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自家発電Vol.6 雑感

自家発電に行くたびにいつも思うことがある。この混沌を極めたゴキゲンな催し物の魅力をなんとかして伝えたいよなーって。俺はただの観客だからヨイショする義務や使命感なんて全くないんだけど単純にひとりでも多くの人と「自家発電ヤバいよねー」って共有したいというか。

音楽、お笑い、演劇、大衆芸能など面白ければジャンルを一切問わない姿勢を常に叩きつける主催者と遊び場をクリエイトすることに長けている四谷アウトブレイクが手ぐすねをひきながら待ち構えているところに観客も自らの感受性をフル稼働してどれだけ楽しいをキャッチすることができるのか勝負しに行くというような感じと言ったらいいのか。自家発電とは主催者、ライブハウス、観客がそれぞれの立場で貪欲に楽しいを競い合うような他に類を見ないイベントなのである。

この日の自家発電はいろんなアーティストのコラボレーションが観られるほか、全出演者が食材を投入して出来上がった闇鍋を終演後にみんなで食べるという全くもって意味不明なテーマが掲げられていた。なので以下に当日の出演者に対しての雑感を書きながら闇鍋の製造過程もあわせて紹介していくことにする。

●DANGER ZONE(具材:ピーナツみそ)
自家発電、殺害塩化ビニール、四谷アウトブレイクがプロデュースする公式オーディション「出せんの殺害!?出れんの自家発電!?」一般投票においてぶっちぎりの得票数(13票)を叩きだしたバンド。もともと香川県のバンドらしく当日はボーカル以外は全てサポートメンバーという編成、しかもオープニングアクトという難しい状況だったと思うけど拳銃をぶっ放しながら精一杯パンク魂を剥き出しにして駆け抜けていったので妙に楽しい気持ちになった。

●MIKA☆RIKA(具材:ブロッコリー、かぼちゃ)
双子姉妹によるヒップホップユニットなのでものめずらしさもあるけど、単純にかわいいなーって思いながら見ていた。表情の起伏が少なかったので曲調はさておき昔のバニラビーンズでも見ているような錯覚があった。曲も良かったし。少し調べてみたら彼女たちはもっと多くの人に知ってほしいということからフリー素材アイドルという活動もしているらしい。せっかくなので1枚使ってみよう(ウェブサイトの規約に同意すれば使用可能とのこと)

●クウネル・ダ・サイクル(具材:カリフォルニアロール)
ツインボーカルを擁する日本語ミクスチャーバンド。音楽的には最近の自分の趣味にあうものではないが一生懸命汗をかきながらめっちゃ楽しそうに演奏している姿と人柄が滲み狂ったMCの相乗効果でとくに歌詞がグッと入り込んできたので心はしっかり動かされた。彼らを初めて観るような観客も多かっただろうし、なんならパーティーチューンを連発してフロアの温度をあげることもできたと思うんだけど敢えて「失うことに怯えながらそれでも懸命に自分の半径にある幸せを大切にしていこう」的なミディアム曲「100年」を堂々と披露していたことにバンドとしての強い意志を感じた。ちなみに具材のカリフォルニアロールはボーカルが朝4時に起きて一生懸命作ったものであるが、投じた瞬間にただのアボカドや米粒になってしまうという儚さも俺たちに見せてくれた。

●REMOCCHIII(具材:提供なし)
絶叫系ボイスパフォーマーのREMOとDJオッチーによるコラボレーション。インダストリアルなノイズのなかで発狂したREMOが絶叫とともにフロアでのた打ち回っているという暗黒的な展開。ボイスパターンは様々なバリエーションを披露しつつも後半はやや単調に感じたこともあったが、頃合いを見計らってトラックが厳かで冷たいトーンになった瞬間、REMOが絶叫から一転して美しい呻き声で呼応していたのすごいかっこよかった。個人的に何度も見てみたいコラボレーションである。

