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四月大歌舞伎 小鍛冶

五月になると四月大歌舞伎の有料配信が始まる。演目の長さは関係なく1週間のレンタルで3300円。昔の上演演目は1900円。様々な映像が見られてAmazonプライムなら500円とかNetflixのことを思うと高い。私はCS衛星劇場も加入してるので過去歌舞伎は購入しないが、歌舞伎のハードルを下げるにはやはり価格を考えて欲しい。二部の団子売りも三部の桜姫東文章も同じ価格だ。

さて、今回の「小鍛冶」は猿三郎さんのブログに詳しい解説があったのでそちらを参考にして欲しい。二世市川猿之助が、能の『小鍛冶』を題材とした先行作品を参考にしながら、さらに能の要素を加えて再構成し、1939年に初演したそうだ。映像を見て残念過ぎるのは所謂竹本連中の語りにあわせての舞踊なのに義太夫がほぼ映像に出て来ないのだ。以前は文楽座の太夫が語ったらしいが今は歌舞伎竹本連中が語られてる。「小鍛冶」は全てを竹本が語り歌う舞踊劇だと言うのを影響を見て初めて知った次第。歌舞伎竹本は歌いそして語る部分は俳優の台詞になる演目が多い中今回は全てを竹本が担う。
 人形浄瑠璃の様に義太夫にあわせて舞踊劇が進むのだ。途中胡弓の音色も加わり豊かな音色と語りが楽しめるのだが、マスクをしてほぼ顔が見えないから映す意味が無かったのかな。コロナ禍の弊害だ

猿之助さんが言葉を発しない舞踊劇を選んだのはコロナに準じた訳では無く、コロナ禍への挑戦だと感じた。

猿之助さんも中車さんも初役で挑んだ「小鍛冶」収録されたのは中日にも至っていない頃ではないかと推察する。映像の良さでもあり残酷さでもあるが、中車さんの緊張感がビンビン伝わってくるのだ。そして猿之助さんの童子も稲荷明神も動きがこなれていない。一つ一つの動きを確かめる様に丁寧に踊っている。普段観るキレキッレの動きではない。それでも凄まじい熱量の舞踊で見応えたっぷりの童子と稲荷明神である。

そしてこの演目は東京の緊急事態宣言で24日に突然千穐楽を迎えた。四月の歌舞伎座は三部の仁左衛門、玉三郎の「桜姫東文章上の巻」が歌舞伎ファンの話題を席巻し、事実毎日切符はソールドアウトだ。この日より後の切符を買っておられたご贔屓の無念はいかばかりか。昨年何十枚もチケットが無駄になった身としては胸が痛む。

お二人の映像はNHKとかできっと放送して貰えると信じて待つ。

話が反れたが映像の収録は多分何度かされるはずだがせめて中日以降の慣れた頃に収録して欲しい。「藪原検校」の時にも感じたが舞台は生物だ。収録してお金を取るならより良き状態で収録して欲しい。歌舞伎座の一幕見くらいの値段を取るオンデマンド。猿之助さんの物は無条件にレンタルするし、リピートもする。そしてこれは未来永劫残る映像だ。生の舞台を観られない状況で有料配信を決断してくれた松竹さんには感謝するし、舞台写真の販売もありがたい。しかし、映像は中日過ぎて収録して欲しい。心からのお願いだ。

「小鍛冶」で特筆すべきはやはり中車さんだろう。映像だからこそわかる足運びの丁寧さ、手指の先まで神経が行き届く所作、足掛け10年コツコツと精進されてきた集大成だ。猿之助さんと中車さんでお家の舞踊劇を歌舞伎座で演じる日がこんなに早く達成されるとは思わなかったと言うのが本音だ。この様な舞台こそ歌舞伎座の客席でお二人の息遣いを感じながら観たい。おもだか屋ファンにとっても猿之助さんファンにとっても、中車さんのご贔屓にとっても特別な演目を猿之助さんはあえてコロナ禍の歌舞伎座にかけた。命を燃やして演じる俳優を観るために贔屓も命がけで歌舞伎座に足を運で欲しいとの想いがびんびんと伝わる。

コロナ禍が終息して平和な歌舞伎座で幕間にはお弁当を食べ、終演後は友と語り尽くせない感動を時を忘れて語る、そんな日が早く来ることを願いながら今日も『小鍛冶』の稲荷明神の金歯に癒されよう。

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