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らむね。紙芝居シアター「子スズメの冒険」

紙芝居配信をスタートさせた、9月5日に発表した作品です。

はじまり、はじまり~

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らむね。紙芝居シアター「子スズメの冒険」

あるところに、一羽の子スズメがいました。その子スズメは、お母さんスズメと一緒に、キヅタのツルの中にできた巣の中に住んでいました。

さて、この子スズメに、柔らかい茶色の羽が生え、翼をパタパタさせることができるようになると、お母さんスズメが飛び方を教え始めました。

「巣の縁に立ちなさい。それから頭をそらせ、羽をパタパタとやって、サッと飛び出すんです。そして、石垣の上まで行ったら、今日のお稽古は、それでおしまい」

そこで子スズメは、巣の縁に立ちました。そして、頭を後ろにそらせ、羽をパタパタとやって、サッと前へ飛び出しました。

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すると驚いたことに、子スズメは地面に落ちず、ちゃんと空中に浮んでいました。子スズメは思いました。

「ぼく、これなら、あの石垣のてっぺんよりもっと遠くへ飛んでいける! 畑を越えて、その先の石垣を越えて、その先の川を越えていける!ぼく、ひとりで世界中を見てこられる!!」

そして子スズメは羽をいよいよ早く、パタパタと動かしました。はじめのうち、子スズメは、飛ぶのはとても面白いことだと思いました。

ところがそのうち、少しずつ、羽が痛くなってきました。それから、頭も痛くなってきました。これではどこかに止って休まなければなりません。

その時、ニレの木のてっぺんに、鳥の巣がひとつあるのが見えました。

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子スズメは、その巣の縁に止りました。それは小枝でできた、大きなだらしない巣でした。

「あの、すみません!中に入って休ませていただいていいでしょうか?」

子スズメは聞きました。その巣の中には、大きなカラスがいました。

「おまえ。カァーカァーって言えるかね?」

「いいえ、ぼく、チュンチュンってきり言えないんです」

「じゃ、中に入れることはできないなぁ。おまえ、俺の仲間じゃないからなぁ」

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そこで子スズメはまた、少し先まで飛んで行きました。すると、柊の木のずっと高いところに、もう一つ、鳥の巣がありました。子スズメは、その巣の縁に止って言いました。

「あの、すみません!中に入って休ませていただいていいでしょうか?」

子スズメは聞きました。その巣の中に座っていたのは、柔らかい灰色をした山鳩でした。

「おまえさん。クゥークゥークゥーって言えますか?」

「いいえ、ぼく、チュンチュンってきり言えないんです」

「じゃ、中に入れることはできませんね。おまえさん、私の仲間じゃないからね」

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そこで子スズメはまた、少し先まで飛んで行きました。すると、樫の木の幹に穴が開いているのが見えました。きっとこの穴なら、もぐりこんで痛い羽を休めることができるでしょう。子スズメは穴の中に首をつっこんで言いました。

「あの、すみません!中に入って休ませていただいていいでしょうか?」

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ところが、その穴には、とんがったクチバシをした茶色のフクロウが住んでいたのです。フクロウが言いました。

「おまえ。ホウホウ、ホウホウって言えるかね?」

「いいえ、ぼく、チュンチュンってきり言えないんです」

「じゃ、中に入れることはできんなぁ。おまえ、わしの仲間じゃないからなぁ」

そこで子スズメはまた、少し先まで飛んで行きました。

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すると、池のほとりに、アシや草でできた巣が見えました。その巣は、とても居心地が良さそうでした。子スズメはそばまでピョンピョン飛んでいって聞きました。

「あの、すみません!中に入って休ませていただいていいでしょうか?」

その巣にいたのは、平たくて黄色いクチバシをした鴨でした。鴨が聞きました。

「おまえさん、クワックワッって言える?」

「いいえ、ぼく、チュンチュンってきり言えないんです」

「じゃ、中に入れるわけにはいかないねぇ。おまえさん、私の仲間じゃないもの」

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あたりは暗くなり始め、子スズメはもう、飛ぶことができませんでした。そこで、ピョンピョンと地面の上を歩いて行きました。すると向こうの方からも、地面をピョンピョンとやってくる鳥の姿が見えました。

「ぼく、あなたの仲間でしょうか・・・?」

くたびれた子スズメが言いました。

「ぼく、チュンチュンチュンってきり言えないんですけど」

「もちろん、仲間ですとも」

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「私はお前のお母さんじゃないの。今日は一日、おまえを探していたんですよ。私の背中にお乗り。家までおぶっていってあげるから」

子スズメが、お母さんの背中におぶさると、お母さんは子スズメを連れて、キヅタの中の巣まで飛んで帰りました。

それから、子スズメは、お母さんの暖かい翼の下で眠りました。

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おしまい

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