見出し画像

日本のイノベーションを阻害する後知恵バイアスとその対策

イノベーションはいつも誰も考えていなかった奇抜なアイデアに起こると思うだろうか。実はそんなことはない。

地球には約80億の人口がいる。あなたの浅知恵で「これいいじゃん」と思うアイデアは最低でも100万人は同じことを考える人がいて、そのうち1万人はすでにそのアイデアですら破壊する方法を考えている。そんなものだ。

例えば、中国ではボックス・ビジネスが花盛りである。ショッピングモールや駅や、図書館などの人が集まる場所の端っこにブース型のボックスが置かれ、それはそれはいろんなビジネスが展開する。

空調が効き、防音設備や大きめの画面などが取り付けられ、ネットワークとつながれば、そりゃーなんでもできる、と。カラオケや英会話教室は当然のこと、ついにパーソナル・ランニング・ブースなんてのも出てきたらしい。

別に新しい取り組みではない。似たようなアイデアはいくらでもあった。我々は、こういう取り組みを見たときにどのように感じるだろうか。

「これは誰でも思いつくだろう」とか、「まぁ、技術的に大したことないよね」思ってしまわないだろうか。おそらく、それは間違いない。だが、もう一つ重要なファクターがある。それが、「後知恵バイアス」だ。

後知恵バイアスとは、物事が起きてからそれが予測可能だったと考えることを指す。我々の生活のあらゆるところに存在する。例えば、地震が起きたときに、「あーそろそろ起こると思ってたんだー」と後から思う。そう思っていたならなぜ対策しなかったんだという話。

仕事で失敗をすると、上司に「だから言っただろう!」って叱られることがあると思う。これは十中八九、上司の後知恵バイアスだ。失敗すると思ってたなら何で上司は先回りしていなかったのか。でも、上司の気持ちもわかる。後から思えば、「あーそんな簡単なこと」とか「予測していたのにー」と思うのだ。子供に対する親だって同じ。

だから、イノベーティブなアイデアが出てきたとき、社会を変えるようなアイデアが出てきたとき、我々は「技術的に大したことないじゃん」とか、「そんなん誰でも思いつくよ」って思ってしまう。

これこそが危険な後知恵バイアスなのだ。そもそも、すごい技術からイノベーションが生まれることは非常にマレなのだ。ほとんどのイノベーションはすごい技術の価格が下がった時、そしてそれを組み合わせたときに生じる。

ソニーのウォークマンがいい例だ。ソニーの成功は、トランジスタをうまく利用して小さくまとめたことにある。トランジスタという技術を理解してうまく使ったけど、それ自体は「誰でも思いつくアイデア」だったし、トランジスタという最先端技術はソニーが作った訳じゃない。

UBERを見たときも、日本人は「配車サービス?」「タクシーの置き換え?」って理解してしまった。技術的にすごいとはみなさなかったから、過小評価しちゃったんだね。それが、5年後にトヨタを脅かすような規模になるとはだれが創造しただろう。

つまり、「後知恵バイアス」とは、新たに出てきたアイデアを自分が理解できるコンテンツで何とか理解しようとすること、さらに、自らの精神の平穏を保つために、「大したことないよね」と過小評価してしまう行為なんだと思う。

自分を振り返ると、中国を見て「技術的にすごくないよね」って思うのは、つまり技術レベルくらいしか日本が中国にマウントできるアイテムがなくて、かろうじてそこで精神の平穏を保とうとしているのだと思う。しかし、その技術力ももはや逆転しているのは明白だし、そもそもイノベーションは技術的にすごいところからは起きないのだ。

後知恵バイアスの危険なのは、そうやって自分の中でマウンティングしてしまった後は、その相手から学ぼうという気持ちがなくなってしまうことだ。「大したことないじゃん」って思ってしまい、その相手が何を工夫して努力しているかといったところが見えなくなってしまうのだ。

この危険な後知恵バイアスを我々はどうやってコントロールしたらよいのだろう。しかも、これ、歳をとるたびにひどくなる気がする。そして、成功体験の強い人ほどひどくなる気がする。知らないことを「知らない」と言えなくなるのと同じだ。人間は自分のキャリアを否定されることは辛いことだし、自然と守りに入ってしまうのだろう。

対策は、この後知恵バイアスというものがあることを正確に知っておくのが重要だ。そして、謙虚であることだ。決して奢らず、周りを尊重し、常に周りから学び続けるのだ。

自戒を込めて。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?