どこにも行けない

ふと、鏡に映った自分の顔を覗き込んで、26歳かあ、と呟いた、呟かざるを得なかった。
久し振りに会う人が言う、今なにしてるの?、なにしてる?ここにいる、生きている、あなたと喋っている、それじゃだめなんだろうなということはわかる。
再会でも初対面でも、今はなにしてるの?と聞かれるとむず痒い。何もしてないと答える。常に自嘲して、26歳独身彼氏なしフリーター女、と付け加える。
勝手にラベリングしてくれてかまわない。あきれるくらいに健康な言葉たちは、わたしには凡庸で退屈だ。
わたしは一生わたしにしかなれない。わたしであることにしか興味がない。
何を目指してるの、とか、本当はやりたいことありそうだよね、とか、うるさい。どうしてそうも何者かにしたがるのだろう?
自由でいると規定したがる人が居る。どうやらわたしがわたしであるだけでは物足りないらしいな。
不安なのか知らないけれど、わたしがどんな人間であろうと、あなたの人生には関係ないのに。
このわたしはあなたの暇は埋めない。あなたの時間や言葉や隙間を埋めない。一生やってやるもんか。代わりのきくものなら他をあたってくれ。その場しのぎにはうんざりしている。
うんざりしている。

鏡に映るわたしは、10年前から何も変わっていない気がした。
わたしはわたしから脱出することはできない。だだっ広い迷路の中、新しい穴をぶち空けたと思えば見覚えのある壁にぶつかる。
わたしはどこにも行けない。
一生わたしの中にいる。
わたしから出られないと知りながら、迷路の中を彷徨い歩くだけだ。新しい景色を世界を色を見せてくれるのは世界ではなく私のこの両目なのだから、なんの問題もない。

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