見出し画像

【ニンジャ二次創作再録】アベレント・ボーイズ、オーディナリ・デイ②

3年前発行したコピー本のフル再録・後編/これで完結/下記エピソードの主人公たちが学生だった頃について妄想を逞しくしたファンフィクション/ニンジャ・サルベイションはいいぞ

前編


ネオサイタマ市街地から、やや離れた廃ボウリング場。そこがユダカ達を襲ったヤンクの巣。そこに向かって、ユダカとカシイは車を走らせていた。コケシマートの駐車場で、不用心な客から借りたものだ。作戦はなかった。連中に、彼らをナメたことを後悔させる。それだけだ。

目的のボーリング場が見える。「いくぞ」ユダカが声を掛けると、カシイはミラー越しに頷いた。その手には金属バット。

駐車場から見えるボウリング場は前面がガラス張りで、中の様子が分かる。電気の通らぬ建物内では、ドラム缶焚き火を囲み騒ぐヤンク達が、ざっと二ダース。クラブ襲撃からあまり間は開いていない。ユダカ達を話の種にでもしているのだろうか。

ユダカは涼しい顔で、ガラス壁に向かってアクセルを更に踏んだ。無灯火だった車のライトをハイビームにし、中のヤンク達に浴びせる。そして、植え込みを乗り越え、車はガラスを突き破りエントリーした。

CRAAAAAAASH! にわかに起こったデスパレートな乱入に、ヤンク達は逃げ惑う。狂騒の中でユダカはハンドルを切り、可能な限りヤンクを散らした。「行け!」

合図を聞いて、カシイはドアから飛び出した。虚を突かれたヤンク達を、雄叫びとともにバットで片っ端から殴り倒していく。カシイには、逃げる奴は放っておけと言ってある。深追いしなければカシイだって充分やれる。

たったふたりの中学生と侮ったことを、思い知らせる。急停車させ、ユダカはドアを蹴り開けた。ユダカを狙っていたヤンクがひとり、開いたドアにぶつかって倒れる。振り返らずに、ユダカもバットを手に駆けだした。

思ったよりカシイと離れてしまった。合流しようとバットを振るい、ヤンク達を牽制しつつカシイを探す。レーンの上で暴れ回るカシイの姿を認めたとき、カシイが、糸が切れたように倒れた。

一瞬、ユダカの足と時間が止まった。「カシイ」カシイの後ろにいるのは、スユキの兄だ。赤黒く染まる拳を打ち鳴らしてニヤニヤ笑っている。

「カシイにテメェ何やりやがった!」ユダカは巨漢を睨んだ。「俺の! ダチに!」うつぶせに倒れたまま微動だにしないカシイの姿。嫌な汗が流れる。「起きろ! おい! カシイ!」返事はない。

ユダカは奥歯を噛みしめ、深く息を吸った。持っている武器は金属バットと怒りだけだ。充分だった。息を吐く。呼吸をすることと同じだ。こいつらをぶちのめす。

腹は決まった。「アアアーッ!」自分自身にキアイを入れ、金属バットをヤンクの足の甲へ打ち下ろす。振り返りながら、右の肘を顎めがけ振り抜く。骨と骨がぶつかる音が体に響いた。

ユダカは自動販売機を背にヤンク達を迎え撃つ形を取った。振り下ろされる鉄パイプを躱す。代わりに殴られた自動販売機が、バチバチと火花を立てた。バットをスイングするように、相手の腹へ一発。くの字に体を曲げ、ヤンクは倒れる。ホームランだ。

金属バットを捨てる。真っ向から飛んでくる右ストレートの腕を取り、勢いを利用して他のヤンクにぶつける。ボーリングのピンじみて、ヤンク達はまとめてドラム缶の焚き火へ倒れ込んだ。次。椅子を掴んで顔面を殴りつける。次。

溶岩じみた怒りがユダカの燃料だ。振り下ろし、突き、薙ぎ払い、殴り、蹴倒す。自販機や柱に相手の頭を叩き付け、ボーリングのボールを投げつけもした。

道は開けた。カシイを助けないと。走り出そうとしたユダカの体が宙に浮いた。太い腕がユダカの体を掴み、持ち上げている。スユキの兄だ。足を動かし逃れようとするが、それは元スモトリ部の怪力が許さない。

 易々と持ち上げられ、体をボールラックに叩き付けられてしまった。「グワーッ!」「ナメやがって! ぶっ殺してやる!」血走った目でユダカの首を掴んで、引きずり上げる。「……やって、みろよ」「ナンオラー!」ボディーブローだ! 喉を絞められたユダカは声も上げられず体を揺らす!

