塾アルバイトのこと

大学時代、個別指導塾でアルバイトを5年間した。その5年間の経験は自分にとってどんな体験であったのか、どのように血肉として自分に身についているのか気になったので書いていく。

はじめたきっかけは、たわいもない。浪人してまで向き合った勉強のスキル(大してできるわけではない)を誰かに還元できるなら、そこそこ時給が良いから、仲の良い友達が始めるからという、面白みもないごく普通の理由である。大学1年4月のペーペーの僕には〝こういう能力を身に着けたいから〟と自己成長の念を投じた思想は時期尚早であった。ゆるーくやって、まぁまぁなお金が稼げたらいいなと思っていた。

そんな思いから始めたが、高校受験生、大学受験生を中心にたくさんの生徒達と触れ合ってきた。宿題を1カ月間やってこない者、個別指導なのに授業中に寝てしまう者、板書だけでなく口頭で述べたことも聞き逃さずメモを取る者、宿題の疑問点をナーナーにせず必ず質問に来る者。たくさんだ。挙げたらきりがない。僕は、やる気がない子にも「がんばって!はい、起きてやるよ!」など注意喚起をして勉強を促すが、どこか必要最低限の情報しか伝えていなかった気がする。それよりもやる気がある子、〝偏差値を1でも上げたい、校内試験の順位を上げたい、志望校に受かりたい〟姿勢から熱意を伺える子に労力を費やしていた。

そんな熱血塾講師とは程遠い僕の五年間であったが、

今思えば、どんな子にも共通して寄せている思いがあった。

受験を終えて高校生になっても通ってくれる子、偶然街で会った子には必ず聞く質問があったと思う。

「どう?学校楽しい?次の学校行事はなに?部活はどう?」

すごいシンプル。授業のアイスブレイクなんてことじゃなく、純粋にその生徒の学校生活が気になった。「めっちゃ楽しい!文化祭でメインの役をやることになったの!」とA子ちゃんの返答を聞いた時にはそうかそうかと笑みがこぼれる。B君が「練習マジ疲れるし、中学より部活きついんだけど」とだるそうに答える。しかし掘ってみると1年生で唯一レギュラーを勝ち取っていること。友達と毎日部活後に買い食いをしてお金が全然ないこと。なんだか自分のことのように嬉しくなる。

受験競争で勝った負けたなんてことではないと思う。もちろん、立場上生徒の偏差値は何としても上げたいし、志望校に受からせたいと尽力する。でも、一番望んでいたことは、その子が歩んでいる学校生活が笑顔で溢れること。志望校なら「頑張ってよかった」志望校じゃなくても「落ちてこの学校入学出来てよかった」と。受験戦争に勝った負けたなんていうちっぽけな世界観、偏差値という縦の指標に惑わされることなく、ワクワクした毎日を送ってほしい。下駄箱で上履きに履き替えたら、全力疾走で教室に入ってもらいたい。部室でくだらないことに全力で笑ってほしい。

よく塾講師のアルバイトをしていたら、相手の立場になって物事を考えられるようになったとか、課題解決能力がついたとか、コミュニケーション力がついたとか耳にする。正直僕にそのスキルが五年間でついたかは分からない。だっていまだに誰かを傷つけるし、トラブルが起きたら冷静に判断できないし。

でも、例えばある時ふと「あいつもう高校生か。元気にやってるかな」とか「お喋りだったけど授業中はちゃんと黙ってんのかな」とか頭をよぎったりする。

だから自分が得られた力って、講師と生徒の関係がたとえ終わっても

目の前の子の毎日が他の誰よりも充実しますように、と心の底から思える力。

これなんじゃないかなと思った。

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