第20話 夏目龍之介

「こころちゃん」
「何ー?」
「ちょっと」
「はいはい」
「真面目な話」
「……はい」
「アリスと、ちゃんと話してあげてくれないかな」
「アリスと?」
「うん」

「……話してるわよ?」
「そうじゃなくて」
「?」
「アリスがさ、……こころちゃんの、なんていうか、真似してるってのは、知ってるだろ?」
「知ってるわよ」
「どう思ってる?」
「……………………」
「それをさ、こころちゃんから、アリスにちゃんと話してあげてほしい」
「え、でも」
「でもじゃない」
「でもよ」
「でもじゃない」

「こころちゃんは怖がりすぎだ」
「……龍ちゃんは知ってるでしょ?」
「知ってるよ。その上で言ってるんだ」
「…………」
「こころちゃんが人と話すのが苦手なのは知ってる。自分の考えを纏めるのは下手だし、それを相手に伝えるのはもっと下手だし、それで相手を傷つけて、そういうのを何回も繰り返して、人と話すのが怖くなってるのは知ってる。でも、アリスにはちゃんと話してやってほしい」
「…………」
「頼む」
「判んないわ」
「……判んないことないだろ」
「だって龍ちゃん、そういうこと言うってことは私が何を考えてるか判ってるのよね?」
「……少しは」

「私は、アリスが何を悩んでるのかほんとに判らないのよ」

「何がしたいの? 私の絵ばっかり描いて、私が絵描いてるとこ見てばっかりで、何が面白いのか判らないわ。絵を描けばいいじゃない。上手くないのが判ってるんだっら、自分の絵を描けばいいじゃない。私の真似をしたって、私になれるわけじゃないのよ。私の絵を真似して賞を取って、それが何にもならないの判らないの? いくら描いても、それはアリスの絵じゃないのよ?」

「私だって、これを言ったらアリスが傷つくだろうなってことぐらいは判るわ」
「……………………」
「それに、判ってるなら龍ちゃんが言ってちょうだい。私と違って頭いいんだから。アリスを傷つけない感じで伝えるとかできるでしょう?」
「それじゃだめだ」
「なんで?」
「アリスは、こころちゃんから聞きたがってる」
「そんなことないんじゃない?」
「こころちゃんが何を考えてるかなんだ」
「龍ちゃんが言えばいいじゃない」
「ダメだ」
「なんで」

「こころちゃんだって、人が話してくれないときの気持ちは知ってるだろ」

「伝わらないときの気持ちも知ってるけど、相手に伝わらないからって諦められるときの気持ちだって判るだろ。アリスは、こころちゃんに自分の事を見て欲しいんだ。ちゃんと見て、ちゃんと話して欲しいんだ。それは僕が代わりにじゃあ駄目なんだよ」
「……できないわ」
「できなくてもいいから、ちゃんと話せ。話して伝わらなくても、伝えきれなくてごめんで止めるな。誤解があったら誤解だって言って、伝わるまで何度でも話せ。不器用でも、効率が悪くても最後までちゃんと伝えろ。手伝いは、してやるから」
「……………………」
「別にアリスのことを全部理解しろって言ってるわけじゃない。他人なんだから理解できないところはあって当たり前だ。僕だってそうだ。アリスのこともこころちゃんのことも全部は理解してない。でも、理解する努力も、理解される努力も止めちゃだめだ。アリスのことをちゃんと見てやって、何か思うとこがあるなら最後までちゃんと伝えろ」
「でも」
「でもじゃない」

「僕たちは、これからもずっと一緒にいるんだ。不器用だろうと、効率が悪かろうと、そこに時間切れはない。理解されないなら理解されるまで話せ。理解できないなら理解できるまで聞け。それくらいはやっていいし、やらせていいんだよ」
「…………」
「アリスは、ちゃんとこころちゃんのことが好きなんだ。こころちゃんだって、アリスが嫌いだってわけじゃないんだろ」
「……………………」

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