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『四月一日さん家の』第3話までの感想など

史上初のバーチャルYouTuberが主演するドラマ『四月一日さん家の』の放送も、早くも3話を迎えた。

私は放送開始前に、『四月一日さん家の』への期待を込めてひとつ記事を書いた。主に「Vtuber主演の『ドラマ作品』を作る意義」と、「シチュエーションコメディというジャンルで制作する利点」などについて述べている。


ドラマの放送が始まったということで、第3話まで実際に見てみた感想などを語っていこうと思う。

ドラマとしての制作面から。


まず第一の印象として、セットの作り込みがとても丁寧。
本棚の本はひとつひとつ題名や著者名、装丁が描きこまれ、キッチンには調理器具やレシピが並び、テレビ台の上には人形が乗っかっており、テレビからはちゃんとコードがコンセントまで伸びている。


『四月一日さん家の』はシチュエーションコメディであるため、基本的にこの四月一日家のセットのみで撮影を行う。言わばこの作品の顔とも言うべき、最も重要な舞台である。だからこそ、細部のディテールまでしっかりと作り込まれた家のセットを構築できていることが肝心なのである。
リアル空間とは勝手が違い、技術的制約もまだ多いバーチャル空間で、これだけのリアリティのあるセットを作り上げたことは評価すべきだろう。
テレビ東京の公式ホームページ内にて、フォトギャラリーが公開されている。四月一日三姉妹はもちろん、セットのつくり込みも見ごたえがあるので見てほしい。

また、家のセットである以上、あまり綺麗すぎるとかえって生活感が感じられず、作り物臭さが出てしまう。そこで、このカレンダーを見てほしい。

まず、カレンダーに書き込みがあることで、ぐっと生活感が増す。さらに、第1話が四月一日さん家の一周忌の話であることを踏まえると、さりげなく第1話の日付が、放送日と同じ2019年4月19日であることが示されている。
第1話ラストで、二葉が「夏までに結婚して、家を出ていく」と明かしたことと併せ、第1話(4月19日)から夏まで(=放送終了時期)の、大まかなストーリー面での時間の流れが生まれた。カレンダーの赤丸によって、この時間軸の起点がより具体的になり、実感しやすくなる。
また、四月一日家の庭にある大きな桜の木が、第1話では花が咲いていたのに対し2話以降は葉桜になっている点も注目すべきだろう。

ストーリー面での時間経過と、舞台となる四月一日家の時間経過がきちんと連動している。加えて、おそらくは現実世界とも時間的にリンクしていることも感じられるのが良い。

次に、音響について語っていこう。
『四月一日さん家の』では、台詞以外に様々な音が登場する。家の外から聞こえてくる電車の音や鳥の声などの環境音、蛇口から水の流れる音やドアの開閉音、足音などの生活音、殺虫剤を振るシャカシャカ音などの細かなSE。これらの音がひとつひとつ積み重なって、空間的な実感を生み出す。
特にこだわりを見られたのが、三樹がiTunesでお経を流すシーンである。
ちゃんと「部屋の中で、iPhoneのスピーカーから音を流した音質」になっていたのだ。
こうしたこだわりによって、四月一日家のリビングがきちんと「空間」として機能するようになる。『四月一日さん家の』をドラマとして制作するうえで、非常に重要なポイントであると思った。

音響も、セットも、徹底的にドラマとしてのリアリティを追及している。
バーチャルだから、を言い訳にせず、今の技術で出来る限りのことを、抜かりなくしっかりとこなしていると感じた。

音響のついでに、笑い声SEについても述べておこう。
シチュエーションコメディというジャンルでは通例、笑い声がSEとして入る。しかし『四月一日さん家の』第1話放送時の反応などを見るに、笑い声SEに困惑したり、違和感を覚えたりといった反応も多かったようだ。
単純に、シットコムと言うジャンルの認知度が日本では低いというのもある。ただ、シットコムというジャンルは知らなくても、「フルハウス」のような感じと言われると納得する人が多かったようだ。幅広い世代に広く知られているフルハウスの功績は偉大である。また、「やっぱり猫が好き」を知っている人はそちらを連想する人が多いようだ。
笑い声SEについて、無いほうがいいという意見や、頻度を減らしたほうがいいという意見も見られた。個人的には、頻度については言われてみれば気になるというくらい。
ただ、無いよりはあったほうが断然いいと思う。と言うのも、シットコムというのは文字通り、その場面のシチュエーションによって笑いを生み出すジャンルである。その状況を覗き見ているような距離感があったほうが楽しめる。笑い声のSEはそういった距離感を演出するのに一役買っていると思うのである。

