店の都合でやり方を変えたら、お客はついてこない――山形県山形市にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」22日目は山形県の小国町から山形市へ。
山形市に入り、夕食をとるお店に入ろうと街を歩きました。観光客目当てのお店や、全国チェーンの居酒屋などもせっかくだから避けたい。できれば、こじんまりとしたお店で食べたいと思って見つけたのが、「わかしょう」という日本食のお店でした。一品料理を中心としたお店でカウンター席に座らせてもらいました。

ご主人は、10年前に独立してこの店をオープン。宴会などで盛り上がる店というより、お酒とお食事を味わってもらって、静かに話しができるような店にしたかったそうです。そのため呑み放題のメニューはおかず、店内にもお品書きの貼り紙をやらない。メニューの中心は、その時々の旬なものを揃えるので、山形名物の芋煮も、里芋が旬となる秋しか置かないそうです。
こう書くと、頑固な人と思われますが、実際にはとても話し方が穏やかで、物腰の柔らかい方でした。こういうゆったりした方が店主だと、お店自体がゆっくりとした時間が流れるものです。旬の素材を使ったお料理は、どれも素材の味を生かした出汁や塩加減で、とても優しい味です。

この10年、順調といえば順調。ただ6年前の東日本大震災の時には、自粛ムードが広がり、3月、4月の送別会や歓迎会などの予約が一切なくなりました。お店を経営して4年目に訪れた危機です。客足が遠のくと、がむしゃらにお客を集めたくなる衝動に駆られます。ご主人も呑み放題メニューを加えて、お客さんが来やすくしようかと頭を過りましたが、これまでの方針で行くことに決めました。

「これまでも『呑み放題はないですか?』と聞かれてお断りしてきました。ここで呑み放題を始めたら、今後、そのサービスをやらない理由がなくなる」と考えたそうです。「勇気がいりました」と、当時を回想されます。
「お店の方針を、都合の悪いときだけ変える。それではお客さんがついてこないと思うんです」と。料理人として積み重ねてきた自信と覚悟を合わせもった方でした。

宣伝や広告はしてこなかったそうです。「お客さんが来て満足してもらって、誰かに紹介してもらう。クチコミが最大の宣伝になると思っています」。お客さんは地元の常連さんのみなず他県から出張できた人が毎回寄ってくれたり、そういう人から聞いたと言ってきて来られる人が多いそうだ。

店名の由来をお伺いしました。独立準備で忙しいなか、屋号を決めないと書類も書けない。そんな時自宅の居間でぼーっと店名を考えていたら、壁に貼ってあった子供たちの写真などが目に飛び込んできた。そこで、お子さん二人の名前を組み合わせて「わかしょう」と決めたそうです。
「私の名前は一字も入っていないんですよ」と女将さんが口を挟みます。
「奥さまの名前は候補にあがらなかったんですか?」と伺うと、「まったく考えませんでしたね」と、このときばかりは穏やかさが影を潜めます。「24時間、一緒にいますからね」と。奥さまを随分と頼りにされておられるように感じました。

この日、鰍(かじか)という川魚の塩焼きをいただきました。近くの馬見ヶ崎川でご主人と息子さんが捕ってこられたもので、市場にも滅多に出回らないそうです。初めて食べた鰍は、川魚なのに脂が乗っていて、身の甘さとはらわたの新鮮な渋みが美味しい。山形最後の夜に素晴らしいお話しとお料理をいただきました。


***この日見た風景から(飯豊町、山形市)***

飯豊町で見つけたHOTEL SLOW VILLAGE。田園の真ん中にこのデザインが違和感なく目立っている。

同じくHOTEL SLOW VILLAGEのラウンジ。

HOTEL SLOW VILLAGEのスカイラウンジ。飯豊町のよい空気を満喫できそう。

山形市内の中心にある木造のカフェ。

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岩佐 文夫

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