人は不規則なものを求める

自然とは不規則で気まぐれなこと

南国のリゾート地に行ってきた。日中はビーチで寝そべっていた。

ビーチチェアを倒して仰向けに寝て目を閉じる。すると視界は遮断されると言うより、オレンジ色の世界が広がる。目を閉じたからといって暗黒にならない。太陽は雲に隠れたり、出てきたり。その変化は身体全体に浴びる日光の強さでわかる。強い光を浴びていると身体が火照ってくるが、風が気持ちいい。風も吹いたり止んだり。強さも変われば風向きも微妙に変わる。右の頬から風が来たなと思ったら、左の足から吹いてきたりと。

耳には波の音。大きな波や小さな波。

陽の光と風、それに波の音。どれもが不規則に変化するので、身体が感じる感覚はいっときたりとも同じでない。変化は決して劇的ではなく、なだらかで微細だけど絶えず続いていて、まるでゆっくりとした時間が流れていても、ずっとまだらな変化が続いているかのようである。

身体でこの変化を感じ取っていると、次第にうとうとしてくる。起きているのか寝ているのか、どちらなのかわからない。意識があるような、ないような。それは緩やかな自然の変化と呼応するかのように、こちらの意識も漂い始める。自然を感じている自分が主体なのか、それとも自然が主体なのか。自分と自然。その境界線が溶けていくような感覚。

以前、鉄道マニアの友人から聞いた話を思い出した。寝台電車では、止まっている時よりも動いている時の方が不思議と寝付ける、と言う。電車のあの「揺れ」が眠りやすい、というのだ。ビーチでの眠気も、この動いている寝台電車に近いのかも知れない。止まっていない。動いているが、それは緩慢な動きでありかつ不規則。

なくしたい不確実性と、楽しい不確実性

そもそも時間軸を広く取ると、自然の動きは変化に乏しい。毎日、朝になれば陽が昇り、夜には日はくれる。365日、このリズムであり、それを何万年と続けてきた。一方で自然は規則的な動きが苦手なようだ。雲の動きは絶えず不穏であり、空気の流れは気まぐれだ。そして、人は自然に規則性を求めつつ、不規則性こそ自然の特徴であることを理解している。

この自然の不規則性は、常に人間を悩ませてきた。人が抱く未来予測への願望は自然を予測することである。その最たるものが天候である。明日の天候がわかれば、漁や狩の対策は取りやすい。年間の天候が規則正しければ、農業の生産性は向上させやすい。自然の気まぐれから生まれる不確実性を、人間は少しでも少なくする方向で社会を進化させてきた。ビーチでも風の緩やかな移ろいは心地よくても、突然の雨は嬉しくない。

一方で自然と戯れる醍醐味は、その不規則性である。波の音が一定のリズムだったら、電子音を聴く感覚と近いのではないか。風が一定だったら扇風機ではないか。陽の光も、風も波の音も一定だったら、ビーチで寝転がっている時の解放された心地よさは感じなれないのではないだろうか。

不規則な自然を愛する人間は、一方で規則正しく動く人工物を作りたがる。時計は規則正しさが命、電車のダイヤもしかり。パソコンに気まぐれはなく、人間のインプットに対し、常に同じアプトプットを出す。工場で作られる製品はどれも均等であることが品質の高さにつながる。

規則正しい人工物を作ることから、やがて人間は社会にも規則正しさを求め出した。法律は同じ条件では同じように機能することが前提になる、貨幣もいつでもどこでも同じ価値であることが命。そして、サービス業においては、マニュアルを導入して、すべてのサービスが均質になるように人の行動を規制する。人間の社会も不確実性を減らす方向へと進化する。

不確実性を減らしたい人間は、果たして規則正しい世界で生きたのだろうか。ペットの魅力は時々の反応の違いと、繰り返される習性の愛らしさである。人の魅力の一つは、「人間らしい」と言われる非合理的なランダムな振る舞いでありながら、絶えず同じ反応をしてくれる安心感のある人に、人は信頼感を覚える。サービス業に対しても、均質なサービスを求める一方で、臨機応変なサービスに喜びを感じる。

規則正しく不確実性のない世界は、すべてが想定通りに進む。変化があったとしても予測された変化はオートマチックな対応が可能である。不確実性が減り規則正しく動く世界に、ますます近づいていく。それでも自然が持つ不規則な魅力の価値は下がらない。人が生み出すクラフトの価値、人の予測できない喜怒哀楽。人はどこかに不規則なものを求める厄介な生き物ではないか。

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岩佐 文夫

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