ブログ4号

男の子の悩みも見通す床屋さん――岩手県宮古市にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」4日目。岩手県の釜石から宮古へ。宮古で時間が空いたので、髭をきれいにしてもらおうと床屋さんに入りました。応対してくだったのは僕と同世代と思われる女性。「髭剃りだけでいいですか?」という勝手なオーダーを嫌な顔もせず、椅子に座らせていただきました。
このお店は、いまの店主の方のお父さんの代から続いているそうです。そのため、古くからのお客さんも多いとのこと。それ以外には、市役所の人が出張前に髪を整えにこられるそうです。最近では、復興関連の工事で滞在している方もいらっしゃるそうですが、1~2年で帰られる。「せっかく仲良くなったころにお別れなんで、寂しいですよね」。この女性、Aさんは、一言ひとこと優しさが感じられる人です。

このAさんは、この店で20年以上働いておられる。ちょっと恥ずかしそうに「実は私、このお店で高校時代からアルバイトしていたんです」と。当時は、床屋さんの仕事に興味があったというわけではなく、「とにかくアルバイトをしたかった」。ちょうど町で繁盛している床屋さんがあったので、そこなら雇ってもらえるんじゃないかと、自分から「働かせてもらえませんか」と申し込んだ。それ以来、この仕事が面白くなり、出産や育児に追われた時期を除いて、ずっとこのお店で仕事を続けておられるそうです。

この仕事の面白さについて伺うと、Aさんは、いろんな話しをしてくださいました。「丸坊主だった子が、高校になって髪の毛伸ばすじゃないですか。でもどうやったらいいか分かんないんですよ。だから、こうしたらどう?とか言いながら切って揃えていってあげるんですけど、男の子の顔がパッて明るく変わるんです。そういうのを見るのが好きなんですね」と。ご自身も二児のお母さん。お子さんたちの髪もずっと自宅で切ってあげていたそうです。だから、「あの子は、きっと他の床屋さん行けないでしょうね」。
ついでに言うと、すでに3歳のお孫さんもいらっしゃるそうで、驚きました。

髪を切っていると、頭皮の状態や毛の太さなどから、その人の健康具合がわかるそうです。「ストレスとかで毛穴に出るんです。だから髪を切りながら、この人いま大変なのかなあとか思うことあるんです」と。それが高校生なんかの男の子だったらAさんは、一言かけるという。「『大丈夫?、なんか困ってることない』って。でも男の子はみんな『大丈夫です』っていいますよね。なかなか弱音はかないです」とAさんにはバレバレのようです。

お盆ならではの話しもある。「高校を卒業した子が地元を離れて新しい街で暮らし始めると、どこの床屋さんに行ったらいいのかわかんないらしいですね。昨日も、今年高校を卒業した子がお盆で帰ってきて、うちに来たんです」。この気持ちはよくわかります。新しい街に住み始めて、行きつけの床屋さんを見つけるのはストレスを感じる。昨日訪れた若者は、どうやら地元を離れたあとほとんど髪を切りに行かなかったようで、Aさんは、そのぼさぼさの髪を切ってあげたそうです。

お話しが面白かったので、髭剃りだけのつもりが、シャンプーも耳掃除もしていただきました。家庭や学校以外に、こういう人がいてくれるのは高校生の男の子にとってどれだけ心強かったことか。今頃、全国の帰省先で、なじみだった床屋さんに行っている人が多いのかもしれません。


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