあり、巣鴨のボソラグマン(焼きラグマン)とはちょっと違っています。説明書きには「きしめんを短く切ったようなうどん」と書かれていました。出てきた料理は見た感じ、ちょっと太めのきしめんですが...

このようにスプーンで丁度すくえるような大きさまで短く切っているのです!これには、ちょっと驚きました。始めはお箸で食べていましたが、途中からスプーンで食べるようになりました。汁や具も一緒に頬張れる贅沢な食感は素晴らしいの一言!新しい麺の食べ方を発見したかのような気分になりました。

ちょっと遠いのが玉に瑕ですが、南関東で最も歴史のあるこのウイグル料理店は、何度でも行く価値のあるお店だなと再確認しました。

⑤「ハラールサクラ」の阿波牛ラグマン(鶯谷)

このお店のHPを見ると焼肉やラーメンなどの紹介が出てきます。ですので、当初ウイグル料理のお店ではなく、ウイグル人が運営するハラールの日本食を食べさせるお店かと思っていました。ウェブにも「ムスリムにも日本人にも喜んでいただける美味しい日本食を提供します」と書かれています。

期待せずに行って見ると、都内の他のウイグル料理店に負けず劣らず様々なウイグル料理が満載なのです!当然そこには、ラグマンもありました。

多くのウイグル料理店が駅から離れていたり、ランチをやっていないことを考えると、山手線の駅から徒歩5分でいけるこのお店は、ラグマン好きにはたまらないお店です。ランチで980円で食べることができ、味も他店に負けず劣らずです。ただ、やや中華っぽい味付けを感じました。

また、この店の魅力は、おそらく世界で一つしかないであろう「阿波黒牛ラグマン」(写真下)を食べられることです。

というのも、この店の売りの一つは、和牛である阿波黒牛がハラールで焼肉やしゃぶしゃぶなどで食べられること。そんな食材を仕入れているからこそ、食べることができるのがこの「阿波黒牛ラグマン」なのです!

味付けも普通のラグマンに比べ、心なしか「和」の優しい味付けになっており、お店の阿波黒牛に対するこだわりのようなものを感じられます。値段は1580円(税別)と少々お高くなりますが、世界でここだけ(ではないか)と考えると食べてみても良いのでは?阿波牛がこれでもかと入った高級感溢れるラグマンです。

⑥「カップヌードルミュージアム」で食べるカザフスタンのラグマン(横浜みなとみらい)

さて、今度は300円で食べられるラグマンを紹介します。そのラグマン値段的に大丈夫?と思うかもしれませんが、このラグマンはハーフサイズ。さらに、入場料に500円もかかると言えば、なるほどと思うのでは?

こちらは、カップヌードルミュージアムの「NOODLES BAZAAR -ワールド麺ロード-」で食べることができるカザフスタンのラグマンです。「オイスターソースが隠し味」というこのラグマンですが、当然ながらその場で麺を伸ばして作ってはくれません。300円ですからね。

そこそこ腰のある麺にそこそこトマトベースのベーシックなラグマンを食べることができました。私は、カザフスタンに行ったことがないので、果たしてこれが現地にどれくらい近いかわかりませんが、試しに食べるには良い経験かなと思います。

⑦「アロヒディン」の予約が必要なラグマン(八丁堀)

さて、都内には、もう一軒ウズベキスタンの料理を提供しているレストランがあります。2012年にオープンし、日本橋にも支店があるトルコ・ロシア・ウズベキスタンの3カ国の料理を提供するという珍しいお店です。

ただし、ここでラグマンを食べるには、当日のお昼までに予約が必要となります。プロフなど主なウズベキスタン料理は、予約が必要なので気軽に食べに行けないのがちょっと残念です。私もそれを知らずにラグマンにありつけることが出来ず、今回2日連続でお店に行くことになってしまいました。

とは言え、その他の料理がとても美味しかったので、2日連続は苦になりませんでしたが。

さて、ここで久々にウズベキスタンのラグマンです。やはり、ヴァタニム同様スープが多い!この2軒のウズベキスタン料理で、ウイグルのラグマンとは別物なのだということがハッキリしました。

とは言え、味はヴァタニムとはまったく異なり、バターが効いたコッテリ気味の西欧のお味。これはこれで美味しいですが、現地と同じかどうかは微妙な感じがしました。

さらに、ラグマンのスープについてウズベク人の友人からこんなコメントがツイッターから寄せられました!

