野外教育へちょっと変わったアプローチをし続けるエクスプレイヤーがここにいる。

Explaygroundインタビューシリーズ、今回はEXPGメンバーでもある小森先生にインタビューをしました。

〈先生のプロフィール
小森 伸一(こもり しんいち)

所属:健康・スポーツ科学講座 体育学分野
専門分野:ホリスティック教育、サステイナビリティ教育(持続可能な社会のための教育)、野外環境教育、レクリエーション、体験学、幸福学

■野外活動は身体的な活動、だけじゃない。
“野外活動”と聞いてどんなことを思い浮かべるか?
多くの人が、アウトドア・キャンプ・林間学校・登山・ボーイ/ガールスカウト…
大自然の中で自身の体を活発に動かすような類の活動をイメージしないだろうか。
今回のインタビューを通じて感じたのは、先生は野外教育の分野では少し違った(もっと包括的な)アプローチをしているエクスプレイヤーであるということだ。
先生の研究は、野外活動を通じた学びによって身体的・精神的な成長を促すことだけを目的とせず、野外活動およびその学びをホリスティック教育(※1)の1つ「全人的人間力を育む活動としてとらえ、さらには持続可能な社会づくりにもつながっていくという視点からアプローチしている。

■なぜ野外教育なのか
野外教育に興味を持ったきっかけは学芸大学の学生だった頃。クラス担任が国内でもそんなに多くはない、野外活動・野外教育を専門とする教員だった。それ以前から自然との関わりが好きだったこともあるが、自然との関わりを通して得られる学びや効果に興味をもち、この道に進んだという。
野外活動として想起されるキャンプや登山などが好きかというと、確かに好きだがそれだけではない。身体活動から得られる気持ちよさに加えて、自然に触れ味わうことから感じる気持ちよさのほうがより好きで、そこから自然との調和や、調和からの学び、さらには「どうすれば自然と他者と調和した持続可能な社会をつくることができるのか(サステイナビリティ)」「どうしたらみんなが幸せなイキイキとした社会をつくることができるのか(幸福学、ポジティブ心理学)」などへと自身の探求テーマが広がっていった。
そう、先生にとっては「野外教育とは、そういったより良い社会づくりに必要な個々人の全人的人間力を育むホリスティック教育の手段」なのである。

■当時はまだ珍しかった持続可能社会と教育
先生が学生だった当時(1996年頃)の日本では、上記のような切り口から野外教育を考える研究者は少なく、「持続可能な」という言葉を聞くこともほとんどなかったそうだ。海外では研究が先に進んでいたこともあり、英語もできないままに思い切ってカナダの大学院に留学。しかし日本よりは進んでいたとはいえ、当時の「持続可能な」は、経済や国際開発、環境教育的分野に集中しており、理科や社会などの科目における部分的な研究が主であった。
そのため、持続可能な社会をどのようにつくるかについての信念体系まで掘り下げたような研究アプローチはほとんどされず、さらにはそのための人間の根本的な世界観や生活の在り方までを問うような研究も主流ではなかった。
ただ幸いにも、在籍したカナダの大学院では入学年に「エコロジカル・エデュケーション」という、人類の価値観や生き方まで踏み込む教育分野がスタートしたこともあり、この領域での探求ができることになった(エコロジカル・エデュケーションの基本理念は、後にサステイナビリティ・エデュケーションという名称および理論へと継承されていく)。

■直接体験するからこそ得られる気づき
話を戻して、なぜ野外教育はホリスティック教育のツールとなり得るのか。
野外教育には、常に“自然”と“仲間”そして“自分”がいる。この3つはおそらく、当たり前のように大切だと誰もが幼いころから言われてきたものであろう。「自然を大切にしよう」「仲間や友達を大切にしよう」「自分自身を大切にしよう」。
人間の根本的なテーマであるともいえるが、一方で人に言われるだけ、教科書に書いてあるだけで理解することは難しい。実際にそれらと触れ合い、直接体験(原体験・一次体験)を通して本物に触れ、心が動き自分事になることで初めて得られる深い気づきや学びがある。その学習ツールとして野外教育があるそうだ。さらに野外教育では、身体的な活動にとどまらない総合的な学習も可能だ。例えばキャンプ。教育的な意図をもった教育キャンプ(※2)では、“自然”と“仲間”、“自分自身”と関わりながら、身体活動以外にも、ものづくりや歌、焚火を囲んだギター演奏やスタンツ(寸劇)などの「芸術的活動」、また植物や地域、風土を知る「理科・社会的活動」、また日記などで文章を書く「国語的活動」などをおこなうことで、包括的かつ統合的な学びを得ることができるそうだ。

