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Sapphire from Pune。

プネーからサファイアがきた。
プネー。それはインドの都市。
大学時代の同級生が住んでいる。
その同級生から十年ぶりにメッセージが来た。

「小田さん、お久しぶりです。世の中大変なことになってそれも落ちつきはじめていますが元気でお過ごしでしょうか?」

「お願い事があってメッセージしています。青とピンクの二色サファイアの原石を手に入れました。これでブレスレットを作ってもらえないかと。(中略)こういう注文が多分一番面倒くさいとは思うのでまずは引き受けてもらえそうかだけお返事頂けるとありがたいです。」

ええー。ほんっと。面倒臭い…
…というオレの顔はニヤニヤしている。

玉屋えゐちでは石の持ち込みの製作はしていない。なぜなら輸送途中や製作途中に不慮の事故や出来事で石に何かあったら取り返しがつかないから。

でも相手は大学時代の同級生。十年音信不通でも二十年会っていなくても面倒臭いことにはならないという妙な信頼感。

アタシ以外は変わり者だらけという様な哲学科などというこれまた人生の先行きなど何も考えずに選んだとしか思えない場所で、お互いサボったり一年行方不明だったりして全然ベタベタとした付き合いでもなかったのに。

たとえばアタシが死んで、それを知った彼らがそれをネタに集まって、大して悲しくもないけどこの世に居なくなったとなるとなんかね、とか言いながら、別に献盃とかもせずにチビチビ呑んでくれたりしたらそれって最高、というような信頼感。

そんなふうに、石を得たからちょっとアタシに頼んでみるかというフットワーク。ニヤニヤするにきまってる。

「石の写真、送ります。」

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っつか、ピントー。
でも確かにこりゃステキな石やで…ということで創ってやるゼと返信。すると

「ありがとう! 来週娘が日本に行くので預けて小田さんの住所に送ってもらいます(インドから石を送るの、なんか、ちょっと心配で)。」

しかし同級男子たちのみんながみんなちゃんと家庭を持って仕事をしてるのほんとなんなの。大学時代のあの姿はどんだけ世を偲ぶ仮の姿だったの。ほんとマジ情報量。

この彼なんて10年前にはやくリタイアしたいとかいってて今副業でヨガのオンライン講師とか言ってるしバリバリFIRE組とかいうやつに決まってる。学生時代からは考えられない…みんなちゃんと大人になっちまって…それに比べてオレのキリギリス道まっつぃぐらと言ったら…

そして Sapphire from Pune。

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石の面を決めて、ワックスコードを選び、使うパーツを選ぶやり取り。で、数週間頂戴して完成。

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意図的に光を当てないと発色しない原石で、特に色の出る部分にはワックスコードがかからない様にして光が入って石の色が楽しめる様にフレーミング。

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サファイアやルビーなどのコランダムという鉱物は劈開がなくて硬度も高いので通常使用で割れたりかけたりする心配はほとんどないけど、原石という性質上硬度にムラがある可能性があるのと厚みのある石の色を出来るだけ見られる様に調整したために石が外れない様に手に当たる部分(裏側)と石の側面は石の補強と落下防止を考慮してガッツリとフレーミング。

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石をホールドするために、どうしても石の表面にもコードを渡す必要があったので、できるだけ石の色を損なわない様に、希望のコードの色とは別の一段暗い赤のワックスコードを使った2色使いに。

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石の裏から光を当てると中央に深く濃いブルー、右の縁に濃いピンク。彼も気に入ってくれた様子に一安心。

「やはり、頼んで良かった。ありがとうございます。
ちょっと相談なのですが、これ、明日金曜日の夜までに届くような配送方法、あるかな? 土曜日から月末まで、ちょっとまた出張なので。」

…アンタ今どこにいんの…
プネーじゃなかったの…

まああれよ。
コレぞアタシの同級生よ。


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