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鉄リサイクル業のSDGsへの取り組み シオガイグループ塩貝大社長(前編)

スクラップ業者であるシオガイグループの塩貝大代表取締役社長にインタビューをさせていただきました。前後編にわたって、ご紹介いたします。

塩貝さんと田島との出会いは3年前。
塩貝さんは、まだ学生だった田島を、8ヶ月間毎週に渡りスクラップ工場へ訪問受け入れして下さりました。この際半年以上かけて撮影した数万枚単位の画像が、今のEVERSTEELの基礎データになっています。
鉄スクラップ業界が抱える問題、環境解決に向けて塩貝さんが取り組んでいること、そして未来への想いを、今回特別にお話いただきました。

塩貝さんと田島
塩貝さんの工場にて、学生時代の田島が異物を撮影していた風景

大量の鉄スクラップの加工、シオガイならではのサービスへのこだわり


 ー 御社の事業について教えてください。

塩貝さん:弊社は今年で創業70年の会社で、売上の7割は先代から行っているスクラップ事業です。スクラップを買い取って、メーカーの品質基準を満たす商品へ加工しています。6工場中5工場がスクラップの加工業をやっていて、売上の残り3割は産業廃棄物処理・収集運搬業と総合建設業を行なっています。

ー 現場の方は日々どういった仕事をされているのですか?

塩貝さん:売上の7割を占めるスクラップ業では、スクラップの荷受けからお客様誘導、荷降ろし、検収してお客様に代金を支払って帰ってもらうという一連の業務を行なっています。 
荷受けでは、お客様の積荷の重量を測定します。作業員はお客様の誘導を行なった後、荷降ろし作業を行います。鉄スクラップは人の手では動かせないので、オペレーターの指示のもと、車を誘導して荷降ろしをしています。その後、スクラップの品質ごとに仕分けながら的確にチェックして、品物を検収するのがオペレーターの作業です。

シオガイがお客様から喜ばれているのは、お客様にプラスαのサービスをご提供しているところだと思っています。単純な検収作業を実施するだけではなく、お客様のためにトラックのアオリの開閉を実施します。また、ユンボ(重機)の資格を持っていない従業員は、荷ほどきや、お客様の車両のパンク防止のために、動線の掃き掃除といったお手伝いもさせていただきます。
シオガイでは、ユンボやフォークリフトやトラックの免許資格制度を設けています。会社が資格取得にかかる費用を負担することで、従業員の資格取得を促進しています。お客様対応や従業員資格制度は、他の会社との大きな違いだと思っています。


鉄のリサイクル、SDGsに取り組んでいる意識はあるが、アピールすることが難しい


ー リサイクル意識が高まっている最近では、鉄スクラップ業の行うリサイクルの認知度は上がっていると感じますか?

塩貝さん:産業廃棄物のリサイクルについては、一般の方の認知度が上がっていると感じています。しかし、鉄スクラップ業の認知度はまだ低いと思っています。
鉄スクラップ業と産業廃棄物処理業は別々の業態で、どちらも廃棄物を扱っています。廃棄物処理業の廃プラスチックリサイクル、容器包装リサイクル(ペットボトル、容器トレー)は、一般の人には良く知られています。鉄スクラップは、一般的にはジュース缶(スチール、アルミ)がリサイクルされているくらいで、他の鉄リサイクルは一般の人は想像しづらいかもしれません。

ー なぜ鉄リサイクルの認知度は低いのでしょうか?

塩貝:例えば鉄リサイクルで生産される材は、住宅などで鉄筋コンクリートとして使われるような鉄筋棒が圧倒的に多いです。しかし一度建築物になると、生活する人からは見えなくなってしまいます。ペットボトルや容器のような日用品に比べ、鉄リサイクルで生産された材は身近に感じるタイミングが少ないため、業界全体の認知度が低いと思っています。

SDGsに取り組んでいる認識はスクラップディーラーとしてはあります。しかし、アピールができていないことが問題だと感じています。鉄は昔からずっとリサイクルされているので、どのように世の中に伝えればいいかがわからないんです。産業廃棄物処理業では、一般の人の目の前にリサイクルする物があって、どのようにリサイクルされているかも想像しやすいので、認知されやすく評価が上がりやすいです。しかし、一般の人が鉄スクラップを目で見ることは少なくわかりにくいため、リサイクルをしていることをアピールていくことが難しいのが実態です。

シオガイでは、今年から積極的にSDGsに取り組んでいることをHPで掲載したり、SDGsの勉強会をやったり、CSR環境報告書を作成したりしています。

ー 鉄スクラップ業者の中で、SDGsの取り組みをアピールしていこうという会社はどのくらいありますか?