■体験学習がこなすだけの形骸化している実情
そんな野外教育の効果は科学的に実証されており、学習指導要領においても自然体験活動およびその場の学びが重要とされている(特に小学生)。しかしその一方で、学校現場では重視はされているものの、そのような機会が豊富にもたれ、多様で充実した活動がなされているとは言い難いそうだ。
理由は予算と教員の長時間労働。教育予算が減らされているなか、野外教育に必要な指導員や支援メンバーのアサインが難しく、また定常業務だけでも忙殺されている教員に、質の高い野外教育を実践するための仕立てる時間はほとんど残されていない。(教員養成大学の基本カリキュラムが、そのような設計になってないという実情もある)
もちろん運動会や音楽会(野外活動・教育ではないが体験学習)など、1つ1つをみると総合的な学びを意図した体験学習の機会があることはあるが、多くの場合は定例行事としてカリキュラム化しており、体験からの気づきを広げたり、深めたりするところまで至っているとはいえないようだ。気づきは放っておくと流されてどこかにいってしまうため、記憶として定着させ内在化する(自身の血肉とする)ことが重要であり、そこにこそ教員や大人が支援する価値があるそうだが、現実はなかなか手が回っていないのが実情なのかもしれない。

■カリキュラムのない「遊び・体験=学び」を軸とする学校づくりがしたい
先生はこれから、教育や学びの観点からどのように社会づくりに貢献できるのかを深めていきたいそうだ。また東京学芸大学が、社会に大きな影響力を持っている教員養成の基幹校だからこそ、より貢献ができるとも確信をしている。
具体的には、学校などに居場所がない子供たちや、既存のカリキュラムにとらわれずもっと自由に学びたい子供たちの居場所・学び場づくりをしていきたいという。
デモクラティックスクール(※3)のように、カリキュラムも宿題もテストもなく自分のペースで自らの興味関心を探求し、そのプロセスを通して全人的(ホリスティック)な成長を引き出すあたらしい学校をつくりたいそうだ。それはまさに、Explaygroundのコンセプト「遊びと学びがシームレスにつながる」とも通じており、自分自身の体験が基盤となる学びの場ともいえるであろう。
このような世界観に共感はしても、「カリキュラムのない学校に行った子供はちゃんと育つのか?」「大学受験や就職で困らないのか?」という心配の声も多く聞かれる。しかし昨今はそういった類の学校の卒業生が、医者や弁護士になるというケースも実際に出てきているそうだ。
決して、このような世界観のほうが良いという一方的な話ではなく、子どもたちに自分の興味関心に応じてやりたいことをやっていく場を提供することが重要なのであると言えるだろう。
「やりたくてやっている」ことに没頭し慣れている子供たちは、自分自身が探求する課題や分野が明確になり、さらにはそれに対する集中力・モチベーションが高いからこそ、その先に医者や弁護士として活躍する人材となっていったのであろう。目指すのは一人ひとりがイキイキと生きて、自分にとって満足いく充実した人生を創っていくことである。

■これから、きっと、変わる
こういった先駆的な取り組みのモデルケースは日本でも少しずつ生まれてきている。
先生は、既存の先行モデルとなっている現場をまずは自分の目で見ながら探求をしつづけ、新しい学校の可能性を探っていくそうだ。実物を見ずに話を聞くだけではイメージがしにくいかもしれないが、ここから先よいものが実在するようになると、きっと自然に世の中に広まっていくだろうと考えている。
例えば陸上の桐生選手が10秒を切ったのち、サニブラウン選手がその記録に続いたように、人間は実在するモデルができると途端にイメージができ、それに伴ってそのことについての動きや心の持ち方が具体化=現実化しやすくなる。
つまり「あり得ない」と思っていたことが、「あり得る」というイメージに塗り替えられると、そのことを現実化する強い傾向をもつのである。そうやってこれからの次世代の教育を創っていきたいそうだ。


※1 ホリスティック教育
ホリスティック教育(ホリスティックきょういく、英語 Holistic Education)とは、人はみな、地域や自然界との関わりを持ち、思いやりや平穏などの精神的価値観を追い求めることで、自己の存在証明、人生の目的や意味を見出していく次のような考え方に基づいて行われる教育のこと。ホリスティック教育は、人々の内に秘められている命への尊厳と、学ぶことに対する大きな喜びを引き出していくことを目指している。この定義は、専門誌「ホリスティック教育評論(Holistic Education Review)」(現在の「出会い:価値と社会正義のための教育(Encounter: : Education for Meaning and Social Justice)」よりの引用で、この考え方の提唱者、ジョン・ミラーによる定義。

※2 教育キャンプ
一般のキャンプとの違いは<集団で行うこと、教育的な意図をもつこと、組織的な計画を持って行うこと>にある。

※3 サドベリー・スクール(別名 デモクラティックスクール)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%89%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%BC%E3%83%AB

(TEXT BY ズッキー)

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