編集者は文章を書けなくてもいい。でも書いた方がいい。

僕は「編集者」という仕事を30年以上やってきたのだが、文章を書くのが苦手である。

思えば、小学生の頃から「国語」の成績は相当悪かった。もっと正確に言うと、小学校3年生になるまで「ひらがな」をちゃんと書くことができないほどだった。なので、自分の母親はいまだに、僕が編集者として働いているのが不思議でならないようだし、恐らく彼女は一生不思議のままだろう。

しかも編集者という仕事は、一般に何をしているかわかりにくい仕事である。母親も僕が文章を書いていると思っていて、何度も「いや、編集者は文章を書かない。書くのはライターという職業の人なんだ」と言っても疑問は解消されない。「じゃあ、あんたは何をやってるの?」と毎回聞かれて、「どういうテーマを取り上げるか、どういう文章を載せるか、どういうライターさんに書いてもらうか、ということを考えて依頼している」と答えるが、「ひらがなもろくに書けなかったのに、そんな仕事できるんだ?」と、毎度毎度、世の中わからないことだらけと言わんばかりに話しは終わる。

実際、自分でもうまく説明できないが、文章を書くのは苦手なのに、人の文章に対して自信をもって指摘することができた。「こうじゃなくて、こうしましょう」とか「この部分は不要ですよね」「もっと主観的に書いてください」などなど、それはそれは冷静に考えると偉そうなものである。その分野の専門家でもないし、自分がうまい文章を書けるわけでもないのに、フィードバックだけはやたら立派にできた。

もちろん経験も大きかったとは思う。書いた人がどういう心境で書いたかも察することができるようになった。文章を読んでいてどうも論旨がねじれているように感じることがある。よくよく書いた人と話すと、その人の中には書きたいテーマが複数あって、それらを一つに収れんさせるのがうまく行かなかったようだ。あるいは、書き手の自信のなさや、誰かへの気遣い、ひとりよがりなどを書かれた人の心境がわかることがある。

逆に素晴らしい文章にも反応できる。その人が、どれだけ推敲を重ねロジックを精緻に重ねていかれたのかが読み取れると、もう「あっぱれ」だ。一方でなんの迷いもない文章も「あっぱれ」である。あたかも書き始めから終わりまで、一筆書きのように何の迷いもなく書かれたかのような文章は、書きたいことが強烈に伝わってくるし、あたかも「書かずにはおれなかった」という迫力まで感じるものだ。

と、ここまで他人の文章に感想を言うことはできても、自分で文章が書けるかどうかは別である。僕と一緒に仕事をした人はよく知っているが、もう後がないくらい切羽詰まった状況にでもならない限り、僕が自分で書くことにはならなかったし、周りもその選択肢を思い浮かべることはなかったであろう。

そんな自分が、仕事ではないとはいえ、こうやってブログを書いている。なので普通の人に比べると物凄く時間がかかっているだろう。書けないくせに、文章の良し悪しをなまじわかっているのもたちが悪い。それでも書いているのは、思考をまとめるのに役立つのと、アウトプットを出し続けることが、自分の知的スキルの向上に役立つと思うからだ。

そんな、書くのが苦手は自分が最近、英治出版のオンラインで連載を書かせてもらっている。僕にとっては、仕事として書くのはほぼ初めてのようなものである。実際に書いてみると、このブログを書いているときと同じ心境、同じ時間のかけ方をしているが、決定的な違いがある。それは編集者がいることである。僕が書いた文章を英治出版の編集者が読んでフィードバックを返してくれる。これがとても新鮮で、自分が思っていなかったことを指摘されたり、自分では面白いのかどうかわからないことにもコメントをもらえる。「そうか編集者の存在ってこういうものか」といまさらながらその役割を噛みしめている。

自分のブログで書いている時は、基本的に自分が書き終えて何かが整理されたと思えればいいので、その状態で出す。その結果、出してみた後の反応で気がつくことも多い。編集者とは鏡のような存在とはよく言われるが、まさに忍者の如く影の仕事師であり、客観的な目で見てもらえることの価値は大きい。

そこでまた気がついたのが、編集者が見てくれると思うと、文章が荒くなってしまうことがある。頼りになる存在を前に頼り切ってしまう現象。英語ができる人と一緒にいたら、まったく話そうとしなくなってしまう現象。指摘されてみて、「自分がもっとじっくり考えて書けば気づけたのに」という点を指摘されると、ちょっと悔しくなり、恥ずかしくもなる。

理想は、編集者に見てもらうことなく世に出るつもりで書くこと。もうこれで十分と自分で思えるまで仕上げたものを書いて出す。そして、そのレベルのものを編集者に見てもらう。こういう次元で、編集者とやり取りできたら、コンテンツの質は確実に上がると思う。

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岩佐 文夫

#編集 #ライター 記事まとめ

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コメント1件

自分で出来ないけど、人に対しての指導、指摘はうまい人というのは確かにいて、(本記事は読みやすく、面白かったです!)そういうマネジメント能力は重要ですよね。でも、日本だとどうしても「自分じゃ出来ないのに偉そうに」みたいな論調で過小評価されがちな気がします。編集者に限らず、スポーツ監督とかもそうだと思います。やっぱ言ってくれる人がいないと、やる側も困るし、どちらも大事なはずなんですけどね。
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