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お母さんと呼ぶこと、呼ばれること

金田一春彦先生の著書『日本語(岩波新書)』では、日本の家庭では、その家庭内の最年少者から見た関係性を、家族全員で呼称とする、といったことが書かれている。
『サザエさん』を例にとろう。磯野家では、最年少者がタラちゃんである。実際には『サザエさん』では、タラちゃんから見た関係性を家族全員で呼称しているわけではないのだが、例として分かりやすそうなので。タラちゃんから見たおじいちゃんである波平は、妻や娘や息子や婿からも「おじいちゃん」と呼ばれるのが、日本の家庭ということなのだ。
『ちびまる子ちゃん』のほうが、分かりやすいかもしれない。さくら家では、最年少者がまる子である。まる子から見た関係性を家族全員で呼称している。おじいちゃんのことは、お母さんも「おじいちゃん」と呼ぶ。お姉ちゃんに至っては、自分の親からも「お姉ちゃん」と呼ばれている。キャラクター紹介からして、固有名詞ではなく、まる子から見た関係性で記載されている。

介護現場では、利用者本人から見た関係性を呼称として利用することがある。長男といえば1人目の息子で、長男の嫁といえば1人目の息子の嫁である。呼称だけで家族関係を表現できるのだ。家庭内の最年少者から見た関係性を家族全員が呼称としている日本の文化(?)は好きじゃなかったが、介護現場では非常に便利だと思った。

パートナーは、父親のことを「おやじ」と呼ぶが、母親のことを「母親」と言っていた。「お父さん」と呼ばず「おやじ」と呼ぶことはよくあることだと思ったが、お母さんに呼びかける言葉はないようだった。
いつの頃からか、子が「お母さん」と呼ばなくなった。そういう年齢なんだろうな、と思っていた。また、いつか呼ばれなくなるだろうと、覚悟もしていた。

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