次に、脚本について。
本職の脚本家の作品だけあって、率直に面白かった。
『四月一日さん家の』は各話ごとに脚本家が異なる。それも、『バイプレイヤーズ』のふじきみつ彦、お笑いコンビ・シソンヌのじろう、元お笑い芸人で俳優でもある熊本浩武など、活躍するジャンルや得意とする作風もバラバラである。
だからこそ、各話ごとに雰囲気や構成が大きく異なり、バリエーション豊かで見ていて飽きない。連続したストーリー物ではないのでどこから見始めても支障はないし、もし今回の話が好みに合わなかったとしても、来週のは気に入るかもしれない。そういった点も一話完結型の強みであろう。

次に主演の、ときのそら、猿楽町双葉、響木アオの演技について。
本格的な演技経験は初とのことだが、それにしては十分上手だったように思う。
台本をただ読まされているような棒読みでもないし、わざとらしさも感じない。三姉妹の、日常の中でのごく自然なやりとりといった雰囲気がよく出ているように思えた。撮影現場では、実際に撮った映像を見返しながら、細かなリテイクを出しているそうだ。役者たちの努力はもちろんのこと、現場での丁寧な演技指導の賜物であろう。
間の取り方もいい感じ。特に、響木アオは昔からワンシチュエーションのネタ動画をよく上げていただけあって、こういうシュールな雰囲気の間の掴み方は上手い。
表情については、おそらく技術的に細かな表情の変化は表現しにくく、また見ている側にも伝わりにくいのだろう。表情が変わるときは喜怒哀楽をわかりやすく変化させるしかないようだ。ただ、そのぶん細やかな表現は声色の変化でうまくカバーしているように思う。
また、第3話では表情変化がうまく演出と噛み合っていた。漫才にダメだしをする三樹がずっと眉根を寄せて険しい表情だったのが、振り向いたときには涙目になっている。大げさな表情変化を逆手にとって、巧く演出に取り込んでいる。



ここまでをひとまずまとめると、『四月一日さん家の』、面白いです。
制作が非常に丁寧で、脚本も面白い。さらに演技も上々。
まだ見ていないという人は、TVerでぜひ見てほしい。毎週金曜の、ちょっと夜更かしして見るのにいい作品だ。


『きのう何食べた?』と併せて1時間なのもちょうどいい。

四月一日三姉妹について。


四月一日三姉妹はとにかくバランスがいい。
前提として、三人ともある程度の常識と判断力を持ち合わせている。
その上で、それぞれ別々の方向性にどこかズレたところがある。一花はスピリチュアルな妄想癖で暴走しがち、三樹は独特の感性と、一度語りのエンジンがかかったら止まらないオタク気質、二葉は一番まともだが、直感的に言葉を口走るのとイントネーションの癖がある。
全員がボケにもツッコミにも回れるし、それぞれボケの方向性が違うのでいろいろなパターンが組めるのだ。
三姉妹のバランスのよさを特に感じたのは、第2話のエンディングノートのくだり。
当人は大真面目だけど、スピリチュアルモードに入ってシュールなことになっている一花に対し、ストレートにツッコミを入れる二葉と、落ち着いて話をきいてあげることでよりシュールな状況を助長させる三樹で、うまく役割が分かれていた。一人がボケたところへ、二人が別々の角度からツッコめるというのが非常にテンポが良い。

アイキャッチについて。


『四月一日さん家の』のアイキャッチはこのような感じで、三姉妹の好きな○○が記される。
実在の人物や店名を挙げることで、三人の個性がより実感を伴って、視聴者に伝わる。
また、少しずつプロフィールが明かされて行くのが楽しい。毎週のちょっとした楽しみになるし、回を追うごとに四月一日三姉妹にどんどん愛着がわいていく

Vtuberを知らない人へ。

私は前回の記事で、「『四月一日さん家の』は、Vtuberを知らない人にも薦められる」と書いた。Vtuberを知らない人でも、単独のドラマとして楽しめるような構造になっているからだ。
実際に放送が始まって見ると、まずTVerのページでは、『きのう何食べた?』や『わたし、定時で帰ります』などの実写ドラマと並んできちんとドラマ枠に入っている。テレ東のホームページでも当然ドラマ枠だ。
放送の冒頭には「バーチャルYouTuberドラマ」、放送の最後に「このドラマはフィクションです」のキャプションが必ず入る。