これによると、基本はスープありきですが、食べる人によってスープの量が異なるというのです。つまり、ウズベクのラグマンのお店では、牛丼の「汁だくにしてくれ!」みたいな注文が可能なのかもしれません。

というわけで、だんだんと様々なラグマンを食べることで、色々な豆知識が蓄積されていきました。そんな時に、ある人物からさらに面白い情報が届きました。それが次のラグマンです!

⑧「アパンディン」の田舎ラグマン(西川口)

今回ラグマンを食べ歩いて、ウズベキスタンのラグマンは汁有りで、ウイグルは汁無しがベーシックのようだと、フェースブックに写真や感想などをあげていました。すると、このウイグル料理のお店の店長(1年程前、お店に行ったときにFB友達申請していた)からコメントが書かれました。

「汁がいっぱいラグマンはウイグルでもありますよー!田舎ラグマンと言いますが皿じゃなくて、茶碗に入れるんです!」(原文ママ)

なんと素晴らしい情報!これは、食べないとこの記事を終わらせることが出来ないなと、お店の人に特別に頼んで食べてきました。

アパンディンの店長さんによると、田舎ラグマンというものは、ウルムチの裏通りで田舎から出てきた人が、普通のラグマンの半額くらいで食べている料理なのだそうです。スープが先に大量に作られるので、50人前とかを簡単に作ることができるので安いのだとか。

ようは日本で言うところの立ち食いそばのような存在なのかもしれません。

なので、今回6人以上いないと作ることができないと言われ、急遽FBなどで応募したところ11名の有志が集まり、西川口のお店へやってきました。それがこの田舎ラグマンです。正直もっと汁がいっぱいなのかと思っていました。心持ち普通のラグマンより汁が多い程度です。

しかし、食べ終わるとこの通り。確かに、ウイグルのラグマンにしては汁が多いです。ただ、今回大勢呼んでしまったことで、11人前にしてはスープの量が少なかったようです。最後の11皿目は、ほとんどいつものラグマンの汁の量でした。

上の写真がそれです。ほぼ普通のラグマンの汁加減です。ただ、味の方は、かなりあっさり気味です。以前にこのお店で、普通のラグマンも食べているので、比べて見てください。

写真からも、ちょっと豪華で味がコッテリしてそうに見えませんか?実際その通りで、羊の味がしっかりのどっしり感のあるラグマンを楽しむことができます。他店とは一味違った味わいの力強いラグマンです。

※田舎ラグマンは6人以上でないと作れない特別メニューです。

⑨「パオ・キャラバンサライ」のラグマン(東中野)

さてここで、10数年「ウイグルのラグマン」しか食べたことないはずなのに、なぜヴァタニムでラグマンの味にそんなに困惑したのかという疑問に戻ります。

ここまで色々な店で食べてきて、「ウイグルのラグマン」の味は、どの店もそこまで変わらないという事実が判明しました。スープのベースは同じだし、具も羊(阿波牛もありましたが)、ピーマン、トマト、その他野菜というのは基本だし、汁もそんなにない。だったら、ウズベキスタンのラグマンは違う味、スープたっぷり、ということでスッと納得しそうなものです。

ところが!私が「ウイグルのラグマン」の一種と思って「よく」食べていたものが、実は相当ベーシックから外れていたものだったことに気づいてしまったのです。それが、このラグマンです!

