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どこまでもストイックな一人芝居の稽古場の在り方について

まずは、簡単なあらすじからどうぞ。

落語「死神」のサゲは噺家によって違う試みがなされる作品である事に着目し、女性落語家の人生の苦しみと未来を描いた作品

 出演は、関西現代演劇俳優賞、最優秀女優賞を二度受賞し、メディアでも活躍する実力派俳優、劇団犯罪友の会の中田彩葉氏が出演。

https://expo1314.wordpress.com/

今作は、10年前に上演した作品の再演。
私自身、自分の作品の再演は極力避けたい(書き換えてしまって稽古にならないから)事もあったのだが、10周年にあたり改めて臨んでみたい作品を一本挙げろと言われたら、やはりこの作品だったのです。

初演は、現在万博設計のメンバーにもなって頂いた千田訓子さんの一人芝居として書き下ろし上演。
当時一人芝居なんて、やりたいと一ミリも思っていなかったのだが、千田さんの演技に出会い、この方の一人芝居は純粋に私が観たい、いや作りたいと思えた、作らせて下さいと頼み込むに至った。若かったのもあるのかもしれないが、あの時この作品を上演出来た事が、今でも自分の微かな自信に繋がっています。

そのあたり、小泉うめさんが詳細を劇評にまとめて頂いているので、是非ご一読頂きたいです。(私は時折この劇評を拝読して、心の支えにしております。)

ワンダーランド wonderland  小劇場レビューマガジン  https://www.wonderlands.jp/archives/25062/

千田さんが万博設計のメンバーになったのだから、千田さんで再演すれば良いではないかと思われるやもしれませんが、千田さんは初演時から再演をしない事を絶対の条件とされていたのです。ストイック。

でも、鮟鱇婦人はもう一度上演したい。
圧倒的に存在感があり、圧倒的に繊細で、圧倒的に演劇が好きな人で、圧倒的に人間臭い必要がある。
さらにこの劇は、どこかでかなり自分を追い込まなきゃやれないし、追い込んだ自分を放り投げて舞台上で剥き身をさらけ出す覚悟がなきゃできない。
この劇は、とにかく俳優のそんな力を養分にしないと「華」が咲かない。演出が小手先で見せ方を触っても、ビクともしないのです。

そんなとこで白羽の矢に立ったのが、中田彩葉さん。


稽古の様子


実は、10数年前から彩葉さんの芝居を見ていた。知り合いという訳では無かったのだが、ずっと見ていた。
「鮟鱇婦人」という劇の色を初演から変えつつも、その芯を違った形で深めて下さりそうな俳優として、一択だったと言っても過言ではない。
オドリバ企画「大皿インダハウス」で演出をさせて頂く機会も経て、その思いが確信となったのでした。

そんな彩葉さんとの稽古がはじまったのですが、今回の稽古場もさぞストイックに進めているかと言えば、意外とそうではない。彩葉さんと、演出助手の井上多真美さんと私で、雑談ばかりしています。

勿論台詞の確認、立ち位置の確認、この作品の芯についても話したりもするが、基本雑談がメイン。

私達は雑談が好きだ。というのも多いにあります。
今日の稽古では「もしこれからの人生でお菓子を一つしか食べれないとしたら何を選ぶか」とか「ラブホテルで出会った幽霊怖すぎ」などの雑談をした。作品とは何の関係もありません。

「雑談してる稽古場の芝居なんて観る価値なさそうだ」

私もそう思う。でも、そんな雑談を繰り返す稽古方法は絶対に間違っていないと強く感じています。

ストイックに追い込む事で生まれる事もあるのですが、芯を捉える為の回り道をとにかく沢山しておく事が、有効な事もあるはずです。雑音の中でしか生まれない創作の可能性を試す。そんな稽古場なのです。

何より、彩葉さんは雑談している姿がはちゃめちゃに楽しそうな事が私にとってはとても重要だと感じています。
彩葉さんが持つ表情の多彩さに多く触れる事。そのパターンを知る事。これは演出にとってマストな「作業」でもあるのです。

雑談して、アップして、休憩して、劇の稽古をして、雑談して、雑談して、稽古して、雑談して、談笑してたら稽古時間が終わる。
稽古終わりに「次の稽古はここやりますんで、がんばってくださいねー」と伝え、「はーい」と言って帰る彩葉さん。

今日の稽古終わり、彩葉さんは「なんかセラピー受けたみたいやわ」と言って帰っていった。セラピーみたいな稽古らしいです。

そんな稽古方法で進めております。
なのに、何だかとても見てほしい芝居になってきている。
それが、私はとても楽しく嬉しいのです。

そんな方法なので、焦りが全然ないかと言えばウソになるが、それでも最善の方法が稽古場にある実感だけを頼りに進んでおります。

劇団犯罪友の会に出演されている彩葉さんを見て一目ぼれに近いような衝撃を受けて10数年。今、談笑を重ねながら10年ぶりの「鮟鱇婦人」を、雑談という途方もない回り道をして、そんな回り道の風景も上演の在るべき場所を照らす灯台にしています。是非劇場で鮟鱇婦人に出会って下さい。きっと、生きづらい時代を巻き込み吹き飛ばしてくれるはずです。

そして将来、この作品をやりたいと伝えてくれる無謀で劇が好きな女優と、また出会いたいとも、思っていたりします。

万博設計13/14 10周年記念公演【再演×新作】
「鮟鱇婦人」×「YO RU TO RO TO RO」
●「鮟鱇婦人」●
 作・演出:橋本匡市 出演:中田彩葉
 病気がちで、笑う事が滅多に無い母を心配する幼い娘の由宇子。
 あの手この手で母を笑わせようとするが、全く笑わない。
 そんなある日、授業の一環で聴いた落語「死神」に衝撃を受け、弟子入りを志願する。
 笑いの力で母を勇気づける事を目標にしてきた由宇子であったが、母は話す事すらままならなくなってしまう。
 由宇子の目的も、身体も、そして時代も、ゆるやかに、でも確実に変わっていく。
 グリム童話『死神の名付け親』をベースに初代三遊亭圓生が作った落語『死神』軸に、
 2013年に千田訓子一世一代一人芝居として上演した「鮟鱇婦人」が、中田彩葉の一人芝居として現代に蘇る。

▶︎会場 ウイングフィールド 〒542-0083 大阪府大阪市中央区東心斎橋2丁目1−27
▶︎日程 2023年
 11/11(土)  鮟鱇 14:00 / YORU 19:00
 11/12(日) YORU 13:00 / 鮟鱇 18:00
 11/13(月) 鮟鱇 13:00 / YORU 18:00


▶︎チケット
 ・YORU一般 前売 3,500円 / 当日 4,000円
 ・鮟鱇一般 前売 3,000円 / 当日3,500円
 ・18歳以下(要証明書)  500円
 ・2作品セット(予約のみ) 6,000円
 ・初・万博観劇 2,800円 
  *初めて万博設計の公演を観劇する方限定のチケット。自己申告制
  *2作品を観劇する場合は5,600円



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