Anpanman Beginning.

1946年12月8日、一人の男が高知駅に降り立った・・・。
「真珠湾攻撃の日に戦地から故郷に戻るとはな・・・。皮肉なもんだな・・・。」
そう思いながら男は駅のホームを歩いた。

突然、冷たい風が吹き、男の体中凍えさせた。
「おおの・・・、冷いちや・・・」
南国土佐とはいえ、高知の冬は寒い。

男は体を擦りながら駅舎を出た。

そして男は愕然とした。
「な、なんじゃ!?こりゃ!?」

そこは一面の焼け野原だった。
それまで、高知駅に向かう蒸気機関車から見える景色は長閑な見慣れた景色だった。
しかし、高知駅から見える景色は見慣れたそれとは違うものだった。

男は立ち竦むしか無かった・・・。
「これじゃあ、日本中焼け野原じゃいか!!」
悲しみと同時にやり場の無い怒りが込み上げてきた。

すると、一人の男が声をかけて来た。
「安岡?ひょっと、おまん、安岡やないか?」

安岡と呼ばれた男が振り返ると、見覚えのある顔の男が立っていた。
「おお!嵩!おまん!嵩か!?おまん!生きちょったがか!!」

そこにいたのは、安岡と故郷が同じで、育った町も同じだった幼馴染の嵩(たかし)だった。

崇「おお!そうよ!崇じゃ!おまんも良く生き残っちょったなあ!戦争が終わって1年以上経つき、おまんは死んだかと思っちょったぞ!」
安岡「おいおい!人を勝手に殺すな!ワシはマレーとかフィリピンに行っちょったき、しばらくの間、戦争が終わったことも知らんかったがよ。」
安岡と崇は、お互いの生存を悦び、お互い強い握手を交わした。

そして、崇は安岡が言った「マレー」と「フィリピン」という言葉であることに気付いた。

崇「マレーとかフィリピン?ほいたら、あの『マレーの虎』と一緒やったがか!?」
安岡「おお、そうじゃ。ワシはワシらと同郷の『マレーの虎』こと山下奉文大将と一緒じゃった。けんど、それも途中までよ。攻撃が酷くなったら部隊はバラバラ。ワシはずっとジャングルに隠れちょったんじゃ。山下大将が終戦で降伏して日本に帰ったことも知らずに、一人でジャングルの中で戦っちょったんじゃ。」

安岡は遠い目をした。

ジャングルは年中暑かったが、南国土佐であっても高知の12月は寒かった。
久しぶりの寒さに、生きて故郷に帰って来たという実感が湧いてきた。

崇「ほおか、そりゃあ大変じゃったなぁ。でも、山下大将、裁判で死刑になって死んでしもうたぞ・・・。」
安岡「らしいな・・・。ところで、おまんは今まで何しちょったが?」
崇「ワシは中国に渡って暗号の作成とか解読をしちょった。けんど、相手には暗号の内容、全部バレちょったらしいけんどな。後は、中国の子供達に紙芝居を作って見せちょった。今は高知新聞で働いちゅう」
安岡「崇らしいの。おまんの絵はワシも大好きじゃ。それより崇、この風景はなんじゃ!?」

安岡は焼け野原を見つめた・・・。

崇「ほうか、おまんも知らんかったがか・・・。高知にも去年大空襲があったそうじゃ・・・。ワシも去年帰って来て驚いた・・・。」
安岡「高知にも・・・。そうか・・・。沢山の人が死んだんじゃのう・・・。」

安岡と崇は暫く焼け野原を眺めた・・・。
そして、崇が悔しそうな顔で呟いた・・・。

崇「そうじゃ・・・。ワシの弟も戦地で亡くなったそうじゃ・・・。」
安岡「そうか・・・。戦争とは本当に酷いもんじゃったな・・・。もう戦争なんかしたらいかんな・・・。」

安岡は、崇と自分に言い聞かせるように、噛み締めるように呟いた。
そして安岡は話をつづけた。

安岡「ワシは元々天涯孤独の身じゃから・・・。心配なのは孤児になったワシを育ててくれた時谷のオジキのことだけじゃ・・・。」
崇「時谷さんって、あの時谷組の組長だった時谷務さんのことかえ?」
安岡「そうじゃ。あの人はワシの両親が事故で死んだ後、ワシを引き取って育ててくれた。ワシと仲が良かったおまんが御免に引っ越した時も、ワシをわざわざ御免に住ませてくれた。オジキは義理と人情の人じゃ。ワシにとっては親であり大の恩人じゃ!!」

