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スタートアップに向く人、向かない人(エンジニア編)

先日、機械学習のエンジニアを募集する広告を出したところ、複数の人から「旦那に頼めばいいじゃん」と言われた(知り合い以外の方のために説明すると、私の夫は工学の博士号を取っているソフトウェアエンジニアである)。

確かにスキルマッチング的にはドンピシャではあるのだけど、夫とは実際に半年ほど働いてみて、すぐに一緒に働くのは無理だと断念した。少なくとも、今のスタートアップのフェーズでは、彼の能力や経験を生かしきれないと思ったからだ。

スタートアップに必要なのは「雑でもいいから速い人」

先に少しだけ夫のバックグランドを話すと、彼は20代後半まで大学の研究室で働いており、その後私と出会ったVR系のベンチャー企業に転職し、30代前半でソーシャルゲームの会社に2回目の転職をした。職歴としては、そのソーシャルゲーム会社での経験が最も長いと思う。

ソーシャルゲームの会社では、ゲームの開発ではなく、不正なユーザーを検知するパトロールシステムのプラットフォーム開発とエンジニアのマネジメントを行っていた。「攻撃」か「守備」かでいえば、「守備」側に入る。

それからその会社を退職した後、少しだけ私の仕事を手伝ってもらっていたのだが、1〜2ヶ月働いて「ひょっとしたら合わないのかもなぁ」と思った。

それは彼に能力がないのではなく、彼自身がこの5〜6年の間にエンジニアとしていろいろな経験を積んだことにより、スタートアップ特有の「雑なモノ作り」が許容できなくなってしまっていたことが大きい。

経験を積むことで失われるもの

夫に手伝ってもらっていた当時、スナップマートはまだ会社組織にすらなっておらず、プロダクトが存続するかどうかも未知数の段階だった。

その段階では、完璧なものを作るより「とにかく速く世の中に出す」ということが最優先される。

しかし夫は、これまでに何度かそうやって「スタートアップ時に雑に作られたシステム」のせいでひどい目にあってきており、いわば「穴のあいた壺」の穴を埋める仕事をずっとやってきていた。

それゆえ、スタートの段階から、将来このプロダクトが大当たりしてスケールしたときに、私たちが何に苦しむのかが彼にははっきり見えていたのである。

となれば、彼が最初から「穴のない壺」を作りたいと思うのも当然のことだろう。しかし、最初からそんなものを作ろうとすれば、当然開発に時間はかかる。私はには、少なくとも「その時点では」開発が遅れることがどうしても許容できなかった。

結局、私と夫は「穴があいていてもいいから速く壺を作ってくれ」「そんな穴のあいた壺を作ったらあとあと大変だから今ちゃんと作るべきだ」というところで意見が折り合わず、別々の道を歩むことになった。

夫はいま、うちよりはもう少し規模の大きな五反田のベンチャー企業で働いており、夫から話を聞く限りでは、周りの優秀なエンジニアたちと毎日楽しく働けているらしい。私は、彼の経験や能力を活かせる職場はきっとあると信じていたので、良い職場に恵まれて本当によかったと思っている。

受託開発の経験しかない人がスタートアップにくると

もう1つ、これは夫の話ではないのだけど、スタートアップに向かないタイプの人がいる。それは受託開発の経験が長い人だ。

先に誤解のないように言っておくと、受託の経験が長い人全員がスタートアップに合わないというわけではない。私が言うまでもなく、受託を長年やってきていても、スタートアップに来てバリバリ活躍している人は大勢いる。

ただ、そういう人はどこかの時点で「考え方」や「働き方」を切り替えているように見受けられる。つまり、受託経験しかない人が合わないのではなく、スタートアップにおいても「受託のやり方で仕事をしようとする」ということが問題なのではないかと思う。

受託の仕事は「より良くする」ことより納期優先

受託経験の長いエンジニアさんと働いていて、「これはちょっと辛いな」と思うのは、新しい機能を実装しようと依頼したときの第一声が「拒否(防御)」のスタンスから入られることが多いということだ。

もちろんあからさまに「無理です」とか「嫌です」とは言わない。ただ、「それいいですね、やりましょう!」という感じではなく、なんとなく「できればやりたくないなぁ」という空気を醸している。

そして、「どのくらいかかりますか?」と作業工数の見積もりを依頼したときの返答が、やたら渋い(日数が長い)。これはおそらくなのだが、受託のときの癖で「とにかく納期には絶対遅れてはいけない」という思いから、万が一に備えて長めの見積もりを出すようにしているのではないかと思う。

スクラム開発などを導入すればその辺はある程度是正できるとはいえ、中には長年染み付いた癖がなかなか抜けず、ずっと「ユーザーファースト」ではなく「進捗ありき」な働き方しかできない人もいる。そういう人は、もしかしたらなかなかスタートアップにはマッチしづらいのかもしれない。

経験を積んだ年長者がスタートアップで活躍するには

以上、他人事のように書いてきたけれども、私自身も自分の過去の経験に囚われてスタートアップっぽい働き方ができないこともある。先入観なく、軽やかにPDCAを回していきたいと思いつつも、時折経験が邪魔をするのだ。これには本当にうんざりする。

正直、何も失うものがなく、体力があって、怖いもの知らずの若者のほうがスタートアップには向いている。これは間違いない。おじさんおばさんが見ると「ギョッ」とするような無謀なことをやろうとしている若者を見ると、心配になると同時に「羨ましいな」とも思う。

彼らはまだ転んだことがないのだ。

そんな中で、私たちのような年長者が若者に打ち勝っていくには、いかに転んだときの「痛みの記憶」を忘れ去るか、にあるような気がしている。でなければ、全速力で走ることができない。

なかなか難しいことではあるけれども、成功も失敗も含め「経験を捨てる(捨てないまでも脇に置いておく)」ということは、私たちがこの場所で戦っていくためには必要不可欠なことなんじゃないかと思う。

ちょっと、話逸れちゃいましたけど。

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