負けてなお、永瀬あり 王座戦第2局 永瀬ー藤井

永瀬王座の先勝を受けた第二局、注目の戦型は後手の藤井が珍しく右玉を採用した。200手越えの熱戦となった本局は見所もたくさんあったが、ここでは簡単に流れを抑えつつ、個人的に印象に残った手をそれぞれ紹介することにしたい。

まず、9筋から攻めていった永瀬に対し、藤井が玉を早逃げしたのが好判断で、藤井がわずかにリードを保ったまま終盤戦へと向かっていった。永瀬は劣勢の中辛抱する手を繰り返して自らは転ばない姿勢を出すが、藤井玉が入玉して、まず寄せられる心配はなくなった。
こうなると残る見どころは永瀬玉も入玉できるのか、入玉できたとして点数は足りるのか、という事になる。(プロの将棋では相入玉となった場合、大駒を5点、小駒を1点としてお互いが24点以上になれば引き分け、どちらかが24点に満たなければ負けとなる、24点法を用いる。)

182手目に後手の藤井が87歩成と王手をかけた所が個人的に最大の見せ場だった。同金と取るのでは寄せられる可能性が高いが、66玉と逃げるのも本譜のように55銀打から大切な竜を取られてしまう。竜を取られると相入玉しても先述の24点に届かなくなる恐れがあり、勝負の観点からも投げどころがなくなる(ボロボロと駒を取られて勝負所なく負けてしまう)可能性があった。
だが、それでも、永瀬が66玉と指したのが、胆力を見せた一手だった。普通は竜を取られてしまうのでは絶望的だと考え、万が一を頼って87同金を選ぶのではないだろうか。だが、永瀬は絶望せず、十万が一でも相入玉で引き分ける可能性が残る方を選んだ。たとえ凡人なら絶望してしまいそうな道でも、敢えてそれを選ぶのが、永瀬の非凡な強さを示していると思う。本局で結果が出なくても、今回の王座戦全体、更には自分のプロ棋士生活を通して考えても、こういった所で頑張れるかどうかで対戦相手や観戦している同業者に与える影響は大きい。同じ相手と何十年も繰り返し戦うプロ棋士の世界では、そういった信用の積み重ねが次第に大きな差となり、自分のキャリアを築く礎になるのである。

対して、藤井も非凡な手腕を発揮し、本局を泥仕合の相入玉ではなくばっさり寄せ切ったのがすごかった。
205手目、このままでは点数が足りない永瀬が45玉と指して勝負に出たのに対し、58飛~52歩と寄せに行ったのが凄い切り替えの速さだった。観戦者はてっきり点数差で勝ちに行くと思っていたのに対し、一人だけ別次元の読みを見せたのが圧巻。こういった所でも相手や観戦者をあっと言わせるのが、信用の積み重ねに繋がる。単に点数差で勝ったところで別に藤井の株が下がるわけではないが、次局以降に永瀬は手ごたえをもって臨めるのに対し、藤井はなんとなく嫌な感じを残すことになっていただろう。
以下も42飛~23馬と切れ味鋭く寄せて、藤井の方としても憂いなく第3局に臨める良い勝ち方が出来た。

改めて3番勝負となった訳だが、ここまでは期待以上の熱戦が続き、これからも目が離せない戦いが繰り広げるだろう。歴史的な一戦にふさわしい素晴らしい将棋を見せてくれる両者に喝采を送りたい。


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