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求めたものは手に入りましたか?ドラマ「天龍八部」の無常

2023年に見たドラマの中でもずいぶん面白かったので、ドニーさんの映画公開されたことだしまとめようね! と思ってまとめました。

初夏から夏にかけておうちの人と一緒に「天龍八部」というドラマを見ていたのですが、たいへん面白かったのでその話です。

丐幇かいほう(武芸のできる物乞いが組織化して巨大な情報ネットワークになっている)の幇主である喬峯きょうほう、大理国の皇族たる段誉だん・よ、少林寺の修行僧、虚竹こちくの三人と、それに関わる様々な人間の因縁と物語を、宋と遼という二つの国の争いに絡めて描く歴史群像劇が天龍八部。
なんだけれど、ドラマは無常の話として作ってあり面白かったです。

この天龍八部、主人公と呼ばれる三人+暗躍する若い貴公子が話の軸にいるんですが、ハッピーエンドが満額支給された人が誰もいなくてすさまじかったです。ってっていうのも、物語の主人公たちは、欲しいものを手に入れるのと引き換えに、大事なものを持っていかれる構造になっていて……その……手心というか……っていう気持ちになる。

キャラクターの関係が複雑で話の核心に触らないようにするのがちょっと難しいので、以下その主人公たちが辿った道のりの話をします。すごいぞ。

話の主軸になる主人公は、会って好きになる女の子がみんな父親の隠し子だった王子様、段誉。惚れた女が妹である打率が10割。どうして……
段誉に関しては本当に、こいつがなにしたっていうんだ、生まれただけだぞと思っていたら、まさかの「おまえの生まれがアカン」っていう展開に「そんなソリューションある?!」って声出た。そのとんでもねえソリューションで最愛の女性(ただし女性にとって段誉は永遠に二番目に好きな人)の手を取れた代わりに、段誉は大好きな家族を失い、次の大理国を担う者になります。
とにかく好きな人に対して誠実であろうとするのが段誉の美徳です。約束したから、って意中の人(のちの妹である)のピンチに駆け付ける姿はちゃんと主人公! って感じ。教養もあり、プリンス然とした素直さと育ちの良さがうかがえるところが好きでした。自分はきみにとって二番目だと知っているけど、きみが嫌でなければ一緒に来てって言えるのが、この子の器なんだよな。

喬峯は非の打ち所がない大侠(武術家界隈で人格も武功も凄い人をそう呼ぶ)だったけど、この人も段誉と同じく「おまえの生まれがアカン」って、実家みたいに思っていたコミュニティから追放されてしまいます。あげく養父母と武芸の師匠も謀殺され、作中で失った名誉の回復と養父母の敵討ちやったら想い人を死なせてしまうし……その想い人からは今際の際にキングボンビーみたいな妹押し付けられるし……
喬峯のすごいところは、育った宋という国も本来の出身である契丹もずっと大事にしているところだなあと思います。生まれた国と育った国が違うっていうのが喬峯を恩讐の板挟みに追い込んで、もうこうするしかねえなっていうラストに向かって腹を括るところが、しんどいけどかっこいいんだ……

虚竹は少林僧として教えを大切にしつつボンヤリと(本当に役者さんのボンヤリ演技がすごい。人の話を聞く時に口がずっと半開き)してるんだけど、仏門の教え以外なんも知らないもんだから悪い童姥(見た目10歳の中身94歳の女性)に引っかかって、強い武功と引き換えに女性と同衾しちゃうし肉は食べちゃうし人も殺めるしで、少林寺から破門されちゃう。
おまけに悪い童姥の遺言のせいで、彼女がトップやってた悪の組織みたいな一門を継ぐことになって、組織の体質改善とか、童姥の後始末とかに奔走している間に、ちゃっかり同衾した女性(実はよその国の公主さまだった)のところに婿入りもしている。
破門されて、悪い人の一味みたいな立場になってしまったけど、そこからどうやって仏の道を再び見つけるかっていうのが虚竹のテーマとしてあって、ボンヤリだった彼がどんどん凛々しくなっていくのがよかったです。

あと、慕容復という青年が、ドラマだと随分と厳しい立ち位置の青年でした。彼を取り巻く大人に「おまえら今すぐこいつに謝れ、または降龍十八掌だ」っていうヤジを飛ばしながら見ていました。
慕容復くんは暮容さんちの復くんで、慕容さんちは燕という700年ぐらい前に滅んだ国を復活させるのだというのが悲願(なんだけど、現状フワフワした理想だけの集団になっているかんじ)。それで「復古、復活」の復っていう名前をつけられて、自称亡国の皇子として色々な陰謀を巡らし、主人公たちの前に立ちはだかります。
ドラマだとその悲願達成の道具として自我の薄い育ち方をしてしまったのが復くん。政略結婚相手のお嬢さんのことは彼なりに愛着はあったみたいなんだけれど、復くんのコントローラー握ってるのが親と家臣団なので、もっといい婿入りの先ができたら乗り換えろって言われちゃって、乗り換えちゃう。後半でようやく自分の意思で物事を決めたら決めたで家臣団から「それはいけません」を言れ続けるし、挙句全部がご破算になったあと、自分を良いように使っていた親は勝手に悟って勝手に陰謀から降りちゃうしで、気持ちの持っていきどころがなくなった復くん、あんまりにもあんまりなエンディングを迎えます。とりあえず燕国の王様にはなれたよ。

もうずっとこんな具合で、欲しい物は手に入らず、望まない物ばかりが人生に積まれていく若者の話。段誉くんが気が多いけど素直で、虚竹がボンヤリだけど善人で、だから不遇な人格者である喬峯が一息つけているっていう構図がよかったなあと思います。色々と翻弄される人たちだけど、愛することを知った段誉くん、悟りを得た虚竹、己の誇りを失わず生きた喬峯と、自覚していなかった心の柱については折れずに生き抜いた人たちで、見守れてよかったなあと思います。

50話超えるし、因縁とか恩讐とか当時の宋が置かれている状況とかが結構複雑に絡んでいる作りをしているのですが、立ち回りかっこいいし、歴史全然詳しくない自分でも愛着や愛情についての話として見ると面白かったので、シャクラ見てようわからん……ってなったら、自分は今触れる天竜八部としてこのドラマをそっと置いておきます(長いけど)。


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