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I’ll live for you.

I’ll live for you.

あいいろのうさぎ

「おや? こんなところに子供がいるなんて珍しいな」

 そう言われてエミリーは顔を上げました。その声はそれこそ子供のものだったので、エミリーは大人ぶった口調に違和感を覚えました。ですが、見てみるとそこにはやはり少年がいるのでした。

 不思議に思っていると、少年は言葉を続けます。

「このバス停で待っていても何も来ないよ。ここが使われなくなってしばらく経っているのは知っているだろう?」

 少年の言っていることは事実で、そもそもこの道自体もう整備もされておらず、町に見捨てられた場所でした。じゃあ、エミリーがどうしてここに来たのかと言うと、ある噂を耳にしたからなのでした。

「……ここに、お母さんがいるところに行けるバスが来るって」

 少年はそれを聞いて「そういうことか」と呟き、エミリーの隣に座り込みました。エミリーはずっと一人でバスを待っていたものですから、隣に感じる体温に心の底が熱くなってきて、ついつい自分のことを話してしまいました。

「今日はハロウィンだって言うのに、どこを探してもお母さんがいなかったの。私お母さんに会いたい。話したいことが沢山あるの」

 言っているうちにポロポロと涙がこぼれて、それを拭っていると少年が背中をさすってくれました。

「ハロウィンのお菓子はもらったの?」

「いいえ。ずっとお母さんを探していたから……」

 涙声にそう言うと、少年は飴玉を差し出しました。エミリーが手を伸ばすと、さっと飴を取り上げます。

「ハロウィンにお菓子をもらう時は?」

 少年が微笑みながらそう問いかけるので、エミリーは遠慮がちに、

「トリック・オア・トリート」

 と言いました。少年は『正解』と呟いて飴をエミリーに渡します。

「……あぁ、来てしまったか」

 少年がそう言うのと同時に、エンジン音が聞こえてきて、エミリーが顔を上げると、青白く光るバスがやってきました。

「きっとあれだわ!」

 エミリーが駆けだそうとすると、少年に腕を掴まれ、引き止められました。

「君はまだダメ」

 『どうして?』エミリーはそう言いたかったのですが、少年のあまりに真剣な瞳に言葉を失ってしまいました。

「たくさん思い出を作って、お母さんに胸を張って『楽しかったよ』と言えるくらいに生きるんだ。そうでなくちゃ、お母さんが悲しんでしまうよ」

 バスが少年の目の前で停車してドアが開きます。少年はそこへ入って席に座ると、窓から『良い子だ』とエミリーに声をかけました。

 青白いバスが走り出すと、ふわりと宙に浮いて、星空をどこまでもどこまでも駆けて行きました。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 今回のお題は「バス停」です。『バス→ここではないどこかへ行く→あの世とこの世を繋ぐ』というような発想で生まれたお話です。ハロウィンのお話にしたのは今がその時期だったからですね。このお話がお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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