●ライムベリー(具材:みたらし団子、ホワイトチョコ)
ライムベリーといえば「ねー!お兄ちゃん!」で有名な「HEY!BROTHER」しか知らない情弱なので現体制の彼女たちのことは全く追っていなかったんだけど実際に観てみたらすごく魅力のあるユニットになっていた。アイドルに限らず女性によるヒップホップはゆるふわな雰囲気を醸し出すタイプが多い傾向にあるが彼女たちはわりと強度のある表現をしているように感じた。MIRIのスキルはラッパーとして純粋に優れているしMISAKIはスキルを全面に出すというよりかは個性的なフロウや立ち振る舞いでキャラを確立している。ライブの中盤でDJが打ち合わせなしで曲出しをして彼女たちが瞬時にその曲を歌うという展開になったが、たしか3回くらい「韻果録」という曲をしかもその都度テンポを速めてぶっこんできた時にもしっかり対応できていたことには驚かされた。それもフロアの温度をしっかりアゲながら。とりあえず今月リリースされるアルバムは買ってみようかと。

●のこぎりキング下田(具材:提供なし)
自家発電になくてはならない大衆芸能枠。フロア最前に殺害塩化ビニールファンが居並ぶ非常に微笑ましいシチュエーションでのこぎりキング下田が威風堂々と入場。のこぎりを弓で弾いたり鉄板をたわませたりしながらテルミンのような音を鳴らすもので「荒城の月」や「アメイジング・グレース」などを披露。ビブラートをかける時にのこぎりを挟んでいる右足を生まれたての子馬のようにぴくぴく震わせてんのチョーかわいかった。こちらが拍手をすれば
「こんなに拍手をもらったのは自分の結婚式以来です…」
とか言っちゃうし、演奏する前に
「次の曲は十八番中の十九番です…」
なんていう鉄板MCをねじ込んでくるいわゆる浅草東洋館的な勝ちパターンをしっかり確立してんのマジヤバかった。俺も数年前は月イチで浅草東洋館に通っていたのでこういうグルーヴ感は大好物なのである。

●TxDxCxJxSKB(具材:油揚げ)
THE DIGITAL CITY JUNKIES(以下デジジャン)とザ・クレイジーSKB(以下バカ社長)による狂人師弟コラボレーション。デジジャンは去年観た時にはTHE MAD CAPSULE MARKETSの影響を良くも悪くも強く受けすぎているように感じたが今回一年ぶりに観たら演奏している曲もそれほど変わっていないのにバンドのグルーヴ感が格段にヤバくなっていて心底驚かされた。高濃度に圧縮されてぶっ放される狂気の塊のような音が序盤から炸裂し狂っていたもんだから俺もソッコーで血が煮え滾ってしまった。バカ社長が合流してからはさらに演奏の過激さが加速。狂悪狂人團やハイテクの曲を殺ってること自体めっちゃヤバいのにフロアに大量にぶちまけられる鰹節ときざみ海苔とシャブの結晶と爆竹も相まってモッシュピットは一瞬にして壮絶な事故現場へと変貌を遂げることとなった。

チョーかっこいい…Σ(゚д゚lll)

文句なく今回の自家発電のベストライブ。

(終演後のフロアの様子)


●あヴぁ階段(具材:ちくわ、べに芋タルト、とりモツ)
現段階のあヴぁ階段に関してはどう受身を取ったらいいのか悩んでしまうのが正直なところ。というのもあヴぁ階段ならではの魅力が俺にはまだ見えてこないからである。非常階段とあヴぁんだんどが絡む必然性というか。うーん、必然性なんてなくてもいいんだけど。なんといえば良いものか。

