見出し画像

待ち人

作品はリレー小説企画『片想い~l'amour non partagé~』の3話目です。次の人がイメージしやすいよう、最後に登場人物の設定を記載しています。

「ただいまーー!」
パタパタパタパタ。
ちぎれるほど尻尾を振りながらアルが走ってくる。
アルはミニチュアダックスの女の子。
「ありゅーーーーーーうーーん好きす好きーー」
かゆはしゃがみこんで愛犬に頬ズリをする。
「アルいい子ね〜これ?これはアルのじゃないよ〜冷蔵庫入れとくね。」
買ってきたブルーベリーチーズケーキを冷蔵庫にしまうと、キッチンの引き出しから犬用のオヤツを出す。
アルの目の前にオヤツを置いたまま、
「おすわり!伏せ!お手!おかわり!」
真剣な目でかゆを見上げながら、着実にこなすアル。
「ゴー!!」
という合図で、オヤツにかじりつく。
「いい子ね〜いい子ね〜さあ、お散歩行こうね。」
アルが我が家の一員になってからかれこれ5年。毎日の散歩はかゆの役目だ。
部活のある日も、試験の日も、バイトで遅くなっても、雨が降らない限り連れて行く。
アルは室内犬で、トイレは決められたシートでするから彼女のトイレのための散歩ではない。あくまでお互いのリフレッシュのため。
かゆは元気に出発する。

だいたい同じコースを回るので、時間が合うと同じような犬の散歩人とすれ違う。挨拶を交わしながら歩いて10分ほどの公園に着くと、色々な犬種が集まっていた。
タイミングよく夕暮れ時にここに来れば顔なじみの犬仲間に会える。
「わーステラちゃんだ〜こんにちは〜!」
「お!アルちゃん、今日は早い時間に散歩いいね〜」
お互い飼い犬の名前しかしらない場合が多い。
ステラは片目が見えないダックスの老犬だ。
まだアルが小さな頃から、会うたびに匂いを嗅ぎあい相性が良いのかお互い嬉しそうにしている。
ステラのご主人は年齢不詳の男性で、いつもオシャレでクールな感じ。顔はちょっと怖そうだけど、捨て犬だったステラを本当に愛しそうに大切にしている。
彼の本名は田島敦樹。
34歳のバンドマンだ。
ライブに来る彼を崇拝する女性たちと違って、散歩でしか会わないかゆは唯一気を使わなくて済む女性だ。
初めてかゆを見かけたのは彼女がまだ高校生だった頃。最近はどんどん綺麗になってきて眩しいほどだ。
田島はある程度時間に余裕のある暮らしだが、なるべく同じ時間に公園に来るようにしているのは、かゆの笑顔が今日はみれるのかな?という淡い期待だけだ。
片想い?この気持ちはそうなのか?
純粋に犬と楽しそうに笑ってる彼女のキラキラとした瞳を見てるだけで、それだけでいいなんて。
俺としたことが。「ふっ」と自分自身に笑ってしまう。
「あ!!ステラパパが笑ったー--!私のギャグで笑ってるぅぅ〜」
かゆは最高の笑顔で犬たちに話しかけている。
思わず吹き出した。
ステージではクールなベーシスト気取ってるんだけどな。
まあいいか、たまには俺も大笑いするのも。

明日も明後日も、この時間に俺はここにいよう。

【片想いされた人】
羽島観由(はねしまかゆ)……専門卒後、洋服店の店員になって一年。
身長165cm、血液型はO。笑えないギャグを放つ。
きつい言葉も放つが、爽やかでちょっと男っぽい性格。
顔はまあまあキレイ。髪は肩までのパーマで茶色。一房だけかすかにピンク色。
おしゃれ好き。

【片想いしてる人】
田島敦樹(たじまあつき)インディーズのバンドマン。クールなベーシスト。親の持っているアパートなどの不動産管理業務をしつつ、週末は都内各所のライブハウスに出演。見た目は怖そうだが心優しいジェントルマン。捨て犬だった片目の見えないダックスを飼っている。


#片想い

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?