しかし、首を絞める片手を掴んでいたユダカの手が、リバースキツネサインを作る。挑発行為だ。「ザッケンナコラー!」ボディブロー! 喉を絞められたユダカは声もあげられず体を揺らす! しかし、重い一発を食らいながら、それでもユダカの目は死んでいなかった。

なぜなら彼は見ていたからだ。昏倒していた友達が頭をおさえて起き上がったのを。ユダカはぎらついた笑みを浮かべた。

頭が濡れている。カシイがいぶかって触ると、どろりとした血が手を赤く染めた。自分の血だった。あたりを見渡すと、そこかしこでヤンクが倒れている。ユダカがやったのだ。((ユダカは?))首を巡らすと、スモトリ崩れに吊るし上げられているユダカがいた。

((ちくしょう! ユダカ!))立ち上がろうとして、一瞬ぐらつく。こんな怪我をしたのは久しぶりだ。いつも、危ないときにはユダカが助けてくれたからだ。ユダカがいたから無茶ができた。((待ってろ、今、行く))カシイは金属バットを杖代わりに、身を起こした。今度は俺が、ユダカを助けないと。

カシイは目に着いた大漁旗をバットに巻くと、ドラム缶焚き火で旗に火をつけた。「グワーッ! 熱い!」存外勢いよく燃え上がった炎に驚いたのも束の間、カシイはそれをデタラメに振り回しながら走った。友達のところへ。「ユダカ!」金髪の後ろ姿めがけてバットを振り下ろした。「ウオーッ!」

カシイの両腕に手応えが伝わる。「グワーッ!」スユキの兄の金髪が赤く染まった。「ウオーッ!」もう一発。まだ倒れない。更に打撃。着崩したXXLサイズのワイシャツに火が移り、ついにスモトリ崩れの巨体はユダカを手放した。

「ユダカ!」カシイは熱くなった金属バットを投げ捨て、ユダカへ駆け寄る。「助かったぜ」ユダカはカシイの手を借りず起き上がると、金属バットを握った。ワイシャツを脱ぎ捨てて火を消すスユキの兄へ、容赦ないフルスイング。

横面を殴る。何かが割れるような手応え。カシイのぶん。ぐらついた巨体のみぞおちを、残った力を振り絞り、鉄パイプの先端で突く。ユダカのぶん。苦悶の表情を浮かべて体を丸めた首筋に、とどめを振り下ろす。ふたりをナメたぶんだ。

スユキの兄はカートゥーンのカエルじみた声をあげて、その場に倒れた。

このケンカ、ユダカ達の勝ちだ。



ヤンク達から拝借したバイクで、ユダカとカシイは来た道を引き返していた。心地良い揺れと排気音が、彼らの熱を徐々に冷ましていく。「お互いひでえな、カシイ!」「ホントにな!」怒鳴るように声を掛け合う。

「ユダカ! 腹減った! ドンブリ・ポン食おうぜ!」「このカッコで?」「ダメか!」「ダメだろ!」ユダカは首をのけぞらせ、カシイに頭突きした。

「カシイ!」「おう!」「お前がいてくれて、よかった!」ユダカは言う。暴力の揺り戻しで今にも吐きそうだったが、自分をクールだと言うカシイの手前、クールでいなきゃいけない。そうやって意地を張らせてくれる相手が、後ろにいることが心強かった。

「何だよ、気味悪ィな!」今度はカシイが、ユダカの後ろ頭に軽く頭突きを食らわせる。「いってえ! お前、頭の傷開いても知らないぞ!」「うるせえ!」

カシイはバイクに刺さっていた邪魔な大漁旗を捨てた。「へへへ」「へへへ」窮屈な日常へ戻る少年達のバイクを、珍しく朝日が照らしていた。

おわり

ニンジャのオンリーイベントに出る原稿書いてる最中にブロマンスのノワールものがお出しされて頭がおかしくなったので、突発でコピー本作ったやつの再録です。3年経ったしよかろうという判断で再掲しました。当時お買い上げいただいた皆様ありがとうございました。

ニンジャ・サルベイションは、会社をやめた男とニンジャになった男の、爽やかで、悲しくて、暴力と暴力と友情のロードムービーです。ニンジャスレイヤーの1エピソードだけどニンジャスレイヤーはほとんど出てこないので、なんならニンジャスレイヤー読んだことがなくてもぜんぜん大丈夫。むしろ、スズメバチから入った人にはサルベイションがガッチリはまると思います。読んでくれ。頼む。

これ、サルベイションの1話。

あと、

これ、一昨年くらいのニンジャのハッシュタグイベントで、めちゃくちゃカッコいい漫画を描いている方がいるやつ。読んでほしいです。