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「憑依と肚と女神イナンナ」 概略版

来週の水曜日(6/20,2018)田畑浩良さん(ロルファー)と「晴れたら空に豆まいて(代官山)」で対談イベントをします。

http://mameromantic.com/?p=58021

そのテーマが「憑依と肚(はら)について,空間に於ける位置関係のパフォーマンスに与える影響」です。

これを聞いた人から「え、なに、なに?意味わかんない」というご意見をいただいたのでブログを書きました(こちらです→)。

が、「よけいにわからなくなった」という方も少なからずいらっしゃったし、「長すぎる」というご意見もいただいたので、ざっくりと概要をまとめることにしました。

▼憑依について

今回のテーマを分けると3つ。

「憑依(ひょうい)」「肚(はら)」「空間に於ける位置関係のパフォーマンスに与える影響」です。最後の「空間に於ける…」は当日のお楽しみということで、「憑依」と「肚」との関係についてお話しましょう。

「憑依」というのは、日本では「神がかり」とか「狐つき」といわれています。何かがその人に乗りうつるんですね。神様が乗りうつると「神かがり」、狐の霊が乗りうつると「狐つき」。狂言には「ふくろう」の霊が乗りうつるなんていうのもあります。

狐つきなどはこの頃はあまり見なくなりましたが、「神がかり」という言葉はたまに使いますね。「あの人、神がかっているよね」なんていいます。そのとき、彼は神さま(たとえば音楽の神ミューズとか)とか、あるいはその分野の名人の霊に憑依された状態でパフォーマンスをしているのです。

そう。憑依するのは神霊や精霊だけではないのです。生きている名人も憑依します。

能でも生きている人の霊、すなわち、生霊が憑依することもあります。光源氏の恋人のひとりである六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の霊が梓巫女に憑依する『葵上(あおいのうえ)』という能もありますが、幽霊(死霊)が憑依することもあります。

この憑依された状態を、能では「狂う」といいます。「狂う」の語源は「くるくる」回ることとも…。で、この「回る」が「舞う」になったともいいます(が、この話はまた)。

▼口寄せ

能の主人公(シテ)の多くは、神様や幽霊、あるいは動植物の精霊です。

シテの役者は、面をつけることによって、この憑依状態を作り出し、神様や幽霊、あるいは精霊を身に憑(つ)けたのでしょう(あ、むろん、現代の能では憑依はしません。為念)。

その昔は神さまが自然に憑依したり、あるいは神様の声が自然に聞こえたりしていたときもあったでしょうが、それがだんだんできなくなると、人為的に神様の霊を呼び出して、共同体の未来を知るということが行われるようになりました。

「託宣」というものです。『古事記』の神功皇后が有名です。

また、亡くなった親や先祖の霊を呼び出す「口寄せ」も行われました。日本では恐山のイタコが有名ですね。

▼肚からの声

この「口寄せ」が『旧約聖書』に出てきます(「サムエル記」:これは高井啓介先生に教えていただきました)。

ギリシャ語(コイネー)では「口寄せ」を「エンガストリミュートス」といいます。これは「肚(ガストリ)」からの「ことば(ミュートス)」という意味です。

憑依状態になると、神霊や幽霊の声は「肚」から出てくるのです。

「肚(はら)」というのは、いま僕たちがイメージするお腹よりは、もうちょっと下、下腹部あたりを指します(ちなみに漢字の「肚」には、「ふくらんだ腹」という意味合いもあります)。

肚(下腹部)は、古代においては多くの地域において「心」の定位置でした。たとえばイエスの「あわれみ(スプランクニゾマイ)」は「内臓が動く」が原義ですし、ヘブライ語やシュメール語の「あわれみ」は「子宮」に根差した感覚でした。古代中国の「心」という文字は男性性器に見えます。

「(感覚として)心はどこにある?」と尋ねると現代人の多くは胸(心臓)を指します。心臓のどきどき感が「心」だったりします。すなわち「心からの言葉」というときには、頭ではなく、心臓のどきどきに従って出てくる言葉をいいます。

ちなみに、このごろ小学校などで「心はどこにあると思う?」と聞くと「頭」を指さす子が多い。そういう子にとっては「心からの言葉」というのは「よく考えて出て来た言葉」ということになるのでしょう。

しかし、エンガストリミュートス=肚からの言葉の場合は、心臓のどきどきでも、頭による思考でもなく、内臓感覚や子宮感覚に根差した言葉です。

▼肚とロルフィング

「エンガストリミュートス」というのは、自分の「肚」にこそ神が宿る、あるいは先祖の智慧が宿るという古代人の身体感覚だったのかも知れません。現代的にいえば「無意識からの声」、あるいは「腸内細菌の声」といえるかも知れません。

ロルフィングにおいて「肚」を扱うセッションは、全体(10回)の真ん中に当たる重要なセッションです。表層の筋肉である腹筋(腹直筋)をゆるめ、その奥にある「大腰筋」にアプローチします。そのときに内臓の状態を整えることもあります。

このセッションが終わると、「《腹が据わる》という感覚がわかった」という人が多い。いままでみぞおち(横隔膜)あたりにあった重心が下腹部に下がる感覚を得ます。

大事なことを言うときや、大事なプレゼンテーションなどでは頭や口先ではなく、この「肚」からの言葉が出るようにするといいかも知れませんね。

ここら辺は当日、田畑さんにお聞きしましょう。

▼人形劇『イナンナの冥界下り』

さて、この「エンガストリミュートス」ですが、古典ギリシャ語の辞書で引くと「腹話術師」という意味もあります。デルフォイの神託を告げる巫女が腹話術を使ったともいいます。腹話術というと人形を使ったものを思い出しますが、もとは神託の声だったのです。

そして、これが今回、人形劇『イナンナの冥界下り』を上演する意味です。

今回は、「エンガストリミュートス」、すなわち肚から出る能の発声を使って人形劇『イナンナの冥界下り』を上演します。使う言語は、世界最古の文字で書かれた、現在確認し得る世界最古の言語であるシュメール語です。

これは、演劇というよりは「密儀」です。

『イナンナの冥界下り』の詳しい内容はこちらをご覧ください

PVは再掲しておきます。短い方は45秒、長い方は約8分です。

では、みなさまと「晴れたら空に豆まいて」でお会いできることを~!

こちらです。