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ニンジャスレイヤーファンフィクション再掲「リゲイン・イートゥン・トレジャー」

◆エクササイズゼロ:ロングスリーパー◆
ユメタベル・ジツの使い手。寝ている相手のニューロンに侵入し相手の記憶を一部削り取ることができるが、本人も寝ていないとジツが使えない

((私がニンジャスレイヤー……ニンジャを殺すものだと……? そんな荒唐無稽な話が……))トレンチコートにハンチング姿の男の名は、フジキド・ケンジ。探偵だ。

フジキドは、先程のナンシー・リーとのやり取りを思い返す。アマクダリの末端組織が絡んだとるに足らぬ仕事、と言いながら、ナンシーは「次の標的」を示した。フジキドはいぶかしんだ。

なぜならフジキドは一介の探偵風情であり、ニンジャと渡り合うなど不可能だからだ。フジキドが正直に伝えると、ナンシーは明らかに苛立った様子だった。「笑えないジョークよ、ニンジャスレイヤー=サン」

そうは言われてもニンジャスレイヤーが何なのかも分からぬ。押し問答の末、今回のビズは流れた。非力なフジキドは、N案件はいつも——いつも?どのように処理していた?思い出せない。

記憶を取り戻そうとするフジキド。しかし、思い出そうとすればするほど、刺すような頭痛がフジキド襲う!「グワーッ!」((これは……一体……))

この感覚には覚えがある。かつて彼がサラリマンだった頃、無理な仕事で3日ほど徹夜した後のそれだ。寝不足である。((とにかくどこか……横になれる所を……))フジキドは、目についた退廃ホテルにチェックインし、部屋の床に倒れ込んだ。

「よォし、ぐっすりだな……」白装束に黒いフードつきメンポのニンジャは、ローカルコトダマ空間のチャノマで熟睡するフジキド……否、ニンジャスレイヤーを見下ろした。

彼の名はロングスリーパー。セクトのニンジャだ。しかしセクトのニンジャがなぜ、ニンジャスレイヤーのニューロンに侵入しているのか? 答えはこうだ。ロングスリーパーは、ニンジャスレイヤーの仲間めいて他者のニューロンに潜行できるのだ!

「自分が死神だったなんて、露ほども思っちゃいないみたいだな」ロングスリーパーはほくそ笑む。彼はチャノマの中にひっそりと伏せられた写真立てに目をつけた。そしていきなりそれを手に取り、口許へ——まさか、咀嚼するというのか!

ロングスリーパーはその写真立てに何が飾られているか知っている。この狂人の、復讐者の、復讐の根元となるものだ。「フジキド・フユコ、フジキド・トチノキ。イタダキマス」ゴウランガ! ロングスリーパーは写真立てをフレームごと口に入れ、噛み砕いてしまった!

読者の賢明なジツ専門家は、ロングスリーパーが何をしたのかお分かりだろう。ユメマクラ・クランのニンジャに伝わるユメタベル・ジツである!眠った相手のニューロンに忍び込み、シロアリじみて記憶を食い荒らす恐るべきジツなのだ!

アワレ、フジキドはこのまま、己が何者かも、己の宝だったものさえ忘れ、ユメタベル・ジツに飲み込まれてしまうのか!

「家族の為だとか、クソみたいな動機だなァ」ロングスリーパーは嘲笑した。彼にとって家族は脛をかじり、暴力で従わせる生き物だ。「くだらねぇ、帰ろ」チャノマのフスマに手をかけた、その時である!

「「グググ……」」唸りとも笑いともつかぬ声とともに、フスマがめろめろと赤黒く燃え上がった。「ワッザ!」ロングスリーパーはたまらず手を引く!「情けなやフジキド……かようなジツ頼みの小僧に遅れを取るなど……」

フスマを燃やした炎は、やがて人のようなシルエットを作った! 「だ、誰だ貴様!」まさかジツが破られたか。うろたえるロングスリーパーに、赤黒の炎はゆらめいた「「グググ……ドーモ、ナラク・ニンジャです。アイサツせよサンシタめ」」

「ど、ドーモ。ロングスリーパーですオゴーッ!」ロングスリーパーのオジギからコンマ0,1秒!赤黒い炎の右手が、凄まじいカラテフックをストマックに叩き込む!「そ、そんな!」そのカラテフックは、ゴウランガ!ロングスリーパーの体内にめり込んでいるではないか!

「な、何をする……」「「ユメマクラ・クラン共は儂が滅ぼした。ユメタベル・ジツなど子供騙しも良いところよ。これこの通り」」ズブズブと引き抜いた炎の腕には、先程の写真立てと、禍々しいメンポが!

「「食った物は貴様自身に保存されると知らぬとでも思ったか?」」「き、貴様は……!」ロングスリーパーは喘いだ。睡眠は人が無防備になる絶対的優位を取れる時間だ。記憶を食い荒らし、ニューロンを疲弊させて睡眠に誘い、また食らう。勝利の永久機関は完成していたはずなのに!