あくまで個人的な考えなんだけど、たとえばBiS階段であれば上から重力のようにのしかかる非常階段の強烈なノイズと不格好おかまいなしに懸命に押し返そうとするBiSの強い生命力が拮抗することで凄まじい熱を帯びていたし、初音階段であれば楽曲の行間に潜む儚さをノイズによって浮かび上がらせていた。じゃああヴぁ階段は?と聞かれると俺にはわからないのだ。あヴぁんだんどの楽曲を俺がまるで知らないことも要因のひとつとしてあるのは事実なんだけど(という訳で後日アルバム買った)

ライブの中盤まさかの「好き好き大好き」ぶっこみにはさすがに面食らったけどこの曲で盛り上がるのは当然といえば当然なわけで。BiS階段の結成から解散まで見届けた者としては少しだけ複雑な心境になったりもした。

ただ知らないわからないながらもあヴぁ階段に対して好感はもっている。個性的で表情豊かなメンバーが揃っているしダンスの技術もありそうだ。アートな嗜好性や見捨てられたアイドルとしてのカウンターというのも興味深いものがあるので機会があるうちに何度でも観たいと思っている。ニコニコしながらギターを弾いてるJOJOさんや腰を振りながら演奏する美川さんのかわいさもマジでハンパないし。今はそんな感じ。

●動物電気(具材:もやしミックス、筑前煮の具)
演劇枠。宇宙刑事ギャバンを雑に引用した脱力系の喜劇。イベント自体も終盤に近づいていたのでゆっくり座って何も考えずにぼけーっと鑑賞できるのすごく助かるし気分転換もはかれるのでありがたかった。ほぼ全編に渡ってすかした笑いではなく直球勝負だったのも好印象。

●鶯谷デッドボールオールスターズ(具材:提供なし)
鶯谷が誇る地雷風俗店である鶯谷デッドボールのテーマ曲を四谷アウトブレイクの佐藤店長がプロデュースしたという縁で出演したようだ。それについての詳細は佐藤店長のブログを読んでいただくとして。ライブ自体はカラオケの延長なので論じることはとくにないけどステージで歌っていた風俗嬢の方々も店長さんも卑屈な感じが一切なかった。なんなら笑顔がとても素敵だったさ。

●サイプレス上野とロベルト吉野(具材:サバ、ペヤング)
良くも悪くも自家発電はアバンギャルドかつ話題性のあるアーティストを最後に持ってくることが多いのでサ上とロ吉が大トリというタイムテーブルを見た時には意外に感じたんだけど終わってみれば完全大勝利というほかない素晴らしいパフォーマンスだった。彼らのライブはヒップホップをあまり聞かない人が観たらそのジャンルの面白さやかっこよさにすぐに気づくだろうし、それこそB-BOYな連中をも黙らす圧倒的なスキルも併せ持っているわけで。間口の広さがハンパないのだ。

いまは歌うことを辞めてしまったあの人にこの景色が届くようにとの願いが込められた「ちゅうぶらりん」グッときたなー。四谷アウトブレイクでこの歌声が聴けるなんて思わなかっただよ。

最後に乱入してきた谷桃子やダイノジおおちとのフリースタイルバトルというサプライズも楽しかったけれど、1MC+1DJというガッツリ王道スタイルでビシっと自家発電を締めくくったことのほうが強く印象に残っている。「ヒップホップ体操第二」なんてもう多幸感ダダ漏れやってん。

最後に完成した闇鍋がフード扱いではなく来場者に対するノベルティa.k.a.完全自己責任だったことに震えながらもせっかくなので一杯いただいた。何も考えずに食べている時は意外とおいしいかも?と思ったけど舌先に意識を集中させながらだとピーナツみそとペヤングの秘めたる力をリアルに感じてやっぱりマズかった…Σ(゚д゚lll)

以上で自家発電の全演目が終了。
混沌を極めたゴキゲンな催し物なのでこうして文章におこすのもぶっちゃけすげえ時間かかってたいへんなんだけど、書くことであの日の楽しいを反芻することができるのは幸せなことだったりもする。で、改めて思った。

自家発電、最高かよ…Σ(゚д゚lll)


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