アニメだと思われやすいVtuberを起用しているからこそ、繰り返し「ドラマ」であることを強調し、この形式を「ドラマ」だと印象付けている
また、ドラマ本編後には「四月一日さん家の反省会」と称して、ドラマ収録の裏話などを話すコーナーがあるのだが、初回では「Vtuberとは何か」という説明から入っていた。

Vtuberを知らない人も見ていることが、ちゃんと考慮されている。また、アフタートークを入れることで、「四月一日三姉妹」と「それを演じる役者」が別の存在であるという、ドラマとしての構造もわかりやすく伝わるのではないかと思う。

さて、実際のところ、Vtuberを知らない人にはどう見えているのか。
それを確かめるべく、先日帰省した際に、うちの母に見てもらった。
ちょうどTVerの話題が出た際に、「そういえば、『やっぱり猫が好き』みたいな感じの、シットコムのドラマを新しくやってるらしいよ」と、さりげなく振ってみた。うちの母は昔から『やっぱり猫が好き』が好きで、一方Vtuberのことは全く知らない。
とりあえず新番組告知の動画を見せてみたところ、やはり第一声は「これ、アニメとは違うの?」だった。
しかし、本編と公式ホームページを見てもらった結果、『四月一日さん家の』がドラマであると納得してくれたし、面白かったと言っていた
まず、作品としての形式、先ほど述べた音響やセットのつくりが、きちんとドラマとしての形式になっていた事が大きいだろう。制作面から、しっかりドラマとして仕上げているからこその説得力だ。
うちの母の場合、決定的だったのが、スタイリストの伊賀大介氏の存在だった。
ロックバンド「エレファントカシマシ」の大ファンである母は、そのスタイリングも手掛けている伊賀大介氏のことを知っていた。
母はVtuberのこともアニメのことも詳しくないが、アニメなら通常、スタイリストがつかないということは理解していた。スタイリング担当:伊賀大介というのは、『四月一日さん家の』がドラマ作品であるという説得力において、非常に効果的なようだ。
Vtuberについても母に説明してみたが、あまりピンときていないようだった。しかし、逆に言えばVtuberというものが理解できなくても、理解しないままでドラマとして楽しめたということだ。
というわけで、結論としては、『四月一日さん家の』は、Vtuberを知らない人にもおすすめできたし、ドラマとして楽しめたようだ。

まとめ


長々と語ってしまったが、まとめる。
『四月一日さん家の』は、制作が丁寧で、脚本も面白く、演技も悪くない。一本のドラマとして面白く仕上がっている。
まだ見ていない人も、試しに見てみてほしい。今から見始めても楽しめるし、Vtuberを知らなくても問題ない。
むしろ、Vtuberファンよりシットコムや海外のコメディドラマ好きの人、特に、『やっぱり猫が好き』が好きな人は、きっと気に入ると思う。
制作陣もこの作品を意識していると聞くし、人物構成やカウンターの上の猫など、劇中にもリスペクトらしき点が見られる。

残念な点をひとつ挙げるとすれば、せっかくスタイリストに伊賀大介を起用しているにもかかわらず、衣装が一種類のみだというところだ。もちろん技術的制約として、どうしても衣装をたくさん用意して、着替えるのが難しいというのはあるだろうが、しかし劇中でも季節が春から夏へ移り変わっているのに衣装の変化がないのは寂しい。せめて2,3着は欲しかった。
とはいえ、VR技術は昨今ますます発展しており、VRoid WEARやVRファッションデザインなど、バーチャル上での衣服関連の技術にも注目が集まりつつあるところ。
これから先のVtuberドラマや、『四月一日さん家の』のシーズン2などを撮る時には、衣装をはじめ様々な技術的制約も解消されていくだろう。
『四月一日さん家の』のセット、作るのは大変だっただろうが、一度作ったものはデータで保存して置けるのがバーチャルの強みだ。衣装も、セットも、かさばらないしすぐに復元できる。作品が増えれば、どんどん資産として貯まっていく。創作できるものは、これからどんどん増えていくだろう。

『四月一日さん家の』の今後も、Vtuberドラマの未来も、非常に楽しみである。

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