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煙の臭いをかぎ分ける、炭焼き職人――宮城県七ヶ宿町にて

気仙沼ニッティング「東北探検隊」はこの日が最終日。気仙沼市から、宮城県でもっとも離れた七ヶ宿町へ行ってきました。
ここはほぼ、福島県と山形県の県境です。山間に囲まれた長細い町で、真ん中に国道が走っており、道沿いにいくつかの集落があります。田んぼや蕎麦畑が点在する水に恵まれた町で、人口は約1400人。宮城県で最も人口が少ない自治体で、町には信号が一つだけ。今年、町内で初のコンビニエンスストアが開店しました。

土曜日ということもあるのか、歩いている人も農作業をしている人も見かけません。町役場もお休み。道の駅で見つけた町運営のカフェに行ってみました。ここでランチを食べながらお店の人に聞くと、この村に炭焼き職人がいると伺いました。「七ヶ宿の白炭」としてブランド化もされているそうです。会ってみたいとお伝えしたらお電話して下さり、「いま外出されていて夜ならいいですよ」と承諾くださいました。

炭焼き職人の方のご自宅兼仕事場は、国道から山に向かう、ほとんど民家のない道を1キロほど走ったところにありました。お迎えくださったのは、佐藤光夫さんと奥さまの円さん。地元の方に紹介していただいたとは言え、初めての来訪者をご自宅の中にまでお招きいただきました。

佐藤さんは、20数年前にこの町に移住されてこられました。もともと名古屋で教員などをされていたのですが、「山の仕事がしたい」という思いがあり各地を回っていたところ、この七ヶ宿町で炭焼き職人の方にお会いすることになります。「その方の目を見て、すぐにここに住んで炭焼きをしよう」と思ったそうです。「こういう人を探していたんだ、とその方を見て思いました」。運命的な出会いで、師匠から炭焼きの技術を伝授してもらい。この地に定住されました。
奥さまともども自然の中での生活を志向されていたので、ご自宅も土台や柱以外は自分たちで作り、山の中での生活をされておられます。

木炭には、黒炭と白炭があって、火が付きやすい黒炭と、付きにくいけど火が長持ちする白炭とぞれぞれ利点があるようです。つくる工程も違い、木を炉に入れて炭にして、炉が冷めた後に炭を出す黒炭、炉の温度を維持したまま出来上がった炭を出すのが白炭で、約1000度の火に向き合う白炭づくりは体力的に相当きついそうです。
「1000度になった炉から素早く出来上がった炭を取り出し、次の木を入れる。だいたい2時間くらいの作業ですが、冬場でも熱い。夏はやりたくないですね(笑)」。白炭をつくる人は圧倒的に少なく、宮城県では佐藤さんひとりだけだそうです。
炉が1000度の状態になっているかは、目で見て判断するそうです。あとは炭の色が、透き通った色になってきたら出すタイミングで、長く入れすぎてしまうと炭化が進み過ぎ、出来上がりの炭の量が少なくなってしまいます。
炉に入れた木が炭になっているかを判断するのに重要なのは、けむりの臭いだそうです。「煙の臭いが軽いか重たいか、重いと辛い臭いがするんです」。このあたり、僕にはちんぷんかんぷんです。「臭いは言葉にしにくいですが、臭いの記憶ってありますからね」。
水蒸気の多い煙は軽いので空の方に向かう。水蒸気の少ない煙は重いので、1キロ先にまで漂うように匂ってくる。ご自宅にいても炉の煙の臭いを感じるとご主人は仰います。「だからクルマの運転をしていて、煙の臭いがすると、木が燃えているか、紙が燃えているのか、プラスチックなのか、わかりますよ」。

炭づくりの仕事は、炉と向きあうだけでなく、木を炭に適した大きさに切る作業も大変だそうですが、佐藤さんは機械を使わず、すべてご自身で木を切っておられます。そこまで手作業にこだわっておられるのかと思いきや「いえ、手で切った方がはるかに速いです。機械にセットして切って外してというのは、私にとっては効率が悪いんです」と。「木を切るのは腕力じゃないんです。体全体の筋肉を使って切るんです。体全体を使うことで、腕力もいらないし疲れない。それに早いんです」

とはいえ、歳を重ねるごとにこの仕事はきつくなってくるのかと思いきや「体力の低下より、スキルの向上が上回っているので、いまはだんだん仕事が楽に速くなってきています」。いまでもマサカリの使い方など、工夫を重ねておられ、いつもと違う切り方を試し、どの方法が自分にとってスムーズかを試すそうです。

お話しを伺った後には、奥さまがつくられた夕食もご馳走になってしまいました。地元でとれた野菜のスープや自家製タレをつかったお肉、ゴーヤの味噌合えなど美味しい。人里離れたこのお家の近くには、猿や鹿、イノシシは日常的。熊も珍しくないそうで、「熊はもともと大人しい動物なんで、こっちに人間がいるよって音で知らせてあげると何もしません」と奥さん。
最後に、ご主人佐藤さんの腕を見せてもらったら、やはり太い。そして堅い!「光夫君(奥さまはそう呼ばれます)は、家のものを触るとすぐに壊すんです。自分の力が強いのが分かってないんです」(笑)というと、「光夫クン」はバツが悪そう。

外の音がまったくしない山の中にあるご自宅には、手作りのものが溢れ、地元で捕れた食材で食事をつくる。探検隊の最後の夜は、こんな素敵ななかで過ごさせていただきました。ご自宅を出たら外は真っ暗。クルマを走らせると狸に遭遇。一か月に及ぶ探検隊の最後の最後に、またお会いしたい人がさらに増えてしまいました。

あとがき

お蔭さまで1か月に及ぶ東北探検隊は無事に終了しました。
素晴らしい機会をいただいた気仙沼ニッティング社長の御手洗瑞子さんに感謝いたします。
ブログを読んでくださった皆様、励ましのメッセージを下さったり情報を下さった皆さまにも、心より感謝いたしております。
そして何より、旅行中、東北のたくさんの方に大変お世話になりました。どこの馬の骨か分からない人間に、お話しを聞かせてくださり、ご飯をご馳走になることも、人を紹介してくださることも多々ありました。宿を提供してもらったこともありました。知らない東北を回り終えて、東北の行きたい場所が増えてしまいました。人の魅力が町の魅力につながりますね。心遣いをいただいた東北の皆さまに、心よりの感謝の気持ちをこめて、探検隊を終了します。ありがとうございました!!!!!!

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