このお店は、他の店に比べて何度も通っているお店です。理由は、どの料理も遠い異国を感じさせ、それなりに美味しい料理が食べられるからです。また店の雰囲気もエキゾチックで洒落てます。なので、珍しい国の料理などに慣れていない初心者でも連れて行きやすいお店なのです。

多分、私は、毎回ラグマンをここで食べていたのだと思います。きっと同じ味だったはずです。しかし、これだけウイグル人が作る本格派なラグマンを食べたあとで、このラグマンを食べると...

「なんだこの料理は!」

とびっくりしてしまいました。初心者に慣れ親しんだ味付けにしているのです。味付けには、ゴマだれのソースにパクチーがかかっています。だから、料理はエキゾチックな汁なしゴマ坦々麺を食べている感じです。

このラグマンが俺を迷宮に引きづり込んだんだ...俺だったんだ!

気分は、ユージュアル・サスペクトのカイザー・ソゼでした。この「そうだったんだ!」という感覚!まあ、映画の主人公になった気分を味わえたということで良しとしましょう。

ちなみに、ここの料理は、どれを食べても美味しいですよ!

⑩「ブドウエン」のボルタラ・モンゴル自治州のモンゴル族が作るラグマン(横浜 三ツ境)

さて、ウズベクとウイグルのラグマンの違いもわかったし、もう食べなくていいやと思った矢先、なんとモンゴル族が作るラグマンが食べられる店があるという情報が、横浜のマニアックな友人から入ってきました。

最後の10皿目は、私の家から電車で2時間近くにある横浜の三ツ境(みつきょう)という街のこの店で〆ようと決めたのでした。

ウイグルには、いくつかの自治州があり、その中に2つのモンゴルの自治州があることをこの店に来て初めてしりました。ここは、天山山脈の北側にあるボルタラ・モンゴル自治州の方が作るウイグル料理のお店です。

こうした料理の良いところは、このような見知らぬ外国の情報を勉強せずに覚えることができ、かつこんな濃い体験なので、忘れることがないということです。世界の各国料理を食べる上での醍醐味ですね。

さて、店には、3種類のラグマンがメニューにありました。と言ってもいままでのように「田舎」だの「阿波牛」だの「特製」だの、まったくややこしさの無いメニューです。「普通」「辛」「激辛」の三種類です。

写真も順番に並べています。チリの入れ具合かと思うので、見た目は一緒だろうと思っていましたが、並べてみると1枚目の「普通」が結構違うことに気づきます。赤いパプリカが目立ってないだけなのかもしれませんが、普通は辛さが無い分、ニンニクの味が結構強い印象を受けました。

ついで、「辛」です。こちらの方が気持ちパンチが効いてて、個人的には好みです。四川料理やタイ料理に比べれば、ウイグルやモンゴルの辛さは、やはり可愛いものですね。

そして「激辛」です。可愛いものですね、とか言って食べてると結構むせます。中々の辛さでした。

さて、写真を見てお気づきの通り、「汁」全然ありませんでした!しかも、トマトは入っているものの、ほとんどトマトの味がしません!このお店がこういう味なのか、モンゴル系のラグマンがこういう味なのかは分かりませんが、確実に今まで食べてきたものとは一線を画すラグマンでした。

と言うわけで、私の個人的なラグマンレポートを終わらせていただきます。ウイグル料理を食べ続けて思ったことは、炭水化物の料理が多くて確実に体が大きくなったということです。しばらくは、ウイグル料理やウズベク料理を食べるのは控えていこうと思う今日この頃です。

カフェ・バグダッドさんが提案された「世界を知るための10皿」という企画に乗り、様々な国の料理を取り上げていきます。料理を通じて、移民の方々や、聞きなれない国に親しみをもってもらいたいと考えてます。今後はYouTube「世界のエスニックタウン」と連携した企画をアップしていきます。