赤黒い炎は、なおも眠るニンジャスレイヤーに吼えた。「「起きよフジキド! 貴様が居眠りをしておる故、儂がニンジャを殺す意外に余計な手間をかける羽目になっておるぞ!」」その一瞬を好機と捉え、ロングスリーパーはローカルコトダマ空間から離脱した。

0010100……「ハァーッ! ハァーッ!」ロングスリーパーは自室のフートンで目を覚ました。「なんだ……なんなんだアイツ……情報に無かった」べっとり汗をかいていた。「チョタロ?」階下から控えめに呼ぶ母に、ロングスリーパーは怒鳴る。「うるせぇババア! 殺すぞ!」

「まずい……ジツが破られたんだぞ……初めてだこんな……こんなブルシット……」しかし、ロングスリーパーはまだどこかで安心していた。この物理肉体がどこにあるか、それは知られていないからだ。それ故彼は聞き逃した。死神の足音を。

CRAAAASH! 部屋のガラス窓が割れる!振り返るロングスリーパー!「夢見はいかがだったか、ロングスリーパー=サン」ジゴクから響く声。赤黒い装束、口元にはユメタベル・ジツで剥ぎ取ったはずの「忍」「殺」のメンポ。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ロングスリーパーです。な、なぜ!ここに!」「貴様がそれを知って何とする。もう二度と覚めぬ夢が見られるのだ。気にせず死に、アノヨで貴様自身の下らぬ夢物語を食い物にするがいい」ニンジャスレイヤーはカラテを構える!

「イ、イヤーッ!」が、仕掛けたのはロングスリーパー!圧倒的カラテの差に怖じ気づき、ヤバレカバレなチョップ! ニンジャスレイヤーは左手で軽くいなし、「イヤーッ!」逆に決断的チョップを降り下ろした!

チョップはロングスリーパーの分厚い皮下脂肪をトロマグロめいてスライス! 「グワーッ!」右腕がケジメ!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーの決断的チョップ! チョップはロングスリーパーの分厚い皮下脂肪をスライス!「グワーッ!」左腕がケジメ!

浅瀬のトドめいて体を波打たせるロングスリーパーに、もはや反撃の手段はない。「ま、待ってくれニンジャスレイヤー=サン! 俺は、ニンジャスレイヤー=サンの為を思って! ニンジャスレイヤーだと忘れて過ごせば、家族を喪う辛さを忘れ過ごせば、今よりはずっとしあわグワーッ!」

ロングスリーパーの舌はそれ以上回らなかった。ニンジャススレイヤー投げたスリケンによって、床に縫い付けられていた。「貴様のつまらぬ嘘は、エンマに代わり今ここで鉄槌を下す」ジゴクの業火じみた恐ろしい声だった。

ロングスリーパーの時間が泥のように鈍化する。彼の目は、ニンジャスレイヤーが振り上げる右足を、そして、それが自分の頭部に振り下ろされる様を、鈍化した時間の中でじわじわと見せつけられた。「や……やめ」「イヤーッ!」決断的ストンピング!

「サヨナラ!」ロングスリーパーは爆発四散!「イヤーッ!」同時にニンジャスレイヤーは回転跳躍! エントリーしてきた窓からしめやかに退出! ザンシンもせずに飛び出したのは、階下からの足音をニンジャ聴力で聞き取ったからだ。

「チョタロ? チョタロくん? どうしたの?」恐る恐る階段を上がるのは、チョタロ……ロングスリーパーの母親であった。普段は開けると殴られるドアをノックし、返事がないのでゆっくりとドアを開ける。母親は息を飲んだ。割れたガラス窓、爆発の焦げた跡。

母親はそれを見渡し、震えた。「チョタロくんが……部屋から出た……」母の目に光ったのは、長年のヒキコモリから脱却した息子を喜ぶ涙であった。

    ◆

「つまり、全部そのジツのせいだった、と」「そういうことになる」フジキドは頷いた。昨日言い合いの末、決裂したビズだった。フジキドは詫び、ナンシーは鷹揚に受け止めた。

「ビズの内容をあらためたい」「ええ、ドーゾ」カネモチ老人相手に巨額のカネを脅し取り、その記憶を消すツーマンセルのニンジャ。その二人が、今回の標的だった。「スナップドナイフとロングスリーパーよ」フジキドは言う「片方は私が始末した。件のジツ使いだ」

「次はこのスナップドナイフとやらか。潜伏先は」「スリーチャヤストリートのアパートよ。詳しい座標はIRCで」「よかろう」フジキドはハンチングをかぶり直し、席を立った。

「リゲイン・イートゥン・トレジャー」終わり

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4年前にTwitterで行われた企画に参加した時のものです。下記togetterから本編のみ抜き出して再度まとめました。

◆テキストカラテ・エクササイズ◆
https://togetter.com/li/627620