塩貝さん:鉄リサイクル工業会の関東支部錆年会が32社あるのですが、勉強会で聞き取り調査を行ったところ、取り組んでいるのは4社だけで取り組み内容もばらばらでした。SDGsの17のターゲットに対して何を取り組んで行こうかと考えるところまでいっても、実行できる会社は少ないです。どのように取り組めばいいのかわからないというのが現状です。
鉄スクラップは創業100年3~4代目が多く、私も3代目です。親が60~70代となると、SDGsについて説明するのが難しく、「親が納得しないからその先どうすればいいかわからない」という会社もあります。
環境に対する取り組みは、社員にどのように説明し、どう理解してもらうかが難しいです。SDGsについて、紐解いて社員に説明していくことが会社にとって大事なことです。
その一環として、シオガイではユンボやトラックをどれだけ使用したかを入力すると、CO2がどれだけ排出されているかを数値化してくれるソフトを使って見える化を図っています。

ー CO2排出量自体を数値化していることに驚きました。リサイクル業界の場合、業務を通じてどれだけCO2排出量を抑制することができたかの、減少分をアピールすることが多いと考えていました。

塩貝さん:これだけCO2を減らしたとメーカーでは数値にできますが、スクラップ業者であるシオガイは、CO2排出量を数値化しているんです。

ー 鉄の業界の面白さや、やりがいを教えてください。

塩貝さん:この業界に入って16~17年経ちますが、会社に入って初めて知った面白さは、機械に乗れる・鉄を溶断するといった、ダイナミックで他ではできない業務内容です。建設業はものを作ることが仕事なので、至る所を溶断するなんでことはできないですよね。一方で鉄スクラップは廃棄物なので、基準内の大きさに切ればよい。どれだけ早く切れるか、どういう機械を使うと加工しやすいかと、技術自慢をして共有することが面白かったです。今日は何トン切ったかとか。笑

しかし、鉄の値段には相場があって、価格を下げ合うことで収益率を下げてしまっています。収益率を上げるためには価格を上げなければならないという価格競争が常につきまとうことで面白みが薄れてしまいました。

しかし、次第にお客様に喜ばれるサービスを提供することがやりがいになってきました。シオガイでは、お客様の誘導や、トラックを開けて折りたたんで閉めてと、他社では行っていないサービスを行うことで、他社との差別化をすることができていると思っています。「シオガイのサービスはいいよね」という観点からも、お客様に弊社を選んでいただいています。

ー 差別化によってよりよいサービスを提供しているんですね。

塩貝さん:普通のことかもしれないけれど、他の会社がやっていないことをやる。車の誘導、掃き掃除の手伝いなどといった単純なことです。

ー 最近のリサイクルでは、どこに面白さを感じていますか?

最近のリサイクルの面白さは設備機械ですね。光学選別といった、より細かい貴金属が取れることで、更にリサイクルが進み、トランプエレメントが防げるのが面白いと思っています。鉄はどんどんリサイクルを進めていかなければいけません。今までは輸出が中心で、市中くずになって加工されたら海外、特にアジアに持っていくことが主流でした。それが日本で循環させなければならないと変わってきています。売買ではなく、日本の技術ものづくりの考え方に面白さを感じるところです。

ー なぜEVERSTEELに協力していただけるのでしょうか?その理由を教えてください!

EVERSTEELさんと取り組みをさせてもらっているのは今後の将来性があると思っているからです。鉄スクラップ業はきれいな業界ではないので、今後若い人が入ってこないかもしれない不透明性があります。しかし、人がいないと成り立たない業種です。汚いと思われてしまっている業種ですが、SDGsに取り組んでいることはアピールしていきたいです。新しい人材が入ってくるような体制を業界全体で作っていかなければいけません。機械で判別して補助してもらいながら、3人を2人に減らすことも必要です。
どれが最先端、一番かという話ではありません。


後編は、鉄スクラップ業界、そして未来のために塩貝さんがどのような想いでいるかをお伝えします!ぜひそちらも続けてご覧ください。