人の趣味を覗いてしまった時。

中学校の遠足で、僕はバスに乗った。

スライムでもバスに乗るのだ。もちろん我が輩は世を忍ぶ仮の姿の時は、それはそれはかわいい男の子の格好をしている。蝋人形にしてやろうか。

グループ行動でウロウロしていた僕は、なぜだか急に気分が悪くなってしまった。

だから、一人だけバスに戻ることにした。

バスに戻ると、幸いにも無人のバスは扉が開いていた。

誰もいないバスに乗り込んだ僕は、真ん中くらいの座席に座って眠ることにした。

zzz

突然、大音響の音楽が流れ出した。

えっ?何?なんだ?

すると、おっちゃんの歌声が始まった。演歌のようだ。

???

そっと前方を覗くと、運転手さんがカラオケを始めていた。

ヤバイ!

僕は反射的に座席に身を沈めた。

見つかったら殺される!

僕は謎の恐怖に怯えた。

僕は見てはいけないものをーいや、聞いてはいけないものを聞いてしまったのだ。

音楽は意外にもすぐに止まった。

どうやら気づかれてしまったらしい。

僕はどうなるかドキドキした。

運転手さんは無言で近寄り、僕の恐怖に怯える瞳をじっと覗きこみ、

分かっているな、誰かに話したらー

とはならず、そのまま外に出て行った。やがてクラスメイトが次々とバスに戻ってきた。

バスは何事もない日常を取り戻し、僕は生徒の一人になった。

運転手さん そのバスに 僕も乗っけってくれないか。

行き先ならどこでもいい。

僕は早く家に帰りたかった。その時の空が青空だったかは覚えていない。





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