崇の顔が少し曇った。

そして安岡にこう言った。
崇「時谷さんは故郷の美良布の町に戻っちょるはずじゃ。でもあの人は・・・」
安岡「どうした!?オジキに何かあったんか!?」

崇はうつむいた。
そして、朴訥と語り始めた。

崇「灰田って覚えているか?」
安岡「ああ、あのいつも卑怯なことばかりやってたチンピラの灰田のことか?」
崇「ああ、実はその灰田の奴が、終戦直後に元軍人やチンピラどもと徒党を組んで、戦後のドサクサに紛れて朝倉の歩兵第44連隊から武器やら弾薬やらを盗んだらしい。」
安岡「何じゃと!?」
崇「それから、南国の掩体壕から戦闘機を盗んだっていう噂もある・・・。」
安岡「日本軍はそこまで混乱しちょったがか!?それで、灰田はオジキに何をしたんじゃ!?」
崇「詳しくは知らん・・・。でも噂では、灰田達はその武器を使って時谷組を襲ったそうじゃ・・・。組は解散して、時谷さんはケガをして静養しちょるはずじゃ・・・。」

崇はうつむいたままだ。
しかし、拳は強く握り締められていた。
それを見た安岡は全てを察したように崇に強く語り掛けた。

安岡「そうか!判った!また今度ゆっくり飲もう!とりあえず、オジキの所に行って来る!」
安岡は丁度高知駅に着いた美良布町行きのバスに向かって走り出した。

崇は安岡に大声で叫んだ。
崇「気ぃ付けてな!灰田はおまんのことを恨んじょるみたいじゃ!無茶するなよ!」
安岡は手を振って無言で崇に別れを告げた。

安岡を乗せたバスが走り出した。
崇はそれを見送った。
バスが見えなくなるまで・・・。

これが、安岡半平太(やすおかはんぺいた)こと「アンパン」と、灰田欣二(はいだきんじ)こと「バイキン」の壮絶な戦いの序章である。

その後、「バイキン」一味は盗んだ武器を改造して「アンパン」の仲間達を襲った。
「アンパン」はジャングルで身に付けたサバイバル術で「バイキン」一味と対峙した。
時谷務(ときたにつとむ)こと「ジャム」のオジキと、その娘、時谷畑子(ときたにはたこ)こと「バタコ」の姐さんの支援を受け、「アンパン」は仲間を守るために「バイキン」一味との孤独な戦いを始めた。

平和主義になっていた崇は戦うことに嫌悪感を持っていた。
しかし、高知新聞社で働く崇は、ペンと写真と絵を駆使し、平和的に「アンパン」と共に「バイキン」一味と戦う決心をした。
時代に翻弄された者たちは、戦後の混乱期、誰も知らない所で戦い続けた。
1946年12月21日、文字通り高知を大きく揺るがす大事件が起きるまで・・・。

予告編:

1946年12月21日
アンパンはバイキンの謀略に嵌り、暗い洞窟に子供と二人で閉じ込められていた・・・。

子供「お腹すいたよう・・・」
アンパン「判った・・・。じゃあ、ワシの顔を喰え・・・」
子供「そ、そんな・・・。アンパンのおじさん・・・。」

おもむろにナイフを取り出すアンパン!

アンパン「小僧、美味くは無いが、少し我慢しろよ・・・。」
子供「や、やめて!おじさん!そんなことしたら、おじさん死んじゃう!」
アンパン「小僧!!お前だけは生き残れ!!」
子供「やーめーてー!!」

その時、突然洞窟が大きく揺れ始めた!!
大きく転がり続ける二人!!

アンパン「ぐ、ぐぅ!!な、何が起こったがか!?」
子供「うわぁ!!助けてぇ!!!」

これが世に言う、昭和南海地震である。

洞窟の二人はどうなるのか!?
高知の町、高知の人々、大切な人達をアンパンは守ることが出来るのか!?
そして、バイキン一味との戦いの行方は!?

原作:柳瀬 嵩(やなせ たかし)
脚本:衛藤 徹

『実録!アンパンマン!』

Coming soon!

妻「こらぁ!ちちぃ!何怖い話をしてるの!」
息子「ははぁ。ちちのお話し怖いよぅ・・・。」
私「え?『実録アンパンマン』・・・。可能な限り史実に基づいてアンパンマンのストーリーを再構築し・・・」
妻「辞めなさい!そんな無駄な事!幼児には判らん!そんな話は!」
私「いや、命の尊さをリアルに・・・」
妻「幼児には普通のアンパンマンで十分!寝る前の本の読み聞かせをお願いしたのに、眠れなくなるような話をしないで!」
息子「ははぁ、怖かったよぅ(泣)」
妻「アンパンマンに謝れ!やなせたかし先生に謝れ!全国の子供達とアンパンマンファンに謝れ!」
私「ご、ごめんなさい・・・」

これは、息子が保育園に通っていた頃の話です・・・。
妻にこっぴどく怒られたのでお蔵入りしていましたが、机を整理してたらメモが出て来たので載せてみました・・・。

ええ、今はとても反省しています・・・。
色んな意味で、ごめんなさい・・・。
関係各位にもごめんなさい・・・。
心より謝罪申し上げます・・・。

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