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スタートアップ創業チームがモノポリーを真剣にやるべき理由

ソフトバンクでは孫正義社長以下、経営幹部がマネジメントゲーム(通称MG)を夢中になって行うことは知られている。MGとは文字通り、会社の経営しその財務成績を競うゲームだ。ファイナンスを重視するソフトバンクグループにおいてMGは手っ取り早く財務スキームを学ぶ手段でもある。

このように、ソフトバンク社内でもグループ内の社長を目指すための「学び」としてボードゲームを真剣に行うのであるから、スタートアップ創業チームが学びを目的としたボードゲームを行うことは推奨されることであろう。

特に、目的をもって行うならばやはり「モノポリー」は欠かせない。

モノポリーは文字通り「独占」することを目的とするゲームだが、このゲームが世界中で長くプレーされている背景には、非常に考え抜かれたルールがあるからだ。

そのルールには「投資とリターン」「リスクテイク・ポイントの察知」「相手の状況を見つつの盤外交渉プロセス」「市中のマネー総量が増えていくインフレーション」「キャッシュフローとレバレッジ」「最適ポートフォリオの形成」「買収による独占形成」「サイコロ運」と、ビジネスにもつながる多くの要素が内包されているからでもある。

実世界でも独占にこだわって成功を手に入れた経営者は多く存在する。成功したスタートアップのほとんどはこの独占を手に入れた結果の成功だったといっても過言ではないだろう。

特に、ペイパル創業者のピーター・ティールなどは有名だ。独占することにこだわり、ライバル会社を経営していたイーロン・マスクを買収して抱え込んだ。それほど独占することにこだわった。

独占状態になるためには、その過程において、「技術的な優位性」や「圧倒的なブランド力」、「ネットワーク効果」、「限界コストの低廉」というものを確立していくことが重要だ。

技術的な優位性やブランド力はわかりやすい。しかし、案外にそれらを確立し維持してくのは難しいものだし、情報コミュニケーションの力により、それらの優位性が保たれる期間も短くなっている。

しかし、特にインターネット時代においては皆が使っているから自分も使わないければいけないというネットワーク効果や、皆が使うことによりインフラ化して限りなく限界コストが下がっていく規模の経済は作りやすくなった。これらも独占状態を作るのに有効だ。

スタートアップが戦う局地戦における独占状態という意味では、ロックインしてしまうという戦略もある。中毒性のあるようなプロダクトを提供し顧客がそれなしでは生活できないという状況を作り出す。

独占をすることによるメリットは明確だ。モノポリーでも独占状態に入ると起きること。価格のコントロールをすることができ、自分の時間で周辺の物事を動かせるようになる。キャッシュが積み上がり、より独占状態が加速する。

だから、現実世界でも、スタートアップはなんとかイノベーションをおこし、この独占状態を作り出そうと努力をする。しかし、物事はそう簡単ではない。

私は、この圧倒的な独占状態をもたらすような破壊的なイノベーションはレイヤー理論と結びついてると考えている。つまり、サイコロの運が左右するモノポリー同様、イノベーションが起き、独占状態が生じるときにはかなり偶然のタイミングで別のレイヤーでの変革が先行して起きており、その必然としてイノベーションが起きることが多いのだ。

具体的には、より下層のレイヤーが動くときに上層レイヤーで必然的にイノベーションが生じる。一番下層のレイヤーは自然環境変化、その上に戦争のような地政学の変化、そしてオリンピックなどの国家イベント、テクノロジーの進展。例えば、3.11の震災がなければLINEの成長がここまで加速し日本市場を席巻することはなかったと考えるのが自然だ。

しかし、スタートアップは運の到来を待ってばかりいるわけにはいかない。では独占状態を積極的に仕掛けて維持するにはどうしたらよいのだろうか。そのためには他社と交渉する必要があるのである。

スタートアップ経営者が本当にイノベーションを望むのであれば、自分の力で事業を成長させるだけではなく、戦略的に同業を買収していくようなプロセスは今後脚光浴びるに違いない。

今後、スタートアップのM&Aなども増えるだろう。前述のソフトバンクはまさにそのように事業を成長させてきたといえる。

だから、スタートアップ創業チームはモノポリーをやりこむことが必要なのだ。しかも早い段階で。

ところで、モノポリーでも起きること。それは、ゲームをよく知った者同士だと独占を防ぐ攻防に重きが置かれ、なかなか独占状態が作れないこと。しかし一旦状況が作られるとなし崩し的に独占が進むことだ。そのためには、必ず協力者の存在も必要になる。

さらに、独占が進むと他のプレイヤー全体から攻撃を受けることになる。他のプレイヤーが協力して独占を防ぐ、一人の独占に対抗するもう一人の独占者を協力して作り出す、ということが起きてくるのである。

そう考えていくと、昨今言われるオープンイノベーションの必要性も、実はモノポリーの文脈で説明できるのかもしれない。

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